注目の裁判…最高裁、国税当局を支持
令和4年4月19日に、相続対策の一環で取得したマンションを路線価で評価することにより相続税がゼロ円となった相続税申告を認めないとする最高裁の判決が示されました。
相続税申告における一般的な不動産の評価手法
まずは相続税を計算する際の、一般的な不動産の評価方法をみていきます。
市街地の土地の評価額は以下の通り計算します。
土地の相続税評価額 = 相続税路線価 × 面積 × 補正率
(賃貸の場合、さらに×約0.8)
相続税路線価とは、相続税を計算する際に使用される、対象の土地が面している道路ごとに付された1㎡あたりの金額で、その土地の周辺の時価として公表されている公示価格のおよそ80%の金額として設定されるため、土地を購入した場合の相続税評価額は、時価の約80%となります(地域や土地の形状によって、時価と相続税評価の乖離はより大きくなることもあります)。
土地を取得することで財産評価額を圧縮し、相続税の軽減を図ることができます。
また、建物の評価方法は以下の通りです。
建物の相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0
(賃貸の場合、さらに×0.7)
建物の固定資産税評価額は、新築時で建築価格の約50~60%(建物の規模や構造、築年数などによって変わります)が目安となりますので、建物を建てることによっても財産評価額を圧縮し、相続税の節税ができることになります。
「相続税法」と「財産評価基本通達」の位置づけ
前出の評価方法は、国税庁が定めた財産評価基本通達(以下「評価通達」)に規定されており、相続税申告における不動産も含めた財産の評価は、一般的にはこの評価通達によって行われています。
ここからは法律的な話になりますが、相続税法(22条)では、相続財産は相続時の「時価」で評価するように定められており、また、評価通達1(2)において「時価」は「評価通達の定めによって評価した価額による」と定めています。
この評価通達は、国税庁が国税局や税務署に対して指示するために発した文書(通達)という位置づけに過ぎず(法律ではない)、国民に対して直接の法的効力はありません。
また、評価通達6(いわゆる総則6項)では「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とも定めています。
このように評価通達は絶対的なルールではなく、場合によっては評価通達によって行われた申告が認められないケースがあり得ることになります。
この点が今回の裁判でポイントになりました。
それでは、裁判の経緯と判決の内容を見ていきましょう。
裁判の経緯
今回の相続税申告の対象となった被相続人は、平成24年6月に94歳で亡くなりました。
被相続人は、生前の平成21年1月に信託銀行から6億3,000万円借り入れたうえで、東京都杉並区のマンションを8億3,700万円で購入しました。また、同年12月に相続人(家族)から4700万円、信託銀行から3億7,800万円を借り入れたうえで、神奈川県川崎市のマンションを5億5,000万円で購入しました。
平成24年6月に相続が発生し、相続人は評価通達の定める方法(路線価評価等)により、東京都杉並区のマンションを2億0,004万円、神奈川県川崎市のマンションを1億3,366万円で評価し、平成25年3月に相続税の申告を行いました。
この申告において、相続財産の合計額(課税価格)は2,826万円と計算され、これが相続税の基礎控除を下回ったため、相続税はゼロ円となりました。
なお、この間の平成25年3月に神奈川県川崎市のマンションは第三者に5億1,500万円で売却されていました。
この申告について、税務当局は上記評価通達6を根拠に、当該マンション2棟を評価通達に基づく路線価評価ではなく不動産鑑定(杉並区マンション=7億5,400万円、川崎市マンション=5億1,900万円)により評価すべきと判断し、これにより課税価格は8億8,875万円となり、2億4,050万円の追徴課税の処分を下しました。
相続人側は、評価通達に沿って評価したにもかかわらず国税当局がこれを否認することは「評価における平等原則に反する」と主張し、追徴課税処分の取り消しを求めて争いとなり、地裁、高裁を経て、今回最高裁の判決が示されました。
最高裁の判決では、国税当局が主張する、評価通達6に基づいた不動産鑑定による評価が妥当と判断しました。
判決の内容
判決文のポイントと思われる部分を抜粋し、内容を検討してみます。
“評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではない”
ここでは、評価通達による評価を行うことが、相続税負担の公平に反する「事情」がある場合には、評価通達による評価ではなく、不動産鑑定評価を使用することも問題ないと言っています。
この「事情がある」かどうかについて、以降議論されていきます。
“本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない”
対象となる不動産の評価通達による評価額と鑑定評価額には大きな乖離があるが、これだけで上記「事情」があるとは言えないと言っています。
評価額の乖離だけが否認理由ではないということです。
“被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる”
不動産の取得とそれに伴う借入れは(当時、被相続人は90歳台)、近い将来に発生することが予想される相続税の負担を軽減することを目的として行ったものと判断されています。ここが一番のポイントだと思われます。
“そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる”
相続税の軽減を目的として取得した不動産について評価通達による評価を行うことは、このような相続対策を行わない、または何らかの事情により行うことができない他の納税者との間で、相続税負担の不公平を生じさせる(相続税負担の公平に反する「事情」がある)と結論付けています。
上記を根拠として、対象不動産について評価通達による評価ではなく、不動産鑑定評価を使用することが適法という判決が示されました。
今後の相続対策への影響
ここまで読まれた方で、今回の最高裁の判断基準について100%理解(納得)された方はどの位いるでしょうか。
ここからは私見ですが、不動産の取得においては、多かれ少なかれ相続税への影響(節税効果)も加味しながら検討されることが一般的だと思われます。
一方で、上記の最高裁の判断基準の中に、「租税負担の軽減をも意図」(=相続税の負担軽減を目的)というものがありましたが、どこまでの相続対策が許容されるのか、どこからが過度な相続対策と判断されるのかについて、明確な基準が示されませんでした。
明確な判断基準がない中で、今後の不動産を活用した相続対策においては、以下の点に留意する必要があると思われます。
① 極端な相続税の軽減効果があるものはリスクが高い
② 相続税の軽減以外の明確な目的があることが望ましい
相続税の軽減以外の目的とは、例えば、不動産取得者や親族の居住目的や、利回りや収支を検討したうえでの長期的な不動産経営目的などが考えられます。
また、今回の判決を踏まえて、将来的には評価通達の見直しも行われるかもしれません。不動産を活用した相続対策は、今まで以上に慎重に進めていく必要があるでしょう。
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