Kawaiiの力」(7) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日12月13日は、2015年、World Tour 2015 in Japan The Final Chapter of Trilogy@横浜アリーナ(2日目)が行われ、4月1日Fox Dayに、2ndアルバムの発売、World Tour 2016のFinalとして、東京ドームで公演を行うことが発表された日DEATH。

「大人」になることについて、メンバー二人は今年のインタビューでこんな風に語っている。
SU-METAL:「(『METAL GALAXY』は)遊び心もたくさんあるし、メタルに対するリスペクトもたくさんある。あとは「Elevator Girl」みたいに、これまでの「KAWAII METAL」の要素に大人っぽさも加わったというか。」(『Rolling Stone Japan2019年11月号』p.118)
「新しいBABYMETALだなって思っています。今までは女の子がやっているカワイイメタルというものだったけど、今回は自分たちが大人になったことで、今までとは違う、進化した形になっているなって。」(『PMC Vol.15』P.16)
MOAMETAL:「<ダークサイド>シリーズで学んだことでもあるんですけど、「Starlight」とか「Elevator Girl」は、ひとつひとつの振り…手先の動きまで気をつけることだったり、女性らしい表現が多くて、これまでの“カワイイ”というよりも“大人カッコいい”要素が詰まっている曲なので、踊っていてもまだ正解がわからないんです。」(『PMC Vol.15』P.23)


『METAL GALAXY』は、過去の日本や世界の国々で聴かれている異なるジャンルの音楽をBABYMETAL流に解釈し、表現したアルバムであるとぼくは思っている。オールドスクールなデスメタルやパワーメタルのステレオタイプからは外れているが、ブラストビートやテクニカルなギターリフなど、ヘヴィメタルの要素はたっぷり含まれている。
ただ、インタビューで語っているように、二人は「カワイイ」もしくは「Kawaii Metal」から「大人」へと進化することを意識しているようにみえる。
「大人」の要素としては、MOAが言っている「女性らしい表現」「大人カッコいい」というのがヒントになるだろう。
メタル・ダンス・ユニットたるBABYMETALでは、振り付けもメタル表現を担う。
MIKIKO師はダンス面での「大人」の要素について、こう語っている。
MIKIKOMETAL:「(2018年のダークサイド体制について)それまでのBABYMETALは、小さいころから3人でずっとやってきていたから、それだけMOAMETALの身体の使い方はBABYMETAL独自の使い方になっていたと思うので。身体が変化する時期に大人のダンサーたちの身体のケアや動かし方を知る、いい時期だったんだと思います。」(『PMC Vol.15』P.31)
「SU-METALもMOAMETALも大人になったというところは大きかったです。そしてダークサイドの時期に、特にMOAMETALがそうだと思うんですが、やっぱり自分たちは「カワイイメタル」をやっていきたいという気持ちを再確認できたはずで。」(同P.32)
「(「Starlight」のダンスについて)さらに音圧をプラスアルファするつもりで、MOAMETALとサポートダンサーによる両サイドが大人っぽい表現をできたら、もうひとつ違うレイヤーに行けるんだろうなと考えていたので。」(同P.32)
「(「Shanti Shanti Shanti」のダンスについて)前だったら、それこそちょっと身体のウェーブを通したり、ラインを強調するような動きはあえて外していたんですけど、そういう部分も、背伸びしている感じがなくなってきたので、今のBABYMETALは、身体の使い方の幅が増えていると思います。」(同P.33)
2018年5月のカンサスシティから10月の神戸ワールド記念ホールまでサポートダンサーを務めてくれた丸山未那子(イレブンプレイ)、佃井皆美(JAC)はSU-、MOAよりはるかに経験を積んだベテランであり、二人が実地で学ぶことは多かったのだろう。


