この記事は、
イヤホン/ヘッドホンのレビューを“再現性”という観点で評価するための記事です。
その方法として、
「イヤホン/ヘッドホンの「レビューを評価する」ためのチェックリストを作ってみた」
というもの。
数多あるイヤホン/ヘッドホンのレビューですが、筆者もやっていたりしますので
ドデカブーメランが自分に刺さるのは覚悟のうえで、(読み返したら既に刺さってましたが..)
「今後」筆者がレビューをする際には、このリストを使って気を付けたいと思いま~す。
さて、レビューを読むとき、
つい「音が良さそうかどうか」だけを見てしまいがちです。
しかしオーディオ関係の評価は本来かなり条件依存の強い行為だったりします。
気を付けたい点として、
・音量が違えば、周波数バランスは変わる
・音源が違えば、そもそも別の音になる
・試聴条件が書かれていなければ、レビュアーの評価した音と同じ音が再現できない
結構、このあたりに無頓着なレビューがあったりしますし、レビューを見る側の方でも、
前提知識があった方が、より気になる商品の特性が理解できるんじゃないかと思います。
自分がその商品を実際に手にした時、
「レビュアーさんが言っていた評価にどのくらい再現性がありそうか?」
という点を中心にしてレビューを評価したらいいんじゃないかなぁ、と思ったので、
チェックリストを作ってみました。
チェック項目が何故必要なのかについての理解がはかどるように、
やや詳しめに説明(筆者調べ)を付けています。なので、記事のボリュームが結構ありますが、
「チェックリスト長いよ~」って思った方は、まずは、
1. 再生音量、2. 音源、3. 比較条件、だけ見てもらったら良いかと思います。
レビューの良し悪しを判断するチェックリストではなく
・レビューしていただいたレビュアーさんの情報の価値を最大化するリスト
です。
よろしくお願いします。
※イヤホン/ヘッドホンのレビューを評価するチェックリスト
0. 前提
□ 同一条件で再現できる情報が揃っているか
→ セクション内で1つ欠けるとその分、評価や再現度が低下します
1. 再生音量(最重要)
□ 音量の記述がある(dB、または具体的な目安。機材のボリューム量など)
□ 小音量/中音量/大音量のどれかが明示されている
□ 音量固定で比較している記述がある
理由:
人間の聴覚は 等ラウドネス曲線 により、
音量に応じて聞き取れる周波数バランスが変化します。
機器の問題ではなく、人間の聴覚の方の特性です。
ざっくり75dB以下あたり(個人差あり)から、
人間は低音と高音がどんどん聞き取りにくくなります。
音量が書かれていないレビューだと、
本当に機器側の特性で低音・高音が出ているのか、出てないのか判断がつかなくなるわけです
では、評価音量の目安はどのあたりなのでしょう。
多くの場合、実用的なリスニング音量は75~80dBあたりとされています。
参考として、音を作る方の制作側のモニター環境では、
・映画制作現場など:85dB前後
・小規模スタジオ:79dB前後
といったリファレンスの音量レベルが用いられることがあります。
そのため、「制作者の意図に近いバランスで聴く」という観点では、
このあたりの音量帯が一つの基準になると考えることはできます。
一方、再生側のメーカーの方では、イヤホン/ヘッドホンのチューニングについて、
メーカーが特定の音量を業界標準として前提にしているという明確な根拠・情報は、
調べた限りではありませんでした。なので、特定の音量において、
「イヤホン/ヘッドホンが本来(メーカーの意図した)音になる」
と断定することはできないのですが、少なくともこのあたりの音量帯が、
多くの製品でバランスよく聴こえやすい目安の数値の一つであると捉えておくのが、
現実的・実用的だと思われます。
2. 音源(重要)
□ 使用音源が具体的に記載されている(曲名/バージョン/リリース情報)
□ マスタリング差の可能性に言及がある
□ 比較に同一音源を使っている
理由:
ハイレゾ音源だから音がいいわけではありません。
「ハイレゾ音源で出すからいい音でマスタリングしなくちゃ」という圧力がかかるから
「比較的音がいいものが多い」と了解しておけばいいかなぁ、と思います。
音源は統一されたフォーマットであれば基本的に可ですが、
評価用途のリファレンス音源はロスレス(可逆圧縮方式の音源)が望ましいといえばそうです。
ですが、ハイレゾやロスレスかどうかよりも前に、
マスターとなる音源の品質がかなり重要であることは強調しておきます。
