KOBAMETALの戦略(2) | 私、BABYMETALの味方です。

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アイドルとメタルの弁証法
-May the FOXGOD be with You-

日本のアイドル市場ではニッチに見えるが、実は巨大な世界メタル市場を狙うというKOBAMETALの戦略は、三人の少女の類まれな才能と努力、神バンドの超絶技巧によって、2014年以降、見事に結実した。しかし、そこでぶち当たったのは、沸騰する人気をどう売り上げに結びつけるかという、プロデューサーとしてはより本質的な問題だった。

2014年の欧州ツアーは、ソニスフィア、02アカデミーブリクストンを除くと、小規模なライブハウスが中心だった。1stアルバム「BABYMETAL」は、ビルボード200の187位、ワールドアルバム部門で1位になったものの、海外では、配信を含めても、累計で数万枚の売り上げに過ぎない。日本のアイドル市場より広いと思った世界のメタル市場へのデビューは大成功したが、その購買力は、少なくともCDパッケージという業態をとる限り、それほど大きくはなかったのだ。

――――引用(Yahooニュースのインタビュー、続き)

2011年のインディーズ・デビューの際に、YouTubeに映像をアップしてみたのも、そうした工夫(jaytc註:予算が少なかった)の一つでした。ライブに来てくれるお客さんとは違ったダイレクトな反応を知りたいと思って、とにかくアップしてみようとやってみた。その結果、海外の反応は僕の予想をはるかに超えたものでした。

(中略)

一方で、音楽業界はこの数年間でCDなどのパッケージは売れなくなりましたね。ダウンロード有料配信や、音楽聞き放題サービスだって、まだまだCDの売上をカバーするようなものにはなっていない。ここからは目をそらしちゃいけないと思っているんです。

(中略)

ファンの方々は、BABYMETALの音楽やパフォーマンスを通して、BABYMETALのビジョンとか、アーティストの思いに共感してくれたから、ライブに足を運んで、グッズを手にとってくれるのではと思っています。そういう意味では、SNSでも届かないものは届かないし、届くものは届く。少なくとも、SNSで音楽や映像のデータだけ拡散したところで新しい価値は作り出せないんです。

今はデジタル全盛の時代ですが、その一方で興味があるものに対して「もっと生で見てみたい」「本当にすごいのかどうか自分の目で確かめたい」という人間のアナログ的な欲求は普遍的で変わらないと思います。

―――――引用終わり

2014年の欧米ツアーは、YouTubeにアップされた「ギミチョコ!」の驚異的な視聴件数がなければ不可能だっただろう。さらにこのブログで何度も書いているように、海外でのファンカムやツイッターは、BABYMETALのライブの凄さを喧伝するツールとなったし、YouTubeにアップされた動画で、さくら学院時代を含む三人の少女たちの来歴が広く知られるようになった。その情報量の多さは、幼少期から成長を追っていける世界的なアーティストという意味で、マイケル・ジャクソンに匹敵する。「成長を親のように見守る」という日本特有のアイドル訴求の技法が、見事に奏功したのである。

とはいえ、ぼくが直接調べたWikipedia英語版のページビューカウントサイトでは、日本のアイドル/アーティストとしてBABYMETALがトップに躍り出たのは、実はつい最近のことだ。

Pageviews Analysisサイトでの3カ月期間累計視聴件数

2015年7月1日-9月30日BABYMETAL/ 468,097回、AKB48/ 479,088回

2015年10月1日-12月31日BABYMETAL/ 516,829回、AKB48/ 512,828回

2016年1月1日-3月31日BABYMETAL/ 372,355回、AKB48/ 466,263回

2016年4月1日-6月30日BABYMETAL/ 1,342,985回、AKB48/ 458,339回

2016年7月1日-8月31日BABYMETAL/ 319,822回、AKB48/ 225,186

この数年、日本のアイドルといえば、海外では「ヘビーローテーション」MVによって疑似恋愛対象の“セクシーアイドル”と見られているAKB48がトップだった。当初、そのイメージからKawaii1メタルのBABYMETALもニーソの“絶対領域”を強調したロリ(ペド)アイドルだと思われたが、2014年7月-8月のライブパフォーマンスで本格的なメタルだ、いやJ-POPかという論争が巻き起こり、検索件数が増え始めた。AKB48と拮抗するようになったのは2015年のワールドツアーあたりからだろう。それでも今年の第1四半期は、「ベビメタロス」期間にあたり、Wikipedia英語版でもAKB48の方が10万回近く多い。

