税事務所の調査があった。
寺の状況を確かめるらしい。
お2人が約束の時間にいらした。
「よろしくお願い致します」
身分証を提示し、ご挨拶下さった。
「どうぞ、おあがり下さい」
こちらは、会計書類の写しなどを提出する。
後ろめたいことは、もちろんない。
しかしながら、なんだか緊張する。
時折、車の運転中、パトカーが真後ろに来ることがある。
(なんだなんだ)
何もしていないが平静ではいられない。
ソワソワしてしまう。
(堂々としいればいいんだよ)
やましいことはないのだから、それでいい。
だが、かえって不自然なような気もする。
その時の感覚と似ている。
「こちらです」
本堂、寺務室、客間、控え室、台所、倉庫、便所などの立ち入りが始まる。
(全部開けておこう)
どこもかしこも、扉を開いておいた。
手間を省けるようにするためである。
また、調査に前向きであることを示す意図も込めていた。
「おそらく30分で終わります」
所要時間だ。
(そんなにかけるのか……)
小さな町寺である。
一回りするだけなら20秒程しかかからない。
その広さを30分もかけて調べる。
くどいようだが、後ろめたいことはない。
しかし、神経は張り詰めてくる。
「客間に衣がおいてありますが、只今、干しておりまして」
口の中が乾きながら説明をくわえる。
(何をみているのだろうか)
そのようなことを知る必要はない。
それは、わかっている。
だが、気にかかる。
「では、これで終わります」
予定よりも早かった。
15分くらいで終了した。
(ふぅ~)
お二人がお戻りになった。
少し落ち着いた。
(調査結果はどうだったんだろう)
確認するのを忘れてしまった。
パトカーが後ろに付いた際、まれに停車を求められることがある。
「トランクも開けてもらえますか」
そう指示されたこともある。
「刃物は持っていませんか」
こんなことをきかれたこともある。
(えっ……)
凡人が、このような質問をうけるとかなり動揺する。
調査員からは驚くような質問をうけなかった。
そして今のところ、その後の連絡もない。
「決まりにしたがって運営できている」
そのように理解しておくことにしよう。
お釈迦さまのお言葉です。
『およそ苦しみが起るのは、すべて動揺を縁として起る。諸々の動揺が消滅するならば、もはや苦しみの生ずることもない』
【岩波文庫 ブッダのことば 中村元先生訳P167】
ありがとうございました。