通級による指導を考える②

前回、通級による指導がいつ始まったのか、現在まで通級指導教室の数がどのように推移してきたのかを確認し、右肩上がりで増加していることがわかりました。この点をどのように考えれば良いのか、判断の前提として2つの仮説に分けて考えてみます。

 

仮説①30年前から現在まで、何らかの障害で授業についていくのが困難な子供たちは存在しており、その割合はそれほど変化してない。

 

仮説②30年前から現在まで、何らかの障害で授業についていくのが困難な子供たちは存在しているが、その割合は変化している。

 

まず仮説①について

軽度の障害を持つ子供たちは、いつの時代でも存在していたはずだし、その割合はあまり変わっていないのではないか。30年以上前は、脳の発達等に関する知見が十分ではなく、学習障害とか自閉スペクトラム症などについても今ほど明らかになっていなかったと思われる。科学の発達、脳に関する研究進展により、発達障害に関する知見が進み、従来であれば障害と見做されていなかった子供が、軽度の障害と認識されるようになってきた。

 

それに応じて社会からのニーズが高まり、通級による指導が開始された。当初は体制の不備や認知不足により、通級指導教室の数が少なく、また通級による指導を希望する児童生徒数も少なかったが、徐々に増加することとなった。2007年度からLDとADHDが対象に追加されたことにより、対象者が拡大し、それに応じてニーズが増加した。その結果、通級指導教室の学級と子供の数が急増している。

 

上記の経緯を考察すると、通級指導教室の学級が増加していることは、社会のニーズに対処してきたことを示している。対象の児童生徒数が増加しているように見えるが、実はそうではなく、かつてはその存在が把握されていなかっただけである。

 

次に仮説②について考えてみます。

軽度の障害を持つ子供たちは、30年以上前にもいたと思われるが、今ほど多くなかったと思われる。通級指導を受ける子供たちがこれほどまでに急増しているのは、何か原因があるはずだ。

 

かつてはビデオゲームなどなく、身の回りの自然も豊かであった。子供たちは自然と親しみながらのびのびと育っていたものだ。近年、ゲーム機だけでなく、インターネットの出現に伴い、SNS、Youtube、インスタグラム等バーチャルなものが増加したことで、リアルな物との触れ合いが減少しているのではないか。そういった社会の変化が子供たちの成長に何らかの悪影響を及ぼしている可能性がある。通級指導を受ける子供たちが増加しているのは、近年のIT技術発達の弊害ではないか。

 

仮説①仮説②の違いは、軽度の障害を持つ子供たちの割合が、30年前と現在で増加したのか、していないのか、の違いです。

 

しかし、これを確かめる方法はありません。30年前のデータが存在しない以上、比較することはできません。

 

割合の変化を調べる方法がないとすると、仮説①に基づく考え方と仮説②に基づく考え方のどちらが正しいのか、どちらがより適切なのか、わかりません。

 

自然科学の分析とは異なり、社会科学と言われるような分野では、過去に遡って再度データを測定して、やり直してみる、などといったことは不可能です。現在進行している現象に対して、どのように対処していくか、それしかありません。判断の元となるデータがあるとは限らないし、状況は刻々と変化していきます。その中で、何らかの意思決定をすることになります。

 

通級指導を受ける子供たちが増加し続けています。現場で奮闘している方々は日夜苦労されていると思います。部外者にできることは?

 

 

あまり思いつきませんが、まずは今生じていることを知ることから、関心を持つことから、まずはそこからですね。