映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン -23ページ目


劇団の養成所時代、松田正隆さんの戯曲とは縁があった。
「海と日傘」は同期が上演し、戯曲も読んだ。
「紙屋悦子の青春」も映画版は大好きな作品だ。


「紙屋悦子の青春」は知り合いも上演し、観に行った。
松田正隆さんの戯曲の映画化「夏の砂の上」。
長崎を舞台にした喪失の物語だ。


自分が求めていた、期待していた、それ以上の作品だった。
5歳の息子を亡くした男と、17歳の姪っ子との共同生活。
そこから生まれる再生。


映画は決して悶々とせず、仲間との交流もユーモアに溢れている。
カラカラに渇いた雨の降らない長崎の夏の風景が重なる。
険しい階段も、主人公の心情を表しているようだ。


松たか子さん演じる妻とオダギリジョーさんのぎこちない元夫婦の関係性も良い。
お互い寄り添えばいいのに、心は別にある。
この空気を見事に捉える玉田真也監督の丁寧な演出。


「僕の好きな女の子」も井の頭公園を背景に、男女の切ない思いを掬い取っていた。
今回も、不器用な男の言葉にならない心の揺れを映像化して見事だ。
とにかく痛い程伝わってくるのだ。


ワンシーンのみの篠原ゆき子さんの暴走演技も素晴らしい。
あのアクセントがあるからこそ、沈黙が活きる。
ヒロインは「ベイビーわるきゅーれ」の高石あかりさん。


最初は、ん?と思ったが、彼女の底知れぬ対応力、演技力に引き込まれていった。
凄い女優になると思う。
それを受けるオダギリジョーさんが完璧なのは、言うまでもない。


誰もが人を失う悲しみを経験し、何れは死んでいく。
立ち直るのは容易ではない。
「夏の砂の上」は、悲しんでいいんだ、引きずってもいいんだと、我々に教えてくれる。





1974年の三菱重工爆破事件。
多大な被害を出し、死者は8人。
その事件に関わった重要人物が、桐島聡であった。


映画「桐島です」は、半世紀に渡って素性を隠し続けた男の人生を追う物語。
彼は病院で最期に、「桐島です」と名乗った。
その4日後に死亡したのだ。


ベテランの高橋伴明監督が、彼の逃亡生活というより、慎ましやかに忍んで生活した50年に肉薄する。
代表作「TATTOOあり」の主人公を思い出す方もいるだろう。
あの主人公も、そんな生き方をするはずじゃなかったのに転がり落ちた実在の人物。


思い通りにはいかず、でかいことをやってやると大見得を切り、銀行強盗に走った。
桐島も、あの時代に同じような思想を持っていた他の若者と大して変わらない。
それなのに転がって、転がって、思い描いていたところとは違うところに辿り着いた。


神奈川県の藤沢で、土木関係の住み込みで働いていた。
ひっそりと身を隠し、 指名手配犯として一生を終えた。
ふとしたボタンの掛け違いで、偽りの人生を生きてしまった。


それはみんな誰もが起こり得ることで、決して彼が特別ではない。
自分だって一歩間違えば、起こり得たことだ。
河島英五さんの「時代遅れ」が、効果的に使われている。


寧ろしつこいくらい、監督はこの曲の世界に拘っているよう。
「目立たぬように はしゃがぬように
時代遅れの男になりたい」


「時代遅れ」が歌われるシーンは何度かあるが、そのシーンは自分にも重なってじーんと来た。
彼はどんな思いで、一生を生きたのだろう?
どんな思いで、最期に自分の名を名乗ったのだろう?


物語は決してドラマティックには展開しない。
彼がただ自身の人生を生き抜いたように、犯罪者として静かに時が流れていく。
もしかしたら、捕まっていた方がいい人生だったのかもしれないが、それも今となっては分からない。





ブラッド・ピット主演のエンターテインメント映画「F1」。
これは中年男性の心に刺さるでしょうね。
自分も熱くなった。


今は落ちぶれている伝説のレーサーが主人公。
かつてのレースで重症を負い、華々しい舞台から遠ざかって30年。
昔のチームメイトに誘われ、現役復帰することになる。


出来過ぎと言えば出来過ぎ。
予想を裏切ることもなく、最後は大団円。
そんな強引な展開も、ハリウッド映画だから。


「トップガン マーヴェリック」のジョセフ・コシンスキー監督、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマー等が再集結。
潤沢な製作費を注ぎ込み、臨場感たっぷりのアクション大作を作り上げた。
自分はレースは門外漢なので、 クライマックスの展開がよく分からなかった。


?マークはついて回ったが、それをドラマがカバー。
?を吹っ飛ばすド派手なレースシーンに息を呑む。
自分も挫折だらけの人生だったので、同じような思いをする方は多いのでは?


まあでも、そこはブラッド・ピットだから。
スターは格好良く決めてくれるけど。
やっぱり出来過ぎで。


一般人はそうはいかないのよね、とは思う。
それでも、自分は不覚にも泣いてしまったけど。
あんな風に、誰だって逆転の大成功したいでしょ。


現実を忘れたい方に。
もう一度輝いてみたい方に。
いつか輝けると信じている方に。