また、配信版・CD版・リマスター版・ハイレゾ版で音の傾向が結構変わることがありますので
(ほぼ何も変わらないのもあります....それはそれでいいのか問題....)そこも注意です。
曲名だけでどの版かわからない場合は注意が必要ということです。
また、ワイヤレスイヤホンの場合ですが、ワイヤレス接続規格(コーデック)により、
音源自体の質の他にも、機器からイヤホン/ヘッドホンに電波で音を伝送する方式(音声コーデック)によって音が変わる可能性があります。
通常、同じ製品でも数種類の規格の伝送方式を持っていたりするので、
どの規格のコーデックを使用してのレビューかが明記されているか、
比較の場合なども同じ接続規格(コーデック)になっているか、などに注意が必要です。
厳密には同じコーデックでも電波状況が悪い状態では音が悪くなったりもします。
3. 比較条件(重要)
□ 比較対象機種が明示されている
□ 音量が揃えられている記述がある
□ 切替方法(即時A/B切替の比較方法かなど)が明示されている
□ 再生機材(スマホ直とか専用アンプとか)が明示されている
理由:
わずかな音量差でも、それだけで「音質差」として知覚されることがあります。
原則、より大きな音量の方がよい音と判断されやすいのです。
イヤホン・ヘッドホンは入力インピーダンス(信号入口にある抵抗値)や駆動機構(ドライバの種類)により、同じ再生機器の同じジャックから、同じボリューム数字で音をとっても、
イヤホン/ヘッドホンの機種ごとに聴こえる音量は変わります。
そこは再生機器側でイヤホンに合わせて調整してやらないと正しく評価できません。
調整は結構むずいです。
また、イヤホン・ヘッドホンは、鳴らす側(再生機材)の「出力インピーダンス」(信号出口の方の抵抗値)の数値によって周波数特性が変わる可能性があります。再生機器を変更して試聴した場合、音に変化が起こる可能性がある(特にBAドライバー(後述)搭載機で目立つようです)ことは注意が必要かもしれません。
4. 評価語の具体性(前提知識)
□ 「解像度」「空気感」などの語に説明が付いている
□ 周波数帯域(低域/中域/高域)に分解している
□ 具体的な音の変化(例:ボーカルの位置、シンバルの減衰)が書かれている
理由:
抽象語のみのレビューは再現が難しく、読み手によって解釈が分かれます。
こればっかりは何とも言えません。例えば、測定数値を示すことは客観指標になりますが、数値だけでは音のイメージが出来ないのも事実です。
筆者なら、レビュー品の他に比較対象を用意して同じ音源で条件を揃えて、
高音楽器、ボーカル、低音楽器の音の出方を「相対的」に説明する感じでやります。
長くやってらっしゃるレビュアーさんなら、
リファレンス曲やリファレンス機器の情報が蓄積されているでしょうから、
過去記事とかとの比較で相対化ができるかもしれないです。
まあ、体調や加齢によっても音は変わるので、数年前のレビューがあてになるかは厳密には微妙だったりします。
筆者は調子が良くても、
高音では14kHz~16kHzあたりに限界があります(それ以上は聴こえない)。
動画サイトには周波数チェック用の動画(リニアスイープ音とかのタイトル)が沢山あるので、
出来れば、複数回・一定の期間に渡って、或いは定期的に、
自分の「聞こえ」を確かめてもいいかもしれません。
5. 周波数特性:「フラット」の扱い方(前提知識)
□ フラット特性を絶対視していない(理解しているか)
□ 聴感とのズレ(個人差・装着差)に触れている
□ 必要に応じてEQ前提の議論になっている
理由:
イヤホンは装着状態や個人の耳の形状によっても特性が変化します。
また、「フラット」という言葉は複数の意味で使われるため注意が必要です。
・機器が測定上フラット>入力された周波数(帯域)を歪なくフラットに鳴らす性能
・人間の聴覚の物理特性のフラット>等ラウドネス曲線に沿った「聴覚の物理特性上」
・人間の統計的嗜好モデルに沿ったチューニング>ターゲットカーブ(Harman Target等)に沿ったチューニングで自然な聴こえ(≒フラット)
以上のどれのことを指しているかが明示されているかについて注意が必要かと思います。
(ややこしいついでに、イヤホンはさらに耳の外耳の共鳴も補正したりしなかったりします)
レビューで言及されているかで評価は変わってくると考えられます。
また、一般的に大量生産品は品質検査を頑張っても個体検査をすり抜ける率も増えるため、
