★今日のベビメタ
本日10月22日は、過去BABYMETAL関連で大きなイベントのなかった日DEATH。
米Billboard 200の10月11日~10月17日集計(11月2日付)が発表され、『METAL GALAXY』の初動ユニット数は2万8000(うちCD売上は2万7000枚)で、初登場13位となった。
どなたかがコメントしていたように全米横断ツアーのライブチケットは約7万枚売れていたが、付属のCDを入手ないしダウンロードした人は、全体の2-3割にとどまったらしい。
全米1位!と煽ったことをお詫びしますm(__)m
とはいえ、『Metal Resistance』の39位から大躍進し、日本人としては、Joji『Ballads1』(2018年)の3位に次ぎ、坂本九『SUKIYAKI and Other Japanese Hits』(1963年)の14位を56年ぶりに抜く快挙といえる。
また、『METAL GALAXY』は、「Rock Album Sales」および「Hard Rock Album Sales」では第1位、「Top Album Sales」でも第2位となった。
なお、第1位は韓国出身のK-POグループ、Super Mのミニアルバム『Super M』で、「Billboard 200」ほか8つのチャートで1位となった。
「↑↓←→BBAB」は、『METAL GALAXY』を最初に聴いたとき、ぼくが一番気に入った曲だった。
歌詞から推測すれば、このタイトルは、ゲーム機の操作ボタンに由来すると思われるが、別の解釈もできる。
インドネシア語でBBAB(ブブアブ)とは、「花鳥風月」という意味なのだそうだ。
となれば↑↓←→とは、社会的地位の上下、思想的な左右を意味し、「↑↓←→BBAB」は、「自分を取り巻くセカイ」をあらわしているのかもしれない。
それはともかく、冒頭のオートチューンのかかったコーラスや、バックに流れるシンセサイザーの音像、細かいリズムボックスのサウンドは、どことなく1980年代後半~1990年代初頭にヒットしたピチカートファイブの「東京は夜の7時」(1993年)や宇多田ヒカルの「Automatic」(1998年)を思わせる。
いや、もちろんメロディラインも、歌詞のテーマも、構成楽器も全く違う。
だがなんとなくこの曲には90年代の匂いがするのだ。
とりわけ、ピチカートファイブは、当時主流だった16ビート爽やか系のフュージョンサウンドではなく、メジャーセヴンス(△7)やマイナーセヴンス(m7)、セヴンフラットナインス(7-9)、セヴンフラットフィフス(7-5)、セヴンサーティンス(7(13))といったボサノバに用いられるテンションコードを多用したジャジーでアメリカンなお洒落サウンドと、60年代レトロ・ポップな衣装や小道具を用いたPVが特徴だった。
バブル期の音楽はイケイケのジュリアナサウンドだけではない。大流行のカフェバーに似合うボサノバやシャンソンをアメリカンなポップチューンにアレンジしてしまうセンスが、ギター弾きであるぼくから見るとまさに「バブル!」という感じがするのだ。
素朴な循環コードが主流だったフォークに対して、メジャーセヴンス(△7)やマイナーセヴンス(m7)を多用したユーミンの「あの日に帰りたい」(1975年)や「中央フリーウェイ」(1976年)のコード進行はものすごく新鮮に響いたものだが、この手のコードがぼくの耳に入るのは、四人囃子の「一触即発」(1974年)の方が早かった。
ぼくは高校時代にこの曲をコピーしていたのだが、プログレハードなのにフェイザーがかかった歌部分のコードがEm7→C9、C△7→Bm7と進行するのが都会的で、大好きになった。
このコード感が、小学生のときギターに触って歌本でコードを覚え、中学で3コードブルースのペンタトニックアドリブを覚え、高校でリッチー・ブラックモアの3連符のオルタネートピッキング習得に血道をあげていたぼくのギター人生を、メタルの方向ではなく、和田アキラ→アル・ディメオラ→ラリー・カールトンというフュージョン方向へ進ませ、やがて挫折させた「躓きの石」となった。
そんなことはどうでもいい。
社会人になってピチカートファイブを耳にしたとき、音楽的に高度なことをお洒落な60年代レトロポップな装いに包み込んだ才能に脱帽した思いがある。
長々と回り道をしたが、「↑↓←→BBAB」のイントロや「♪仲間たち 敵に勝ち ついてこいFollow Up Follow Up」の部分は、どことなくピチカートファイブや宇多田ヒカルを思わせるという話だった。
だが、0‘25“からのヘヴィな「♪ズクズンズンズン」という重低音リフやドラムスのリズムのうねりにシンセサイザーが入ってくる音像は、「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」など、これまでのBABYMETALの楽曲にもみられるもので、01’20”には、冒頭のメロディが、この重低音でバッキングされて「融合」する。
この曲の歌詞は、最強チート、Complete the Quest、ハイスコア、最強コマンドなど、ゲーム用語で構成されており、ゲームオーバーかコンティニューか、倒れされても倒されても、ネット上の「仲間」とともに戦っているようであるが、読み方によっては、ライブをこなし、チャートを競うBABYMETALの現実の戦いともとれる。
オートチューンの童謡「♪ずいずいずいずっ転ばし…」が挿入されるのは、「いいね!」の「コガネムシ」、「ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト」の「きらきら星」と同じくBABYMETALらしいが、それに続く、「♪うえーしたーひだりみぎーBBAB」のラップパートは、バックに激しいドラムスとデチューンされたギターの凶暴なフレーズが重なり、都会的というより、シュールでカオスな世界になる。
これは、バブル世代の遊び人の舞台だったお洒落な都会が、引きこもりのゲーマーにとっては画面の中の市街戦の場へと変わり、SU-とMOAにとっても過酷な戦場であることを示しているように思える。
つまり、「↑↓←→BBAB」もまた、「Brand New Day」と同様、シティポップの新たな解釈なのだ。しかも、よりメタルコアに引きつけた表現になっている。
要するに、『Metal Resistance』の時代に、「BABYMETALはアイドルじゃない、メタルバンドだ」と決めつけたのが間違いだったのと同様、『METAL GALAXY』で「BABYMETALはアイドルの原点に戻った」と思い込むのも間違いなのだ。
BABYMETALは『METAL GALAXY』において、メタルの要素を用いて、既存の音楽を新たに解釈し、進化させているということだ。
ドイツの音楽雑誌『HARDLINE』で、アレクサンダー・シュトックという御仁が、『METAL GALAXY』に10点満点中0点をつけたという。
これはわが国の『BURRN!』誌が、かつて聖飢魔Ⅱの『聖飢魔II〜悪魔が来たりてヘヴィメタる』(1985年)に0点をつけ、BABYMETALはプロモーションがない限り扱わないとしていたのと同じだろう。
つまり、正統派=「既存の」メタルを愛するあまり、『METAL GALAXY』のバックグラウンドを含めた音楽史的な意味を理解できないのだと思う。
だが、『METAL GALAXY』に、ふんだんにメタルの要素が入っているのは間違いない。表面的なポップさに気を取られて、そこを見逃してはならない。
(つづく)