☆ お早う (1959) 松竹 | ゆうべ見た映画

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懐かしい映画のブログです。
ときどき、「懐かしの銀幕スター」「読書」など
そして「ちょっと休憩」など 入れてます。




小津安二郎監督


この映画もきっと 50回も60回も 
観ているのではないかと 思うのだけれど

そのたびに 小津監督の最高傑作は
『東京物語』でも 『晩春』でもなく
この映画じゃないかなと思う。

それはたぶん、
私自身の深い思い入れの所為 なんですけどね。

1959年というと 昭和34年。
ちょうど私も、この映画の子供たちと
同年代ということになります。

 

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舞台は 郊外の新興住宅地。

マッチ箱みたいな 同じような構えの家が並んでる。

その中の一軒  林家の兄弟 
お兄ちゃんの実と 弟の勇が主人公。

            ↓

 弟・勇ちゃん(島津雅彦)  兄・実くん(設楽幸嗣)


ふたりはテレビが見たくて 英語を習いに行くと言っては

他のおうちの子たちと 誘い合って
隣の家に テレビを見に行ってしまう。


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隣りの家の住人は

大泉晃さんと 泉京子さんのカップル。


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キャバレーにお勤めの ふたりは
昼間から 西洋の寝間着(ガウン)で
♪~タララ、タッタッラ、タッタラ~と
歌いながら 路地を歩いてる。

「あの家に行くと、ロクなこと覚えてこないのよ」と
どこの親たちも 子供を行かせたくない。


ある日、実と勇は また隣に行ってるのがバレて
お父さんと お母さんに叱られる。

 

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お父さん(笠智衆)   お母さん(三宅邦子)


すると子供なりに 理屈を言って反抗する。

 

「家にテレビが無いから 隣に見に行くんじゃないか、
 テレビを買ってくれれば 見に行かないよ」

しかし、お父さんは

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「うるさい!男は余計なことをごちゃごちゃ言うな
 いつまでも、女の腐ったのみたいに!」

って、お父さんの方が 頭ごなしで理屈も何もない。

女の腐ったみたいのって 何さ!
でも確かにあの頃 そんなふうに言ってたナ。

そこでふたりは この瞬間から 
口をきかない ストライキに入った。


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「いいか、絶対、喋っちゃ駄目だぞ」

 

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「うん、兄ちゃん、タンマありかい」

 

こういう訳でふたりは 学校でも、近所のおばさんにも 

英語の先生にも 挨拶もしなくなった。

 

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(アルバイトの) 英語の先生(佐田啓二)

 

「おい、なんで黙ってるんだい、

 口きかないと不自由だろ」

 

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先生と密かに 想い合ってる

実たちの叔母さん・お父さんの妹 (久我美子)

 

「この子たち、夕べからご飯も食べないんです」

 

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口きかないから ご飯も貰えない

家からこっそり持ち出した ご飯とお茶。

 

「オンボロだね、兄ちゃん」

「うん、おかずも持ってくれば良かったな」

 


こうした子供たちを中心に廻る お話と同時進行で 

おばさんたちの ドラマもあります。

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ご近所さん (長岡輝子)
「先月分の、婦人会の会費、どうなっちゃってるんでしょ」
 

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ご近所さん (高橋とよ)

「あら、私だって、とっくに払ったわよ」

 

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会計は 実たちのお母さん。 

「困りますわ、まるでワタクシの所為みたいで…」

 

こんな、ちょっとした行き違いで 

ご近所同士に トラブルが生まれ 

 

お早ようございます、の挨拶も
ちぎれちぎれなり 余計に上手くいかない。

 


「一見、無駄に思える挨拶が 世の中の潤滑油になってるんだ」
佐田啓二さんが、いいこと言ってます。


結局、行方不明だった 婦人会の会費は

婦人会長さん(杉村春子)の お婆ちゃんが

預かってたのを 忘れとった、ということで一件落着。

 

このときの 母子喧嘩が凄い。

 

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 「やんなっちゃうね、モーロクしちゃって!

 おばあちゃん、あんたもう、ナラヤマだよ、とっとと行っとくれ!」

 

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お婆ちゃん (三好栄子)


「ふん、一人で大きくなったような口聞きやがって
 ロクでもない亭主とくっつきやがって あんなガキひり出しやがって!」


そして 佐田さん、久我さんのロマンスは 

恋の鈍行電車 なかなか進まない・・

 


「いいお天気ですね」
「ほんと、いいお天気」
「このぶんじゃ、2、3日続きそうですね」
「続きそうですわ」
「あ、あの雲、面白い形ですね」
「ほんと、面白い形」
「何かに似てるな」
「そう、何かに似てるわ」
「ああ~、いいお天気ですね・・・」
 

 

ラストは 

わーい、ウチにもテレビが来た!

 

 

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この時計と電灯も 懐かしい感じだなあ。

 

 

この頃は 大人と子供、男性と女性、目上と目下
その境界線が はっきりしていた。
態度や言葉遣いのラインが きっちりと引かれていました。

時には 反抗しても
子供にとって 大人の言うことは絶対で
当然、大人も今よりずっと 威厳や説得力がありました。

 

 

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先生には きちんと帽子を取って 挨拶。

 

 

小津さんの作品を観るとき

いつも感じるのは 

子供を見る、大人の愛情深いまなざしです。 

 


テレビの登場で 国民が一億総白痴化すると言った
大宅壮一さんの言葉も 流行しました。

 

 

撮影風景

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杉村春子さんと 小津監督

 

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川崎六郷土手