林芙美子 原作 豊田四郎監督
ずいぶん古い映画です。
昭和13年(1938) 製作の映画です。
画像が 綺麗じゃなくて・・・
中程の 綺麗な画像は お借りしました。
啓吉の母・貞子 (栗島すみ子)
貞子は四人姉妹の長女だが この姉妹はみんな
貧しくとも 活動的で前向きで 揃って気が強い。
しかし、その連れ合いなど 登場する男たちは
全員、生活力が無く 女に頼りきっている。
家の屋根の上を 爆音を立てて 軍用機が飛んだり
灯火管制があったりと
当時の暗い暮らしぶりも 覗くけれど
庶民たちは逞しく 貧乏を踏み台にして いきいきと生きている。
姉妹たちが
シャンソン「暗い日曜日」を 唄うシーンもあった。
お話。
11歳の啓吉は 母・貞子と幼い妹の3人で
小さな一軒家に住んでいる。
未亡人の母には 愛人がいるが
最近、商売に失敗したこの男が 家に転がり込んで来た。
↓
啓吉は 男とソリが合わない。
母も 妹には 男をパパと呼ばせ
男も 妹にだけ おみやげを買って来たりする。
母は 普段から啓吉に
辛く当たっている訳では ないけれど
この男と接すると 息子の存在は遠のいてしまうようだった。
やがて 啓吉は
母の次妹・寛子に 預けられてしまう。
売れない小説家の夫 (藤井貢)
「迷惑ねえ、ウチだって苦しいんだから・・・
あんた、あの子、どうにかしてよ」
聞こえて来る 夫婦の会話。
気の優しい勘三は 啓吉を不憫に思い
可愛がってくれるが
しかし、なんたって 生活が楽じゃないので
寛子に言われるまま 啓吉を
一番下の妹・蓮子の家に 連れて行く。
蓮子はまだ二十歳前だが 画家志望の夫と二人暮らし。
この夫婦は いつもあっけらかんと明るいが
実は料金不払いで 電気も止められていて
逆に お金をねだられる始末。
↓
仕方ない・・
勘三はすごすごと 引き下がることにするが
そのまま帰るに帰れず 啓吉を連れて 飲み屋に行く。
啓吉は疲れて 店で寝込んでしまうが
目が覚めると 勘三おじさんの姿が無い。
それは勘三が お手洗いに立った隙だったが
驚いた啓吉は 店を飛び出した。
夜の街をさまよっていた 啓吉を救ってくれたのは
流しの尺八吹きの おじさんだった。
尺八のおじさん (山口勇)
おじさんは 自分にも
田舎に啓吉と同じくらいの 年の息子がいると言った。
そして 一人住まいの部屋に 泊めてくれ
翌朝、ご飯を食べさせてくれるが
息子に温かい上着を 送ってやるんだよと
小包を作っている おじさんを見たとき
啓吉は不意に 哀しくなってしくしくと泣き出す。
啓吉を励ます おじさん。
「いいか、世の中は泣きたいことだらけ。
みんな我慢してるんだ。
おまえは泣けるだけ、まだましだ。
だけど、男なら辛抱しろ」
そして、泣きたいときには 歌を唄えと
尺八で 箱根の山は 天下の嶮~ と吹く。
一緒に唄っているうちに だんだん元気が出て来る啓吉。
結局、このときは おじさんに送られて
寛子と勘三夫婦のもとに 帰った啓吉だが
その後、子どもを預けっぱなしで
好き勝手に暮らしている姉に怒った 妹たちによって
啓吉は やっと自分の家に帰ることが出来た。
三女(梅園龍子) 四女(市川春代)
数日経ったある日、学校の授業中
よそ行きの 綺麗な着物を着た 母が来た。
「急に九州へ行かなくちゃならないのよ。
すぐ、帰って来るからね、
あんたはまた、寛子おばさんの所にいきなさい」
啓吉は 泣きそうになりながらも
うなづくよりほか 無かったが
学校が終わって 帰った家は
家具ひとつ無い もぬけの殻だった。
しばらく呆然と
空っぽの家を眺めていた 啓吉だったが
やがて、上を向くと 声高らかに唄い出した。
箱根の山は 天下の嶮~
函谷關も ものならず~
啓吉は もう、泣かなかった。
この映画の 原作を読んだきっかけに
林芙美子さんの短編や 自伝小説なども読みました。
行商をしていた両親と 各地を廻っていた幼い頃の
想像を超える 辛い生活。
昼は 掛け持ちの仕事をし
夜は 恥ずかしさと屈辱に耐えながら
路地に露店を出して働いた 東京での青春時代。
その苦境の中で 文学への情熱は
むしろ、ますます燃え盛って行ったのですね。
素晴らしい短編、長編がいっぱい。
今年も ほんとにほんとに ありがとうございました。
どうぞ、良いお年をお迎えください。