
妻夫木聡さんはいつも普通の男を演じる。
日常のごくありふれた状況を生き、そこから逸脱していく男を演じる。
そこにナチュラルに存在するから、リアリティーが生まれる。
だから、自分の好きな有能な監督作には、常に妻夫木聡さんがいる。
「ある男」でもそう。
彼がごく普通の生活を演じ、事件に巻き込まれていくからこそ、前のめりに作品世界に我々が入れるのだ。
平野啓一郎さん原作のミステリー。
亡くなった夫は、素性を偽って生きていた。
では一体彼は何者なのか?
妻夫木聡さんが、彼の正体を調べる弁護士役。
過去のある男に、窪田正孝さん。
妻に安藤サクラさん。
安藤サクラさんは「万引き家族」でケイト・ブランシェットに絶賛された涙をここでも惜しげもなく披露。
しかもオープニングから訳ありの涙だ。
監督は「愚行録」の石川慶監督。
ド派手な展開のサスペンスではなく、じわじわと謎が解明していく静かな作品だ。
キャストが旬の俳優も多く、魅力的だ。
主人公の妻に真木よう子さん。
事件に絡む男女に清野菜名さんと仲野太賀さん。
「ある男」の過去を知る女に、河合優実さん。
主人公の相棒に小籔千豊さん。
真相を知る男に柄本明さん(このシーンが凄い!)。
自分じゃない誰かになりたい、そんな願望を持つ人もいるだろう。
過去の自分とおさらばしたい、そんな思いに駆られる人も少なくないはずだ。
自分とは何者なのか?
自分の胸を叩いても答えは出ない。