京都老舗の名旅館であり日本料理店である近又で朝食を取った。
1801年創業の近又の店内に入ると
七代目が直々に迎えいれてくれた。
陸上をやっていて傷めた膝の関係もあり今回はテーブル席でお願いしておいた。
後で聞くと座敷にテーブルをセットすることもできると言う。
テーブルの置いてある部屋はモダンでイタリアの内装素材やデザイン技術を取り入れている。
玄関に合わせて和式にこだわると莫大な費用がかかるらしい。
このモダンな洋風だが違和感のない空間内にはベートーベンの曲が流れていた。
最初に上等なお茶が出る。
お茶を飲んでいると程なく朝食を載せたお膳が運ばれた。
まずは一昼夜寝かせて味を馴染ませ落ち着かせた胡麻豆腐を味わう。
滑らかでねっとりしているだけではなく味が深い。
器の端に何気なく置かれている少量の出汁醤油が心憎い。
続いて二種類の京野菜の料理である。
一つは聖護院蕪の田楽味噌載せで、もう一つは聖護院大根の炊いたんである。
聖護院蕪の田楽味噌載せは蕪そのものも美味しいが田楽味噌に品と強さと複雑味がある。
そこはかとない甘さがたまらない。
聖護院大根の炊いたんは出汁が秀逸で一緒に炊いてあるかしわが素晴らしい質のもので美味しかった。
焼き鮭は質は勿論だが塩加減、焼き方とも完璧であった。
朝食に食べて美味しい鮭の究極の形ではないだろうか。
豆は硬めに炊いてあっていいお味である。
そして、ご飯と味噌汁である。
ご飯は予約をした時間に合わせて炊きあげてあった。
やや軟らかめの品のいい米の甘みを感じさせる白米でやるせなくなるほど美味しい。
ご飯茶碗は北大路魯山人のようなデザインで私は好きだ。
味噌汁は出汁の旨さが充分に感じられるまさに京都懐石料理店の作る朝食の味噌汁の味であった。
漬物も凄かった。
私は沢庵はあまり好きではないのだが、自家製の味の良さだけではなく、何と沢庵の端に包丁の切り込みを施していた。
食べやすいはずである。
こういうちょっとした技と心遣いが嬉しいものなのである。
そして一拍置いて出されたのが焼きたてのだし巻き玉子であった。
出汁がたっぷりなので気をつけないと火傷をする。
その美味しさは今まで食べた出し巻き玉子の中でも五指に入る美味しさであった。
ちりめん山椒も美味しく最後は焙じ茶を少しかけて食べる。
焙じ茶を飲みながら
至福の時を振り返りその大事で美しい時間に暫し耽るのであった。
その後七代目のご主人に建物の中を
案内してもらい、
店を出た。
この老舗の名店のご主人も私が見えなくなるまで見送りをしてくれるのだった。
真のホスピタリティとはこういうことを言うのである。
どこぞのイタリアンのマネージャーに見せてやりたい。