龍笛を習っている。
雅楽の楽器の一つである。
坊主の仕事に就いてから始めた。
法要儀式にて雅楽演奏をすることがある。
だから、一人前にお勤めができるよう、勉強することにした。
33才から教わっている。
龍笛は、横笛である。
「新しい笛を吹いてみる?」
先日、式部職の先生が声をかけて下さった。
3本ならんでいた。
笛を求めている生徒さんがいらした。
そこで笛師に依頼をしていた。
それが4本仕上がってきたそうだ。
つまり、その生徒さんはすでにお気に入りを選び終えた格好だ。
「とりあえず、順番に息を入れてみなよ」
笛を手に取る。
ザラザラした感触だ。
新しい証拠である。
使いこんでいくと、表面の竹が滑らかな手触りへと変化していく。
(緊張するな)
先生の前である。
しかも、商品の楽器である。
手を震わせながら構える。
「息が入れやすいのは、どの笛?」
一通り音を出し終えると、先生から質問がきた。
「音色はどれが好き?」
矢継ぎ早に問われる。
「え~。あ~」
こちらは、先生に叱られないような音を出す意識だけで精一杯である。
細かいところまで気を向ける余裕はない。
「じゃあ、何か曲のさわりを吹いてみなよ」
先生と一対一で、加えて初めて触る笛である。
(お~。おっ!)
足まで震えてきた。
「もっと息が入るでしょ」
私が演奏を終えると、今度は先生が吹いて下さった。
(うは~)
全くちがう。
とてもいい音である。
曲が生きている。
これぞ音楽である。
「すばらしい笛ですね!」
思わず声が出てしまった。
名手が吹いてみないと、笛の良し悪しはわからない。
私が吹いてみたところで、笛の潜在能力を正確には引き出せない。
(それにしても……)
先生だって、初めて手にする笛である。
私と同じ条件である。
それなのに、衝撃的な差がでる。
約20年、私も稽古を積んでいる。
それなのに素敵な演奏は、未だ披露できない。
(センスがないなら、もう……)
一瞬そう考えた。
しかし、次の瞬間である。
(でも、もしかすると来週、自分は急成長するかもしれない)
イヤハヤなんとも。
まったくもって、馬鹿につける薬はないのである。
お釈迦さまのお言葉です。
『慢心によって「自分は勝れている」と思ってはならない。「自分は劣っている」とか、また「自分は等しい」とか思ってはならない。いろいろの質問をされても、自己を妄想せずにおれ』
【岩波文庫 ブッダのことば 中村元先生訳P200】
ありがとうございました。