平山という生き方 | 映画ブログ 市川裕隆の燃えよ ヒロゴン


ヴィム・ヴェンダースが日本映画を撮った。
役所広司さん主演で。
しかも日本でだ。
「PERFECT DAYS」


もともと小津安二郎監督を敬愛して止まないヴェンダースだから、ちっとも不思議ではない。
自分は「パリ、テキサス」が大好きな人間だが、今回、作品のクオリティーの高さに驚かされた。
一時期、どれを観ても全く響かない時期があった。


ヴェンダースが老齢となり、ここ最近「誰のせいでもない」や「世界の涯ての鼓動」と、質の高い作品が続いていた。
撮りたいものを自由に撮り続けて来た監督が、辿り着いた境地。
淡々とした何もない物語がいい。


主人公は渋谷区のトイレ清掃人。
丁寧に仕事をきっちりとこなし、木漏れ日を浴びてお昼、夜は読書と少しのお酒。
日々同じ繰り返しだが、自分の生き方を貫いている。


ヴェンダースが描く東京は決してあくせくせず、特に主人公はゆっくりと時を過ごす。
古本屋が好きで、60~70年代の音楽を好んでカセットテープで聴く。
姪っ子の名前がニコなのも、分かる人には分かるでしょう。
スマホをずっといじるなんてことも、もちろんない。


映画のゆったりした時間の中で、観ている我々が東京の美しさに気付く。
渋谷区のトイレのお洒落さに気付く。
こんな生き方をしたいことに気付く。


主人公の平山さんが好きになる。
ちょっとしか出演しない田中泯さんや三浦友和さんが贅沢だ。
もちろん石川さゆりさんの歌も。
役所広司さんはこれでカンヌ国際映画祭主演男優賞。


田舎が嫌で夢を抱えて上京して約40年、時々都会にうんざりする。
新宿駅ではしょっちゅうホームから人が落ちて電車が止まるし、街も人で溢れ過ぎて歩きづらいし。
ゆっくり生きるのも悪くない、ヴェンダースが気付かせてくれた。