しかし、今年4月のFox Day、2ndアルバムの全世界同時リリース、ウェンブリー、The Late show with Stephen Colbertへの出演からの全米ツアーで、BABYMETALの検索数は一気に130万回を超え、圧倒的な差がつく。直近のデータは2か月分だが、日本の夏フェスに出ていた間も、BABYMETALへの関心は続いていたようだ。

ただ、こうした世界的な人気を売り上げに結びつけることは、CDが売れない時代、AKBグループのような握手会や総選挙システムをとらない以上、別の方法論でやるしかない。

先行するももクロは、大会場ライブでの集客とグッズ売り上げを主な収益源としている。昨年からTVバラエティへの露出は減ったが、今年の桃神祭も合計で10万人以上を動員したという。

BABYMETALも、ライブとグッズ売り上げは大きな収益源だが、ファンクラブとは呼ばず、入会を“洗礼”といい、公認の“メタルネーム”を名乗れる有料のWEB登録会員=The Oneのシステムを前面に出し、会員だけの「限定ライブ」と「限定グッズ」直販が大きな柱になっている。

The One会員は今年何人くらいいるのだろうか。当初1日だけだった19日分のドームチケット先行販売が落選祭りになったので、数万人はいるのだろう。登録コード付グッズ(フードタオル)は3,500円だから、毎年、確実に会員数だけフルアルバム以上の売り上げが見込める。グッズ制作は手間もかからず、原価はCDより安いかもしれない。定期的な会報が来るわけでもなく、「召喚状」という名前の、なんのことはない限定商品/チケット先行販売の告知メールが来るだけのアクセスコードで、莫大な売り上げを確保していることになる。

BABYMETALの東京ドームチケットはThe Oneシートで12,800円、モッシュッシュシートで8,800円と、著名なベテランバンドか外タレ並み。2014年の日本武道館は6,800円だったのにね。

アイドルとしては高いといわれているももクロでも、桃神祭2016のチケットは9,200円。それゆえか、ももクロのライブは最長5時間にも及ぶバラエティショーと化している。時間単価は低い。

若いロックバンドの単独ライブは4,000円から6,000円台が相場だろう。そう考えるとBABYMETALは異様に割高だ。

しかも、The One限定国内ライブは、1,000~2,000人の小箱が多く、抽選制であり、申し込んでもなかなか当選しない。

すぐに売り切れてしまう直販の限定グッズも高い。トリロジーBlu-rayボックスは27,000円である。

それでもぼくの場合、キツネ様からの召喚状が来ると、半ば義務であると感じて先行販売チケットに申し込み、限定グッズ購入の手続き画面に進み、ポチッと押してしまう。まあ、ぼくにとってBABYMETALは救“生”主なので、許してつかあさい。(似非広島弁?ご容赦)

社会人をターゲットにすれば客単価を上げることができ、新しいバンドに気移りすることも少ない。これこそ、握手券商法に代わる新しいアイドルの在り方なのかもしれないが、この限定/高価格設定が、中高生がライブ会場に少ない理由のひとつにもなっているように思う。

また、今のところ、KOBAMETALが目指した肝心の巨大メタル市場=海外ファンは、この商法にハマっていないのではないか。今年から多言語化が図られているから、今後は世界中でThe One=メイトを増やしていこうとしているのだろう。

ロジスティックスの国際化は急ピッチで進んでいる。ネットを介した高付加価値商品というのは、日本経済全体にとっても今後のモデルとなるかもしれない。

ただ、現状では、サービスのメリットがほとんどない海外のファンにとっては、30ドル以上の有料WEB会員システムは敷居が高い。すぐに会員登録してチケット先行販売に申し込みたいのに、入力用のコード付きフードタオルが届くまで1週間も待たされ、販売期間を逃してしまったという不満をもらす海外ファンもいた。タオルなんかいらんから、クレジットカード番号入力で仮コードが発行され、すぐに申し込めるようにして欲しいというのだ。至極もっともである。

