
「野火」、「斬、」の流れを汲む塚本晋也監督の新作「ほかげ」。
戦後の闇市が舞台だ。
戦争に向かいそうな今、祈りを込めた映画だと言う。
空襲で焼け残った居酒屋で体を売る女性が主人公。
趣里さんの剥き出しの演技が凄まじい。
そこで暮らすようになる戦争孤児の少年も、目が強い印象を残す。
彼らが見つめている戦争という現実。
絶望の中に見出す小さな光。
それをも押し潰す、どうしようもない現実。
デビュー作「鉄男」で評価された塚本監督は、人間の変貌を見事に描いて来た。
今回も、戦争によって狂わされていく人間の悲劇を映し出す。
森山未來さん演じる謎の男も、そんな一人だ。
彼の体を蝕んでいるのも、戦地でのトラウマ。
必死に日々を生きているが、彼の体からそれが抜け出すことはない。
その姿が顔を出す時の描写は、正に塚本監督ならでは。
暗い映像と音の洪水も、らしさ爆発。
だが今回は特に、台詞での直接的なメッセージが窺える。
戦争を繰り返す世界と、戦争にひたひたと近付く日本に対して。
北野武監督同様、世界にファンの多い塚本晋也監督。
「ほかげ」もヴェネチアで受賞。
一貫して自分のスタイルを貫く塚本晋也監督、誰も真似出来ない。