中央線の国分寺駅での出来事だ。
中央特快から快速に乗り換えようとホームに出た。
発車までには少し時間がある。
喉が渇いていたのでホームの自販機へお金を入れた。
ボタンを押す。
「ガチャン」
コーヒーが落ちてきた。
ところが、一つではなかった。
次から次へと落ちてくるではないか。
妙なことした覚えはない。
間違いなく機械の故障である。
「なにしてんだ」
それなのに、周りの人の視線は冷たい。
不思議なもの見るような目をする。
慌てて出入り口の蓋は抑えた。
取り敢えず缶コーヒーが転がり出ることは防いだ。
しかし、このまま放置しておくわけにもいかない。
運良く駅員さんが通りかかった。
「すみません」
恥ずかしながらも大きな声で呼び止めた。
事情を話すと、有り難いことに私の話を信じてくれた。
やり取りを終えるとまもなく発車時間となった。
あわてて列車に飛び乗る。
ほっとして座席にこしかける。
「あっ」
しばらくしてコーヒーを忘れたことに気がついた。
もう手遅れだった。
逆もあった。
場所は羽田空港の近くの公園だ。
ランニングをしたので喉が渇いていた。
スポーツドリンクを買うために自販機へお金を入れた。
ボタンを押す。
「……」
落ちてこない。
おかしい。
お金も戻ってこない。
故障に違いない。
「電話した方がいい」
一瞬、そう考えた。
ところが、喉がとても渇いていた。
自販機の会社へ連絡するのが面倒だった。
そこで、再びお金を入れてみた。
やはり出てこない。
警報器がなるのはこまる。
だから、軽めにたたいた。
変化なし。
仕方なしに「お客さま相談センター」の番号を押した。
ひとしきり説明をすると驚きの返答がきた。
「そちらへ行けるのは、今から3時間後になります。お待ち頂けますか」
ジュース一本にそんなに待てるわけがない。
落胆のあまり、つい返金の提案までも断ってしまった。
「あーあ」
再び電話するのも恥ずかしい。
後悔しても、手遅れだ。
お釈迦様の御教えに、以下のお言葉があります。
『心が安住することなく、正しい真理を知らず、信念が汚されたならば、さとりの智慧は全からず』
【岩波文庫 ブッダの真理のことば・感興のことば 中村元先生訳P15】
ありがとうございました。