優秀なフォロワーに選ばれるのがリーダーの仕事
「組織運営においてリーダーの及ぼす影響力は10%程度で、残りの90%は、部下であるフォロワーの人々の力が左右する」
こう説いたのは、米カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授である。
組織のパフォーマンスにフォロワーの力が90%も存在するならば、リーダーの最も大切な仕事は、優秀なフォロワー探し、ということになる。
ところが、これがただ探せばいいってもんじゃない。フォロワーに選ばれなくてはいけないとされているのだ。優秀なフォロワーであればあるほど、どんなリーダーにもかしずくわけではなく、自らの意思と判断でリーダーを選ぶ傾向が強い。
そして、リーダー選びの基準となるのが、次の3点だ
(1)明確なビジョン
(2)ビジョン達成への誠実さ
(3)批判や意見に耳を傾ける度量
リーダーの掲げるビジョンに、「おっ、これは面白そうだ! やってみたい!」と賛同する。
リーダーが誠実に向き合っていると確信した時に初めて、「この人と共に歩んでいこう」と決心する。
そして共に歩みながら、「自分の意見に耳を傾けてくれている」「自分の考えを受け入れてくれている」と感じた時に、「よし、やったるで!」とばかりに、自分のフォロワーとしての能力をいかんなく発揮するのだ。
フォロワーが優秀であればあるほど、リーダーを批判することを恐れず、「リーダーが間違っている」と思えば意見することも厭わない。真のフォロワーはフォロワーとしての確固とした意見を持っているのだ。
ところが、優秀なフォロワーがいれば、ダメなフォロワーもいる。
実はこのダメフォロワーこそが、優秀なフォロワー探しを妨げ、リーダーを堕落させる魔力を持っているのである。
ダメフォロワーの得意技はゴマすりである。ヨイショというワザも持ち合わせている。ダメフォロワーはリーダーのそばでリーダーに寄生することによって、組織の中で生き延びようとする習性を持っている。しかも、しぶとい。自分が生き延びるためには、ゴマすりやヨイショのワザを徹底的に磨きまくる。いわば、それが彼らにとっての仕事なのだ。
例えば、リーダーの掲げるビジョンがどんなにつまらないものでも、「素晴らしい!」とゴマをすり、どんなにリーダーが不誠実であろうとも「さすが!」とヨイショする。
ダメフォロワーのゴマすりは、「オレは絶対に正しい」というリーダーの思い込みを増幅させ、ダメフォロワーのヨイショは、「オレはすごい!」とリーダーの増長に拍車をかける。
ダメフォロワーほど、リーダーを心地良く、気持ちよく、ご満悦気分にさせるフォロワーはいないのである。
ひとたび「オレ様」になったリーダーが、元の姿に戻ることは滅多にない。自己肯定と増長がどんどん進み、「オレ様」度を高めていく。
思い通りにならないことがあれば、「何でお前たちは分からない」とイラつきまくり、退屈してくると「何でお前らは、意見を言わせても、まともな意見が言えないんだ」とプレッシャーをかけまくる。
意見をしてくるフォロワーがいれば、「アイツはオレの言うことを聞かない」と、仕事を奪い去ることもある。フォロワーが失敗することがあっても、「それはオレ様とは関係ない。アイツが勝手にやったんだ」と平気でポイと突き放す。
次第に、ダメフォロワーこそが、優秀なフォロワーであると信じるようになり、本当に優秀なフォロワーには永遠に出会えなくなっていくのである。
いや、たとえ出会えていても、優秀なフォロワーが意見した時、自分に歯向かうことのないダメフォロワーの蜜にすがる。何しろ意見されるのは面白いことではないから。部下の批判を受け止めるには、体力がいることだから。
ゴマすり、ヨイショのワザをかけてほしくて、ダメフォロワーだけと接触するようになり……。その結果、優秀なフォロワーは、「こりゃ、ダメだ」とどんどん遠ざかっていくのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
正に、私のサラリーマン時代に勤務していたオーナー企業の後継者の姿である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ダメフォロワー、恐るべし。ケリー教授が説いた「リーダーの資質10%」とは、ダメフォロワーのワナにはまらずにいられるかどうか、ということなのかもしれない。