レビュアーの個体と実際自分が手にした個体がメーカー公称の特性とどの程度一致するのかについては一定の割り切り、或いはマイナーなメーカーについてはメーカーの品質管理などの情報が必要になってくるかもしれません。基本的に実用上は問題ないケースがほとんどですが、理由は色々あるのでしょうが、稀に、個体差が暴れている製品もあるようです。
また、周波数特性による、鳴りにくい音、鳴りすぎな音は、EQの調整でも対応が可能です。
使用に抵抗がなければ、商品の選択肢が格段に広がると思います。
6. ドライバー構成(前提知識)
□ ドライバー数や種類に言及がある
□ それが音にどう影響しているか説明されている
□ 「数が多い=良い」とは書かれていない
理由:
多ドライバー構成は音のチューニング、聞こえ方の自由度を高める一方、
クロスオーバー(それぞれのドライバーは特定の得意とする周波数の再生を担当するので、複数のドライバー間でクロスする(重なる)音を調整する必要がある)部分や、位相の整合(複数のドライバーから出る音の波がぶつかると、音の波が変な感じに合成されて、音量や聞こえ方が変わってしまうので調整の必要がある)など設計上の難易度も上がります。
詳しい説明は調べていただくとして、種類としては、
ダイナミック型(D、DD)、バランスド・アーマチュア型(BA)
平面磁界駆動型(プラナーマグネティック型)、静電型(コンデンサー型/EST)
骨伝導型、MEMS型(シリコン製ドライバー)
などがあり、ハイブリッド型はこれらを組み合わせたものになるのですが、
搭載ドライバーの「数」とドライバーの「種類」が多ければ多いほど、
職人技級の調整・チューニングが必要になります。
また、ドライバーの数や種類だけに言及されていないか、
ドライバーの特性に合った視点からの評価になっているかは判断材料になるかと思います。
※余談ですが、ハイエンドカテゴリーの製品では、上記から4種類のドライバーを使い、
合計16個のドライバーを搭載するイヤホンとかがあります。筆者的に、イヤホンの大きさという制約がある中で、16個のドライバー間の音の出方の調整、しかも左右それぞれの定位(左右のイヤホン/ヘッドホンでどれだけ音の出方が揃っているか)の調整をするなんて、手間や難易度を想像するだけで、ちょっと気が遠くなります。
7. スペックの扱い(前提知識)
□ 周波数レンジ・THD・ダイナミックレンジが過度に強調されていない
□ 実際の聴感との関係が説明されている
理由:
現行の製品は、基礎スペックの段階で聴覚要求を満たしている場合が多いですが、
人間の聴覚上、問題になりにくい範囲の目安は、
・周波数レンジ:20Hz 〜 20kHz
・THD:0.1% 〜 0.01%
・ダイナミックレンジ(実効S/N比):90dB ~ 100dB(120dBは理想だが実際の使用環境では活用しきれないケースが多い)
あたりです。現在ではよほど安価な製品や電波の悪い状況でもない限り、
この基準は多くの製品が満たしていると思いますが、例外もありえますのでそこは注意。
逆に、これ以上のスペックが保証されても、自分の聴覚に寄与する割合が減るので、
コストパフォーマンスが悪くなる可能性が高くなります。
スペックを上げるということは、部材費の上昇とか、設計や実装が難しくなる手間賃などとトレードオフの関係がありますから、自分に必要なスペック(基準)がはっきりしている程、適切な費用対効果を得られると思います。
蛇足ながら、ややこしいポイントとして、
・ダイナミックレンジ: 機器が性能として持っている最大ポテンシャル
・S/N比:今出ている信号に対して、どれだけノイズが少ないか(こっちの方が実用向き)
です。
8. 使用条件(前提知識)
□ 装着方法(イヤーピース、フィット感)に言及がある
□ 使用環境(静音/屋外など)が書かれている
理由:
装着状態は特に低域に大きく影響します。イヤーピース交換等で対応ができる場合があります。
そのあたりを考慮すると選択肢が広がると思います。
使用(レビュー)環境ですが、
・環境音(外部ノイズ): 車、風雨の音、虫の声、家電の動作音(ファン音やモーター音)など
外部ノイズの影響をなくす為にレビュアーに「防音室」まで要求するのは現実的ではありません。一般的に、密閉型のイヤホン/ヘッドホンであれば、それ自体に遮音効果(-20dB程度)があるので、実際に耳に届くノイズレベルは「静かな部屋(30〜40dB)」なら差引10〜20 dB程度になります。流す音でマスク(かき消される)されることを考慮して、レビューにおける環境音の影響については比較的軽微だと思いますが、言及されていれば判断材料になります。
