コロナ前の話です
あるデパートの催事場で、靴のバーゲンがありました
私は、あらかじめチラシを見ていて、ある靴を狙っていました
催事の初日は、なかなか、ごった返しています
開店と同時に、催事場に突入した私は、お目当ての靴を探し当てました
自分のサイズの靴を選び、試し履きをしていました
バーゲンの靴なんて、大抵、棚に並んだサイズしかありません
そして、事件は起きました
私が試しに履いていた靴の、もう片方が見当たりません
棚から消えていたのです
なんと、別のご婦人(私より、ひとまわりほど年上かな)が持っていました
彼女のサイズも、私のサイズと同じようです
彼女も、片方を試し履きしていたのでしょう
二人とも、その片方ずつの靴を持って、対峙し苦笑い
でも、お互い、譲るものかという気迫もにじんでいます
そこへ、ちょうど、男性の店員さんが、通りかかりました
フレッシュな好青年です
私は彼を呼び止め、事情を説明し、在庫があるかチェックするよう頼みました
途中、ご婦人も、横から口を差しはさんで来ました
彼は、おばさん二人の気迫に気圧され、ひきつった笑顔を浮かべ(苦悶の表情で)、バックヤードへ小走りに駆けて行きました
その間も、くだんのご婦人と私は苦々しい表情で、片方ずつ靴を持って、待っていました
居心地の悪いひとときでした
遠くに、彼の姿が見えました
彼は、「ありましたーっ!」と、元気よく戻ってきました
一番、ほっとしたのは、彼だったでしょう
私とご婦人は、それぞれ同じ靴を一足ずつ持ち、会計へ向かいました
その後、売り場からは、
「お試し履きは、左右両方をお持ちになってくださ~い」
という叫びが聞こえていました