小学生が歩いていた。
傘を引きずっていた。
案の上、先端の丸い部分は削れていた。
懐かしくなった。
傘を持っていても使わないときがある。
帰りにはやんでしまった。
前の日に学校に忘れてきた。
そんなときは、ズルズルと引きずって歩く。
先端は削られていく。
傘の思い出……。
激しい雨のときは出来ない。
しかし、たいした降りでないときできる。
「バッ」とひっくり返して歩くのだ。
オチョコにして雨をためる。
雨がたまってくれば、「ビシャッ」とこぼす。
「うぉー」とか「すっげー」とかと叫ぶ。
皆で騒ぐ。
雨樋から水が溢れているところがある。
そこはスペシャルスポットだ。
「おりゃー」
みつけるなり気合いを入れて一気に雨水を溜める。
初めは慎重に溜めていく。
が、だんだん調子に乗ってくる。
案の上、誰かが大失敗をする。
濡れになる。
ここでお開きとなる。
ゴルフスイングもある。
チャンバラもある。
しかし、これらが盛り上がることはあまりない。
大概まもなく強制終了となる。
「傘を振り回したら危ないじゃないか」
「喧嘩になるからやめろ」
そんなふうに大人に注意されるからだ。
傘の巻き取りの上手い子がいた。
ちょっとしたヒーローだった。
しまう際、多くの子はグチャグチャにしか巻けない。
しかし、1人か2人はシャープに巻ける子がいる。
その子が巻くと感動する。
「おぉー、カッコ巻きだ」
カッコ巻きとは、かっこいい巻き方の略称だ。
折りたたみ傘までも綺麗に巻ける子がいた。
こうなると「神」扱だ。
ただし、いたのは女神だけだ。
男で出来る奴がいるわけない。
マンホールの蓋の穴に先端を刺すこともした。
道中、マンホールは次々とやってくる。
マンホールには底が空いていない穴もあった。
そういう所では、たまった汚れをほじくりかえした。
昔の記憶が甦る。
懐かしさが増す。
おもわず、近くのマンホールを探してしまった。
「やめておこう」
穴にさし込むのは直前でやめた。
抜ききる前に歩き始めたことを思い出したのだ。
この年で傘を曲げてしまうの恥ずかしい。
お釈迦さまの御教えに、以下のお言葉があります。
『矢でも、とらえかたを誤ると、手のひらを切るように、修行者の行も、誤っておこなうと、地獄にひきずりおろす』
【岩波文庫 ブッダの真理のことば・感興のことば 中村元先生訳P194】
ありがとうございました。