メタル銀河解題(3) | 私、BABYMETALの味方です。

私、BABYMETALの味方です。

アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

★今日のベビメタ
本日10月21日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。

英オフィシャルチャート(OCC)の10月18日付Official Albums Top 100(総合アルバムチャート)で、『METAL GALAXY』は、初登場19位となった。また、Rock & Metal Albums Top 40部門では堂々の第1位を獲得した。
ただし、これは以前述べたように、OCCのルール上10月5日(日)から12日(土)までの集計分だから、10月11日と12日の実質2日間の売り上げしかカウントされていない。
10月13日(日)から10月18日(土)までの集計分は、次週10月25日付で判明する。

The Forum公演のオープニング。
宇宙を飛翔する赤い彗星と青い彗星が衝突し、虹色に輝く宇宙が生まれる。
SU-による英語のナレーションはこうである。
「Life is a conflict between the LIGHT FORCE and DARK FORCE. Anyone can become a comic hero or a tragic hero. Just like a clown. 
Is it hope? Or fear? Thinking about it is useless. Don’t think, Feel.」
(Jaytc意訳:人生は光の力と闇の力のぶつかり合いである。誰もがコミック・ヒーローにも、悲劇の主人公にもなれる。まるで道化師のように。
それは希望なのか、それとも恐怖か。考えても無駄だ。考えるな、感じろ。」


ここから「FUTURE METAL」が始まり、前回紹介したSU-のオートチューンのロボット風ナレーション「これはヘヴィメタルではありません」も流れるが、映像の後半は、それまでのライブと違って、虹色の星から飛び立つあの黒い正八面体がアップになる。その表面は、スターウォーズに出てくる巨大な宇宙船のように、細かい電子回路あるいは都市のような輝きを放っている。
正八面体は、宇宙空間を飛翔し、様々な色の惑星群へ近づいていき、着陸すると、画面はその内部に移る。そこに設けられた2つのブースに、SU-METALとMOAMETALが量子テレポーテーションで現れる。2人の姿がはっきりすると、客席後方から放たれたレーザーによって、「BABYMETAL」の文字が大写しになる。17,000人の大歓声の中始まったのが、「DA DA DANCE」だった。
前述の「紙芝居」のナレーションが、光と闇のテーマ、すなわち2018年のDARK SIDE物語を引き継いでいることは自明であるが、今年2019年は、そこに『METAL GALAXY』のテーマでもある「二項対立」の意味が加わっているとぼくは考える。
2018年春、DARKSIDE物語がスタートした段階では、まだYUIの脱退が決定していなかったが、今年はメンバーがSU-とMOAの二人になった。
偶然にも、SU-の頭文字はSだからSUN、MOAの頭文字はMだからMOON。BABYMETAL神話は、「三狐」から、「太陽と月」へとシフトし、宇宙的な彩りを帯びることになった。


