先日、夢をみた。
冷や汗が止まらなかった。
龍笛の音が鳴らなかったのである。
お客さまの前で雅楽演奏をしていた。
その際、自分が独奏をするパートがあった。
高音が続くフレーズだ。
しかし、この大事な部分で音を出せなかったのである。
完全に失敗をしたわけだ。
(うわっ)
まもなく目が覚めた。
「……助かった」
夢だと気がついた。
ほんとうに安心した。
それから数日後、大法要で行う催しに向けて稽古があった。
仕事は坊主である。
都内の寺に勤めている。
この催しでは、自分に独奏役が与えられていた。
「ス~、ビャ~」
ところがまともな音が出せなかった。
夢が正夢になってしまった。
やたらと緊張していた。
口の中がカラカラだった。
吹く息が不安定で弱々しかった。
「しっかり息を入れろ!」
先生にお叱りをうける。
「フュ~」
ますます音が震える。
(なさけない……)
龍笛は20年近く習っている。
それなのに、未だに自信がない。
(どうすればいいのだろうか)
自分がどうなっているのか自覚できない。
何が原因なのかわからない。
一人で練習しているならば音が出る。
フレーズもそれなりに奏でられる。
(あっ。これはダメな感覚だ)
ところが、何かの拍子で緊張が始まる。
すると、しくじることとなる。
聴衆がいるからなのか。
先生が目の前に座っているからなのか。
「綺麗に演奏したい」
「上手に吹きこなしたい」
もちろん、これらは長期の目標である。
だが、目の前の演奏では、贅沢なことは考えていない。
(普通でいい。格好よくなくてもいい)
こんなことを自分にいい聞かせている。
(とにかく本番までには)
絶対に、何らかの対策をみつけておく必要がある。
やがて、当日となる。
支度を整え、リハーサルを行う。
(このまま乗りきれれば……)
準備段階では、なんとか音がだせていた。
「中止です」
直前で主任から指示が出た。
15分前になって雨が降ってきた。
催しは屋外で披露することになっていたのである。
(そうか)
一気に身体の力が抜けた。
しかし、今回の切迫感を私は記憶しておかなければならない。
次の機会の有無にかかわらず、危機感を持って稽古に臨むべきだからだ。
お釈迦さまの御教えです。
『心が沈んでしまってはいけない。またやたらに多くのことを考えてはいけない。腥い臭気なく、こだわることなく、清らかな行いを究極の理想とせよ』
【岩波文庫 ブッダのことば 中村元先生訳P155】
ありがとうございました。