現状では、このシステムは、客単価の高い日本の社会人メタル/アイドルファンを囲い込む方向にしか働いていないように思う。

もし、システムが改善され、全世界に30ドルの有料登録会員が10万人いて、その半数の5万人が年1回だけ100ドルの単独ライブに行き、50ドル分のTシャツやグッズを買うとすれば、それだけで売り上げは毎年1050万ドル=10億5000万円となる。アルバムの売り上げも、会員数が基礎数になるから、10万人の会員がいれば安定的にゴールドディスク(10万枚以上25万枚未満)になる。

もちろん、東京ドームのような大規模ライブには一般の方も来るだろうし、2年ごとに出るであろうCDアルバムパッケージも同様だ。実際に「Metal Resistance」の上半期累積売り上げは、直販のThe One限定版および海外版を除いて19万枚を超えた。

ももクロの今年出た2枚のアルバムもほぼ同数だし、レッチリの6月に出たニューアルバム「The Getaway」は8月現在、全世界で83万枚。かつての全世界1000万枚の大ヒットはまだしも100万枚売るのも至難の業なのだ。つまり、市場を世界に求め、ネットで世界中から会員を確保して、安定的にゴールドディスク、話題作でミリオンを狙うというのが基本戦略。

こういうビジネスモデルならば、日本のTVに出演するメリットはあまりない。海外ツアースケジュールの邪魔になるから、レギュラー番組を持つことはむしろ避けた方がいい。

ただし、会員をベースにする以上、会員のメリットが享受できるプレミアの小箱ライブを各国でやり、動員を稼げる大規模ライブでは、先行チケット販売と一般販売とのバランスをうまくとっていく必要があるだろう。

“「本当にすごいのかどうか自分の目で確かめたい」という人間のアナログ的な欲求”を、コア・コンピタンスにすえるという宣言も、考えてみれば大変なことだ。“本当にすごい”ことが大前提なのだから、ライブの質こそBABYMETALの生命線となる。

余談だが、昨日はミサから帰ったあと(あ、赤ミサでも黒ミサでも白ミサでもなく、本当のカトリックのミサね)WOWOWでロックインジャパンの3日目をやっていたので、趣味と化しているアイロンがけをしながら観た。

若いバンドの中には、ギターのチューニングさえ合ってないのがおったし、高校の文化祭レベルのバンドもおったな。お祭り騒ぎを煽るのが主目的のようなバンドやアイドルも多かった。歌詞の内容も「みんなで盛り上がろうぜ」か「頑張って生きていこうぜ」か「君に会えてよかった」の3つの繰り返しのようで、気恥ずかしかったよ。確かに高橋幸宏の言うとおり、“売れよう”感が強いバンドが多いのかもしれない。

そんな中、奥田民生はさすがに良かったなあ。「針がなかったら」というだけのふざけた曲だが、ギターの音そのものがいいし、ロックな生き様が歌に出ていた。The Avengers in Sci-Fiというバンドは、三人組の四人囃子みたいなミニマム・プログレで、ぼくの好みであった。

しかし、通して観ると、BABYMETALと神バンドが、いかに突出した演奏力、歌唱力、ダンス力を持っているかがよくわかる。出音(でおと)のクオリティがまるで違うし、才能や美貌はもとより、ステージに上がるまでの稽古量、経験値が桁違いなのだ。

だから、今のところ、ファンカムやSNSでいかに晒されようが、その「すごさ」を確かめたい、その場に行きたいというぼくの“アナログな欲求”はいや増すばかりなのである。

今となっては、2010年11月28日横浜赤レンガ倉庫、2012年7月21日Legendコルセット祭り、2012年10月6日Legend“I”、2013年8月10日サマソニ幕張Rainbow Stage、2014年3月1-2日日本武道館、2014年7月5日のソニスフィア2014、2015年1月10日SSA新春キツネ祭りの現場に居合わせなかったことは、痛恨の極みだ。

だからこそ、東京ドームでは歴史の目撃者になりたい。

サプライズで、Metal ResistanceエピソードⅤ、ニューヨークMSGとかロンドンO2とか、2013年にMETALLICAがやったシンガポールの空港から近いChangi Exhibition Centre(収容人数55,000人)とか、海外の大会場での単独ライブが発表されて、”号泣ドーム”になっちゃうかもしれないけど。