いずれにしても、ダメフォロワーのワザにおぼれている限り、リーダーシップは発揮されない。つまり、リーダーシップを発揮できるリーダーとは、ダメフォロワーのワナをかいくぐり、優秀なフォロワーに出会うための“術”を知っている人なのだろう。
権力臭のないトップが実践していた3つのこと
従業員800人ほどの中小企業を切り盛りしている知り合いの経営者の方がいるのだが、私にはこの方に対してずっと不思議に思っていることがあった。その方はどこからどう接しても経営者特有の押しの強さがない。切れ者って感じの方でもなければ、自分の肩書きを振りかざすところもない。
うまく表現できないのだが、経営トップというものは、それがオーナー経営者であれ、サラリーマン社長であれ、性格や身だしなみ、立ち居振る舞いとは関係なく、独特の“権力臭”なるものがある。だが、その方にはそういうものが一切感じられないのだ。しかし、立派に事業を成功させ、いくつもの会社の業績を高めてきた。
「う~む。この方の“何”が、組織を動かしているのだろう?」という極めて失礼かつ、シンプルな問いが、私の長年の疑問だったのだ。
そこで、つい先日、勇気を出して聞いてみた。「何をしているのですか?」と。これまた実にざっくばらんな聞き方だったが、その方に「リーダーシップ」とか、「リーダー」という言葉があまりに似合わないので、ついついこんな質問の仕方になってしまったのだ。
社長という座にとどまるのではなく、自分からフォロワーに近づく努力を惜しまない。ビジョンがちゃんと伝わるように、伝わったか、と常に内省を繰り返す。フォロワーが耳を傾けるために、時にはお酒の力を借りてみたり。現場で空気を共に吸い、現場のフォロワーの声を無駄話の中に見いだそうとする。
多分、これが優秀なフォロワー探しにつながっているのだと思う。
実は、小さいながらも世界から注目されている会社、地味でありながらもシェアを拡大し続けている会社のトップたちを以前取材した時にも、全く同じことをしていた。
誰1人として、社長室にこもっていなかった。名経営者として注目を集める方でなくとも、優良企業としてメディアに取り上げられる会社でなくとも、組織が組織としてうまく回っている会社のリーダーは、自らフォロワーに近づく努力を怠らない。
これは何もトップに限ったことではない。課長は自分のフォロワーを、部長は自分のフォロワーを、相手が何を考え、何を思っているかを自分の目と耳、そして自分の感じる空気で五感をフルに稼動させ探り続ける。
これこそが、優秀なフォロワーと出会い、パートナーとしていい関係を築くために欠かせないリーダーの“術”なのだ。
そして、そういうリーダーのフォロワーたちは明るい。楽しそうに働いている。リーダーとフォロワーがマッチしている組織は、講演などで訪問するとすぐに分かる。
会場が温かいのだ。別に、エアコンが効いているからじゃない。温かい雰囲気が漂っていて、一体感がある。それは恐らく、自分の仕事が回っているという実感、進んでいるという満足感、リーダーと共にいるという安心感――。そういった心が少しだけ熱くなる瞬間を、フォロワー1人ひとりが感じているからなのだろう。
ローソクに火をともすようにフォロワーに接する
フォロワーはローソクで、そのローソクに火をともすのがリーダーの役目だ。火がともされたローソクは、自分の身を削りながら炎を輝かせようとする。いかなるローソクも、火をともすためにそこに存在しているはずである。
組織に存在するいくつものローソクに火がともされた時、組織は明るく、美しく、そして、熱くなる。
優秀なフォロワーがリーダーに求めているのは、カリスマ性でもなければ、強烈なトップダウンでもなければ、人望でもない。
ただ、火をともす、その行為だけを待ち続けているんじゃないだろうか。
つまり、リーダーシップとは、何ら難しいものではなく、ローソクに火をともす、という実にシンプルなこと。ダメフォロワーが、火をともす作業を妨げ、ワナにはまったリーダーはその火で自分が燃えようとする。
まぁ、最初から優秀なフォロワーの大切さに気づくことなく、自分自身が燃えることだけに執着するようでは、10%の資質すらなかったということになるわけだが。
日本のりーダーがコロコロ変わるのは、ダメフォロワーのせい? それとも、本当に、10%の資質すらなかったせい? どっちもどっち、ということなのか……。