潮風にふかれて | 「ゆるりと仏教」いも掘り坊主の与太話

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「念死念仏 常途用心」
仏さまの御教えを、拙僧のエッセイとともに紹介しています。
ほとんど与太話(^_^;)ですが、法話らしきものも書いています。
つたない文章ですが、笑ってもらえたり、うなずいてもらえたりしたら嬉しいです。
毎週水曜日に更新しています。

少しだけ時間に余裕ができた。

 

ずつと立て込んでいた。

 

仕事が重なるときは重なる。

 

仕方がない。

 

人事の中にながくいると思考がとまってくる。

 

(海を眺めに行こう)

 

用事を済ませた後、近くの海辺に立ち寄った。

 

大田区の平和の森公園だ。

 

小春日和だった。

 

街中を流れてきた川が海にそそぐ。

 

そこに橋が架かっている。

 

橋の上から辺りをみまわす。

 

緩やかな風が吹く。

 

波がたつ程ではない。

 

浜辺の木々は紅葉している。

 

茶色や黄色の葉が風に合わせて落ちていく。

 

(気持ちいいな)

 

カモメが前方を横切った。

 

水面にはカモが泳いでいる。

 

二羽、浮いていた。

 

(かわいいな)

 

一羽は小さい。

 

子どものようだ。

 

(おっ!)

 

子ガモが浅瀬の岩場で潜った。

 

やがて数メートル先で浮上する。

 

(おぉ!)

 

小魚をくわえている。

 

殺生に感心してはいけない。

 

寺に勤めている身である。

 

しかし……。

 

もう一羽はやや深いところで潜りを繰り返している。

 

親ガモだろうか。

 

橋の真下には魚影がみえる。

 

大きい。

 

(黒鯛だろうか)

 

あるいはスズキかボラか。

 

岸辺の法面(のりめん)には囲いがしてあった。

 

ビニールの紐で仕切られている。

 

「菜の花の種をまきました」

 

立て札があった。

 

あかるい緑色の芽がでてきている。

 

(元気だな)

 

園内の芝生ではちびっ子たちが走りまわっている。

 

大騒ぎである。

 

ベンチにはご老人が腰掛けていた。

 

景色をみているようだった。

 

背広をきた若い人が橋の上を歩いていた。

 

(人事の関わりかな)

 

携帯電話を手にしていた。

 

文字を打ち込んでいる様子だ。

 

(そろそろ戻ろうか)

 

自分に向かって語りかける。

 

帰り道、おだやかに車を運転する。

 

「一切唯心造(いっさいゆいしんぞう)」

 

お経の句を思い浮かべる。

 

(思い込みを減らしてみたい)

 

潮風にあたれたお陰かもしれない。

 

無い頭だが回りはじめた。

 

(人が携わっていること、いないこと)

 

こんなこと人事では役にたたないかもしれない。

 

それでもいい。

 

頭を捻ってみたい気分なのである。

 

 

お釈迦さまのお言葉です。

 

『この世のものを浄らかだと思いなして暮し、眼などの感官を抑制せず、食事の節度を知らず、怠けて勤めない者は、悪魔にうちひしがれる。―弱い樹木が風に倒されるように。この世のものを不浄であると思いなして暮し、眼などの感官をよく抑制し、食事の節度を知り、信念あり、勤めはげむ者は、悪魔にうちひしがれない。―岩山が風にゆるがないように』

 

【岩波文庫 ブッダの真理のことば・感興のことば 中村元先生訳P11】

 

ありがとうございました。