また、耳をふさがない密閉度の低いイヤホン/ヘッドホン(オープン型・セミオープン型・骨伝導型・イヤーカフ型など)のレビューでは、それなりに無視出来ない影響がでるので、環境ノイズの状況について言及されていた方が判断・評価しやすいでしょう。
最近は、ノイズキャンセル機構が付いたものがありますが、オン・オフで音が変わることがある点は注意が必要です。オン・オフ双方のモードでのレビューがあれば、例えば、電車内と自宅で聞こえがどうなるか、オン・オフどちらを重視するか、などの判断材料が増えます。
※雑音ついでの余談ですが、
雑音には、電気的ノイズ(機器が、信号がない状態で常に発生している背景雑音(ノイズフロア))というものもあり、低インピーダンス(高感度)なイヤホンなどで起こる可能性が高くなりますが、レビューで「サー音」などが聞こえるなどの言及があった場合、機器同士の相性の問題というケースもあるので、再生機器やアッテネーター(減衰器)によって対応可能な場合があります。ご自分の環境で対応出来そうであれば、選択肢は増えるかと思います。
9. リスク管理(安全性)
□ 高音量評価の場合、その時間や前提が明記されている
理由:
安全性に関して配慮されているかは、レビュアーの誠実さの判定でもあるかと思いました。
WHOの推奨値として耳の健康を保つ使い方として、
・成人の場合:80dBで週40時間
・成人未満の場合:75dBで週40時間
を許容基準としています。(75〜80dB:地下鉄車内や飛行機の機内と同程度の音量)
また、評価用の音量と日常的なリスニング音量は分けて考える必要があります。
自分が「大きめの音量を短い時間使う」のか「小さめの音量で比較的長時間使う」のか
あらかじめ自分がよく使う「使い方」を想定しておいた方がよいでしょう。
等ラウドネス曲線により、音量が小さい場合は低音と高音が聞き取りにくくなるため、
一般的に低音量で聴く機会が多いなら、ドンシャリ傾向(低音と高音が強調されているチューニング。ドンドン(低音)とシャリシャリ(高音))の製品と相性がよい可能性があります。
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お疲れ様でした。判定はいかがだったでしょうか?
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〇簡易判定(レビュー全体として)
7項目以上クリア → かなり参考になる(但し、チェックの無い項目は割り引いて判断する)
4〜6項目 → 条件付きで(チェックされた項目について)参考になる
3項目以下 → 印象レビュー感がぬぐえないかも...(チェックされた項目については参考になる)
レビューは分類するよりも「再現できる内容か」を評価した方が有益だと思います。
なので「判定」は本来、記事の趣旨から逸れますが、今後レビューチェックする際に、
真っ先に見に行くレビュアーさんリストの作成に利用できるかも?
と思ったので、参考までに付けました。
あくまで原則は、商品を手に入れ自分が実際に使用した時に、
本当にレビューに期待していた事と同じような製品であるかが重要ということに変わりはなく、
レビュー記事内の一部分であっても、再現性が担保された内容なら、
その部分のレビュー内容には価値がある、という趣旨は変わりません。
あらためて、
・音量が違えば、音は変わる
・音源が違えば、音は別物になる
・条件が書かれていなければ、再現できない
この3点を押さえておけば、レビューの読み取り方が安定すると思います。
また、予め、自分が欲しい音質、よく聴く音量、よく聴く音楽ジャンル、あとは自身の耳の聞こえ、について明確にしておくことで、「何かすごそうだから欲しくなるw」を防げると共に、
妥協点を事前に決めておくことで、購入費用に対する製品の満足度が高くなると思います。
最後に、
この記事の情報は、筆者が個人的に公開情報を使って調べた知見で構成されていますが、念のため、複数のメジャーAIにも間違いがないかどうかのチェックをさせ、気になった指摘があれば、AIが示したリンク先の確認をし、問題があれば適宜修正しています。あくまで筆者が調べて解釈した範囲の情報なので、正確性に問題があると思われる部分については、ご自身で調べ直していただければと思います。
判断材料を増やすため、レビューの価値を増やすためのツールとして、
このチェックリストを使ってみていただければ幸いです。
以上です。