ダークサイドの経験で、「カワイイメタル」を維持する決意を固めたと同時に、大人の女性としての身体の使い方や、表現の幅が広がったということのようだ。
かつてMOAのダンスは「BABYMETAL DEATH」のギターソロ前、トランスフォーム時の身もだえするような表現や、「ヘドバンギャー!!!」の「♪いーちご(トイ!)よーるを(トイ!)」のバンザイジャンプの高さなど、一途さや、がむしゃらさを感じさせるパワフルなものだった。BBMの「4の歌」や「おねだり大作戦」も、無邪気さがゆえに「父兄」へ訴えかける力を持っていたように思う。それは幼い少女の持つある種の暴力性を表しており、「カワイイメタル」の真骨頂でもあった。
だが、今年の横アリ、PMなごや、SSAで見たMOAのダンスは確かに変わっていた。
「Shanti Shanti Shanti」で見せるしなやかな身体の動き。ダイナミックでありながら、首や指の先まで気持ちが込められた表現。アベンジャーとアイコンタクトしながら、観客を煽るSU-とともに客席の遠くまで届く笑顔でBABYMETALの世界を創り上げてゆく演出力。
そのすべてが進化していた。
MOAのいう「女性らしい表現」「大人カッコいい」という言葉は、表現者としての成長という意味だろう。
SU-も、例えばシティポップに近い「Brand New Day」のような楽曲で、
「力を抜いて歌う感じがカッコよくて。あとはただ力を抜くだけじゃなくて、ちょっと余韻を感じられるようにしたり」(『PMC Vol.15』P.23)
とか、
「私の声質によるものかもしれないんですけど今までBABYMETALの曲では真っ直ぐ前に突き進んでいく歌がメインで、私自身もそれがメタルのスタイルだと思っていたんですよ。そのカッコ良さを今まで表現していたけど、でもこの曲はそういう感じではなくて、まずテンポ感も今までと違うし…強さだけじゃないカッコ良さみたいなものをどうやったら上手く表現できるかなというので、英語の発音とかも含めていろんな歌い方を試してここに辿り着いたっていう流れなんですよね。」(『ヤングギター2019年11月号』P.21)
と言っており、明らかにこれまでとは違う表現を追求していることがわかる。
二人にとって、「大人」になることとは、表現の幅を広げていくことだと考えられているようにみえる。
では、表現の幅が広がることで、「カワイイメタル」はどうなってしまうのだろう。大人になることで、かつてぼくらが、そして欧米のメタルファンが感じたような「何じゃこりゃ!?感」が薄まってしまうのか。
ぼくの考えでは、「メタルの魂」=ロック・スピリットを忘れない限り、「Kawaii」は永遠に続く。
ここからは無理やりの伏線回収に入る。
『不思議の国のアリス』、「PONPONPON」、「ド・キ・ド・キ☆モーニング」MVに共通する清少納言直系の「青文字系」の「カワイイ」=「Kawaii」は、大人には理解しがたい少女の奇怪な世界観を表現したものであり、それをBABYMETALでは「何じゃこりゃ!?」感と呼んだ。
そして「Kawaii」の非日常性=社会規範の侵犯性は、バタイユのいうエロティシズムとは違う意味で「内的存在を揺さぶるもの」である。
ルイス・キャロルは、キリスト教道徳全盛の19世紀英国ヴィクトリア朝にあって、それに揺さぶられ、かつ、それを世界で初めて公然と表現した男である。
バタイユがサド侯爵を文化史的・歴史的に評価したように、ルイス・キャロルも評価されねばならない。
ところで、ヘヴィメタルはロックの1ジャンルであり、ロックは音楽の1ジャンルである。
バタイユは、エロティシズムが流血や暴力を伴う聖なる宗教的供犠と関連を持つと言った。
音楽もまた宗教儀式に欠かせないものである。
人間には、「普遍音楽文法」とでもいうべき、音楽を理解する力が生まれつき備わっており、太鼓のリズムや歌のメロディ、和音=コード進行は、聴く者の感情をかき立てる。
つまり、音楽もまた「内的存在を揺さぶるもの」であり、「日ごとの糧を得る」生産=労働の日常とは切り離された場で、かつそれを意味づけるような宗教的恍惚をもたらすツールなのだ。
1950年代のアメリカで誕生したロックンロールは、「良識」にとらわれた大人たちに嫌悪されながらも、若者たちを熱狂させた。それはルイス・キャロルのおひざ元である大英帝国に渡ってブリティッシュロックとなり、そこからヘヴィメタルやパンクが生まれた。
若者たちがロックを支持したのは、原初の音楽が持っていた「内的存在を揺さぶる」力を持っていたからだ。
それは、キリスト教が、2000年前のイエスの生贄という流血と暴力の供犠をベースにしながらも、社会規範=「良識」として西欧人をがんじがらめにしていたのに対して、バタイユが疑義を呈したのと同じだ。
つまり、「Kawaii」の本質が、日常に対する侵犯性であるなら、BABYMETALが「メタルの魂」=ロック・スピリットを失わない限り、表現力の向上=「大人になっていくこと」は、より「Kawaii」の力を強めるはずだ。
それが、本稿のテーゼ「Kawaiiはロックによって完成する。」の意味である。
『METAL GALAXY』は、さまざまなジャンルの音楽をBABYMETAL流に再解釈したものであり、聴けば、すべての楽曲にヘヴィメタルの要素=「メタル魂」が息づいていることがわかる。


もちろん、SU-もMOAも、20歳を超えたとはいえ、まだまだ容姿も、ステージ上の振る舞いや仕草も断然「カワイイ」。
それを措くとしても、「メタル魂」に満ちたBABYMETALの「Kawaii」の力は、強まりこそすれ、なくなることはないだろう。
当ブログでは、BABYMETALがいつ解散しても受け入れるが、できれば大物バンドと同じように、おばあちゃんになっても続いてほしいというスタンスをとってきた。
願わくは、世界を変えた文化史的・歴史的アーティストとして、「Kawaii」を極めてほしいと思う。
(この項終わり)