横アリのサブタイトルが「THE SUN ALSO RISES」、PMなごやが「BEYOND THE MOON」であったのもそのためだし、『METAL GALAXY』が二枚組で、初回限定盤がSUN盤とMOON盤だったのもそのためである。
だが、この「二項対立」は、「アイドルとメタルの融合」というBABYMETALのそもそものコンセプトから存在していた。
1990年代末のモーニング娘。から2010年頃のいわゆる「アイドル」とは、大づかみに言ってしまえば、地上波テレビへの露出を主戦場として、様々な「設定」やコンセプトでファンを惹きつけ、CDを売るビジネスモデルだったが、肝心の楽曲は、キャッチーなメロディラインと「青春賛歌」「疑似恋愛」的な歌詞が主流だった。
テレビに出られないグループが「過激な」ライブで売るための楽曲には、音楽的にレベルの高いものがないわけではなかった。
だが、「アイドル」の究極の目標がNHK紅白歌合戦出場である限り、音楽的に高度であることより、メンバーのキャラクターを引き立て、ファンの心をつかむ「いい歌」を作り届けることの方が優先されるのは当然だった。
「いい歌」を否定するわけではない。
だが、往々にして、「いい歌」を作ろうとすればするほど、メロディや歌詞や編曲は、万人受けする凡庸なものになりがちである。
売らんがための話題性のある「設定」と、「いい歌」のジレンマに嵌っていく「アイドル」は数えきれないほど存在する。
その意味で、ももいろクローバーZがAKB48グループ全盛時代にほぼ唯一の対抗馬になったのは、メンバーのキャラクターと楽曲が見事にマッチしたからだといえよう。
歌詞から「疑似恋愛」を排除し、早見あかりが脱退した後の5人(現在は4人)の明るく頑張るキャラクターとアクロバティックなダンス、前山田健一、NARASAKI、布袋寅泰、やくしまるえつこ、中島みゆきらが提供する楽曲、お笑い芸人を巻き込んだファン=モノノフの形成、そして「次のステップ」がサプライズ的に発表される文字通りのライブへの大量動員を中心にしたビジネスモデルは、AKB流とは異なる「アイドル」の典型となった。
BABYMETALは、こうした「アイドル」の先行事例を見つつ、「メタル」をキーワードとして誕生した。
結成当初、小学5年生と中学2年生だったさくら学院重音部=BABYMETALにとって「メタル」とは、「アイドル」を売り出すための「設定」に過ぎないように見えた。
キツネサイン、神降臨、ライブ中の記憶がない、ヘドバン養成コルセット、スタッズ付きのリストバンド、黒と赤を基調としたゴスロリ風コスチュームなど、幼い三人のキュートさ=Kawaiiを際立たせるためとはいえ、テレビ的には「色物」扱いされてもしかたのないものだった。
しかし、「メタル」とは、それだけのものではなかった。
一言で言えば「メタル」とは、音楽性ということだったのだ。
キュートなメロディラインと女の子の日常を描いた歌詞に、ヘヴィなギターリフと2ビート、グロウルが「接ぎ木」された楽曲は、ダンサブルな16ビートにカッコイイディストーションギターのソロといった凡百の「いい歌」=アイドルソングとは全く異なるものだった。
メタルといってもデスメタル。ギターソロといってもキレキレのシュレッドギター。
YUI、MOAによるラップはKawaiiだけでなく、ブラックな内容(「おねだり大作戦」「4の歌」)だったし、SU-の歌唱力は「アイドル」の水準をはるかに超えたものだった。
つまり、BABYMETALにとって「アイドルとメタルの融合」という「二項対立」は、言い換えれば「日本の女性アイドルであること」と「メタルをキーワードとした本格的な音楽性=アーティスト性」との弁証法的な関係性だったといえる。
世界的なアーティストになった後YUIが脱退し、来し方を振り返ったSU-とMOAは、BABYMETALとは何かを深く考えたという。
それが二人の次のような発言に現れている。
―『ヘドバンVol.24』P.25より引用―
MOA「私たち自身も、みなさんが抱いている“BABYMETAL像”みたいなものを少し守り過ぎていた感があって。もちろん、自然と出来上がってきたものが正解だと思っていたし、それで「このメンバーとなら戦える」という自信もついてきたんですけど、いつの間にか自分たち自身がそれを守りすぎてしまっていたんです。」(上段19行目~)
SU-「自分たちが自分たちを縛っているみたいな感じですね」
(中略)
SU-「それこそ「BABYMETALとは」みたいなことを考えて。」
MOA「そう。「BABYMETALって何?」とか思うようになってきて。それをSU-METALとも話し合ったりもしましたし。自分たちの中でもお互いが凄い悩んだりして、たどり着いた結果が、「自分たちが自分たちを縛ってたんだね。本来はメタルっていう音楽を楽しんでやっていたのがBABYMETALだったよね」ということだったんです。去年やっとそれを見つけました。」
―引用終わり―
この発言には伏線があって、今年5月に発行された『PMCVol.13』で、SU-はすでにこんな発言をしていた。
SU-「新体制に対するいろんな考え方とか、受け入れられ方があると思うんですけど、私はBABYMETALはもっとおもしろいものだと思っているんです。」(『PMCVol.13』P.23二段45行目)
その「おもしろいもの」が『METAL GALAXY』だったのだ。
世間に流布しているキャッチコピーとしては、「大人になったKawaiiメタル」ということになろうが、音楽性という意味では、『METAL GALAXY』 の楽曲群は、きわめて前衛的で先鋭だ。
収録曲中、メタルらしくない曲として「DA DA DANCE」と双璧をなす「Brand New Day」を分析してみよう。
曲調はミドルテンポのフュージョン系リズムとシンセサイザーのリフで構成されたシティポップ風味だし、SU-のボーカルはブレス(息継ぎ)音を強調した、ジャズボーカリストのような歌い方だ。
だが、この曲には10月初旬に来日したアメリカの若手マスロックバンドPolyphiaのTim Henson、Scott Lepageが参加し、高度な演奏技術を披露している。


マスロック(Math Rock)とは、キング・クリムゾンのロバート・フリップやアラン・ホールズワースの技術的な系譜を引き継ぎ、変則的なリズムや、スキッピング(離れた弦やフレット間を高速に運指していく奏法)を多用したテクニカルな音楽で、プログレ~フュージョンの進化版ともいえる。
故・藤岡幹大、ISAO、BOH、前田遊野の神々も、『仮BAND』でマスロック的な表現を追求していた。
「Brand New Day」は休符やシンコペーションが多く、リズムを合わせるだけでも大変な曲だが、Tim HensonもScott Lepageも軽々と演奏しているように聴こえる。
特筆すべきなのは、二人がエモーショナルなチョーキングをほとんど使わず、スライドやグリスを多用してフレージングしていることで、これがSU-の素直なボーカルを生かしている。
02‘35“からのツインソロは、スキッピング、ユニゾン、フレットハーモニクスなどを交えた超絶技巧を駆使しており、ギター小僧も簡単にはコピーできない。
さらに、この曲ではバッキングのパワーコードには深いコンプ・ディストーションがかかっているが、ソロフレーズではハムバッカーのリアピックアップ(中央~右)、シングルコイルのフロントピックアップ(中央~左)にオーバードライブをかけているくらいで、歪みは適度に抑えられ、“生感”の強い中音域で奏でられている。
これはよくある「アイドルソング」の逆だ。
普通のアレンジャーなら、曲の骨格を作るギターのリフはクリーントーンのカッティング、ソロに深いディストーションという音作りをするだろう。
要するに、尋常なシティポップではない。というか、ここまで作り込まれた「アイドルソング」など存在しない。
「Brand New Day」は一見、オトナになったSU-の歌唱力を味わわせるナンバーに見えるけれど、実は音楽的に最先端のマスロックをシティポップに「融合」するという、極めて高度なことをやっている作品なのだ。
こういうことができるのは、BABYMETALが世界的に売れていて、制作予算が使えるからだともいえるが、実は話が逆だ。
BABYMETALは「アイドル」としてのデビュー時から、「志」高く音楽性を追求し、過酷なライブツアーを続けてきた。『ヘドバンVol.24』のインタビューで、2013年のサマソニ大阪では、ステージ上の鉄板が熱くて、膝をつくと“ジュッ”と音がして、捌けたくてたまらなかったという。(P.21)中高生のうちからそういう経験を積んできたからこそ、世界的に評価され、名だたるアーティストが喜んで参加してくれるアルバムを作れたのだ。そのことを、ぼくらメイトは肝に銘じたいと思う。
(つづく)