ああ、長崎は今日も | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


劇団の養成所時代、松田正隆さんの戯曲とは縁があった。
「海と日傘」は同期が上演し、戯曲も読んだ。
「紙屋悦子の青春」も映画版は大好きな作品だ。


「紙屋悦子の青春」は知り合いも上演し、観に行った。
松田正隆さんの戯曲の映画化「夏の砂の上」。
長崎を舞台にした喪失の物語だ。


自分が求めていた、期待していた、それ以上の作品だった。
5歳の息子を亡くした男と、17歳の姪っ子との共同生活。
そこから生まれる再生。


映画は決して悶々とせず、仲間との交流もユーモアに溢れている。
カラカラに渇いた雨の降らない長崎の夏の風景が重なる。
険しい階段も、主人公の心情を表しているようだ。


松たか子さん演じる妻とオダギリジョーさんのぎこちない元夫婦の関係性も良い。
お互い寄り添えばいいのに、心は別にある。
この空気を見事に捉える玉田真也監督の丁寧な演出。


「僕の好きな女の子」も井の頭公園を背景に、男女の切ない思いを掬い取っていた。
今回も、不器用な男の言葉にならない心の揺れを映像化して見事だ。
とにかく痛い程伝わってくるのだ。


ワンシーンのみの篠原ゆき子さんの暴走演技も素晴らしい。
あのアクセントがあるからこそ、沈黙が活きる。
ヒロインは「ベイビーわるきゅーれ」の高石あかりさん。


最初は、ん?と思ったが、彼女の底知れぬ対応力、演技力に引き込まれていった。
凄い女優になると思う。
それを受けるオダギリジョーさんが完璧なのは、言うまでもない。


誰もが人を失う悲しみを経験し、何れは死んでいく。
立ち直るのは容易ではない。
「夏の砂の上」は、悲しんでいいんだ、引きずってもいいんだと、我々に教えてくれる。