我が名は「桐島聡」 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


1974年の三菱重工爆破事件。
多大な被害を出し、死者は8人。
その事件に関わった重要人物が、桐島聡であった。


映画「桐島です」は、半世紀に渡って素性を隠し続けた男の人生を追う物語。
彼は病院で最期に、「桐島です」と名乗った。
その4日後に死亡したのだ。


ベテランの高橋伴明監督が、彼の逃亡生活というより、慎ましやかに忍んで生活した50年に肉薄する。
代表作「TATTOOあり」の主人公を思い出す方もいるだろう。
あの主人公も、そんな生き方をするはずじゃなかったのに転がり落ちた実在の人物。


思い通りにはいかず、でかいことをやってやると大見得を切り、銀行強盗に走った。
桐島も、あの時代に同じような思想を持っていた他の若者と大して変わらない。
それなのに転がって、転がって、思い描いていたところとは違うところに辿り着いた。


神奈川県の藤沢で、土木関係の住み込みで働いていた。
ひっそりと身を隠し、 指名手配犯として一生を終えた。
ふとしたボタンの掛け違いで、偽りの人生を生きてしまった。


それはみんな誰もが起こり得ることで、決して彼が特別ではない。
自分だって一歩間違えば、起こり得たことだ。
河島英五さんの「時代遅れ」が、効果的に使われている。


寧ろしつこいくらい、監督はこの曲の世界に拘っているよう。
「目立たぬように はしゃがぬように
時代遅れの男になりたい」


「時代遅れ」が歌われるシーンは何度かあるが、そのシーンは自分にも重なってじーんと来た。
彼はどんな思いで、一生を生きたのだろう?
どんな思いで、最期に自分の名を名乗ったのだろう?


物語は決してドラマティックには展開しない。
彼がただ自身の人生を生き抜いたように、犯罪者として静かに時が流れていく。
もしかしたら、捕まっていた方がいい人生だったのかもしれないが、それも今となっては分からない。