卒塔婆供養のご依頼を沢山受けた。
複数のお宅から同日に連絡が入ったので驚いた。
「せめて卒塔婆供養だけでもお勤めしてもらいたい」
このような世情なので、地方にお住まいの方はお参り来るが難しい。
だけれどもご供養のことが気にかかる。
そこでご依頼をいただいた格好である。
お気持ちはとてもよくわかる。
早速準備にとりかかる。
ちょっと悲しいのだが、「卒塔婆」には忘れられない出来事がある。
準備をしていると、つい思い出されてしまう。
十年以上前ことだ。
「卒塔婆(そとうば)とは言いにくいから、塔婆(とうば)でもいいよね」
葬儀の後席で参列者のお一人に質問をうけた。
無理に厳密になることもない。
「大丈夫ですよ」
普通に答えた。
「でも、なんで卒塔婆なんて言うのだろう」
先程の方が再びつぶやいた。
「卒塔婆はストゥーパの音写語です。サンスクリット語に漢字を当てたのです」
私は授業で教えていただいたことを返答した。
すると……。
「ストゥーパは、お釈迦様の御遺骨が祀られている塔だ。だからストゥーパと卒塔婆は別に決まっているじゃないか。いい加減なことを言うな」
凄い剣幕でお叱りをうけてしまった。
「ちょっと、あなた。若いお坊さんなんだから、いじめないでよ」
喪主さんにかばっていただく始末だった。
とても優しい喪主さんである。
でも……。
卒塔婆は、ストゥーパを模したものである。
仏さまをご供養するために仏塔を建てる。
心を込めて仏塔を建てたなら仏さまからご功徳を頂ける。
卒塔婆も同じである。
通常は、ご功徳を自らが頂きたいと願う。
しかし、法要のときは故人さまにご功徳を回し向けていただく。
故人さまの増上菩提を願って卒塔婆を建てる。
どうしてかばってもらうことになってしまったのか。
何で叱られてしまったのだろうか……。
気が小さいので、長い間トラウマになっていました。
そろそろ墨の用意もできてきた。
気を取り直して丁寧にお書きしよう。
お釈迦様のお弟子さまの御教えに、以下のお言葉がございます。
『四つ辻に、修行完成者のストゥーパをつくらなければならない。そこに花輪、または香料、または顔料をささげ、あるいは礼拝をなし、あるいは心を浄めて信ずる人々は、長いあいだ利益を得、また幸福となるであろう』
【岩波文庫 ブッダ最後の旅 中村元先生訳p168】
ありがとうございました。