Economyは「経済」と訳されます。「世の中をおさめ、民を救う」という意味の「経世済民」を短くしたものが「経済」です。

「世の中をおさめ…」なんていわれると、それを勉強する経済学は大変にえらい学問なんだなぁと思ってしまいます。でも、もともとはもっとスケールのちいさい話だったんです。

語源を紐解くと、古代ギリシャ語のoikonomia(オイコノミア)にたどり着きます。この単語はさらに、oikosとnemeinに分けることができます。oikosは「家」という意味で、nemeinは「管理」という意味です。

つまりoikonomia(=economy)の本来の意味は“Household management”なのです。この「家のマネージメント」を考えることは当時のギリシャの人々にとって非常に大切なことでした。

当時はひとつの家庭に数十人がともに生活していました。十数人でなく、数十人です。そのうちの多くは奴隷として働いていました。こんなに多いと常に家庭崩壊の危機にありますから、家の主にとって「どうやって家庭を上手くマネージメントすべきか」というのは非常に重要な問題だったのです。

そのうち都市国家が発達してくると「この都市(polis)を一つの家と見立ててマネージメントをしていこう」となっていきます。それが “Political Economy” と呼ばれるものです。「ポリスの(political)マネージメント」です。スケールがひとつひとつの「家」から「世の中」に変わったもの、それがPolitical Economyで、「経済」という訳語がきちんとはまるのはこちらの方なのです。
男性に対する敬称はMr.のひとつに限られていますが、女性に対するそれはMiss.とMrs.のふたつがあります。その女性が未婚の場合はMiss.が使われ、既婚者の場合はMrs.が使われるというのが慣習です。

これは「結婚は男性が女性を選ぶことであって、女性に結婚相手を決める資格はない」という現代では通じない考え方の名残によるものです。

男性が選ぶのですから、相手の女性が既に結婚しているのかどうかはどうしても気になるのです。ですから挨拶する時に女性は「どうも、ミス~」です。といったりします。そうすると、「お、まだ見込みがあるな」と構えることが出来ます。既婚者だったら「手を出さないようにしよう」とも思えます。

逆に、女性は選ぶことが出来ないので敬称がMr.のひとつでも構わなかった訳です。これを不服として最近ではMs.という表記の使用が薦められています。

この慣習の名残は「結婚する」という単語のつかい方にもあらわれているんです。「~と結婚している」という表現は 'be married to ~ 'であると聞いて違和感を覚えなかったですか。

「~と」に対応する一般的な英単語は 'with ~ 'であるはずですが、「結婚」の話になると 'to' が用いられます。変です。事の次第は、「この変が普通だった」時代があって、その時の語法が現在にも残っているということなんです。

もともと、'marry' は「~と結婚させる」という意味でつかわれていました。この時の視点はお父さんですね。日本語でも「娘をよめに(やる)」という表現がありますが、それとおなじです。

I married my daughter to the guy. とすれば「そいつに娘をよめにやった」です。

視点を娘にずらすには、いまの文を受け身のかたちにすればよいです。
ですから、

I was married to the guy (by my father).

となります。訳するならば「私は(父に)そのひとと結婚させられた(した)。」となります。

ですから英語で「~と結婚する」は 'be married with ~ " でなく "be married to ~ " を用いるのです。

フェミニストのなかからもこの表現に対する批判は寡聞にして知りません。それほど人口に膾炙した表現であるということかもしれません。
藤沢周平による小説に『人間の檻』があります。
江戸時代の獄医(牢屋で囚人をみてまわる医者のことです)である立花登が、様々な問題をそのずば抜けた推理力で解いていく、といったお話です。

立花登の推理の進め方はある基準に基づいています。それは、「普通だったらこういう返事をするはずなのに、行動をとるはずなのに、表情をするはずなのに、どうして彼/彼女はそれとは違った返事・行動・表情を採択したのだろう」と、「まず『普通』を考えて、そこから違いに焦点をあてていく」のです。

ですからまず「普通だったらどうする」を知っていなければ、事件は解決できません。立花登はこの「普通だったら…」の感覚を持っていたために、名推理を導きだすことができたのです。つまり「『普通』を良く知っていたために、『普通でない』ことにセンサーがうまく反応した」ということです。

ところと場所が変わってつい先日の東京で、「英語のセンサー」というお話が出てきました。

高校生の英作文をみていたとき、その英文の表現がどうも的を射ていないのですが、それを日本語に直すと不思議なことに問題に出された日本文と近いのです。文法にも誤りがないので、こちらは「いいんだけども、『普通は』こういう物の言い方は英語ではしないのです」というアドバイスにならざるを得ません。

それは言い換えれば、「その英文は読み手のセンサーに引っかかってしまうような不自然なものだ」ということです。

逆の立場を想起してみれば分かりやすいです。外国人のシンガーが日本でライブ公演をおこなったとき、観客に向かって「トーキョ、アイシテマスー」と叫んだそうです。当然その場は盛り上がりますが、「普通」はその状況では「愛してます」よりも「オマエラガスキダー」とか「モリアガッテルカー」が使われます。でも「アイシテマスー」だって英語になおせば “I love you, Tokyo!” ですから英語にしてしまうと至って「普通」な表現です。

その逆のことがその高校生の英作文では起こっていた訳です。「日本語に直してみれば自然なのだけれど、英語ではそのような言い方はしない」という類いの作文だった訳です。

こういったミスをなくすには「英語のセンサー」の感度を上げるしかない。英語のセンサーはどこにあるのかといえば、僕は耳だろうと思います。英語を聞いている時に、もし「普通」でない表現があったときにまず耳が反応する。そして「あ、へんだな」と思う訳です。

英語を読んでいる時も同じです。厳密に言えば読んでいる時には「目」が反応すると思われると思いますが、僕の感覚では読んでいる時でさえ「耳」が反応している。おそらく英語を聞いていて「あ、へんだな」と思う時と、英語を読んでいて「あ、へんだな」と思う時は、同じ脳の部位が働いていて、それは「聴覚」と関係しているのではないでしょうか。少なくともそのように信じたくなるほど、普通じゃない表現に対して「耳」が反応している、という感覚があるということです。

では先ほどからいっている「普通」とはどういったことをさすのでしょうか。ソシュールという言語学者は、「ラング」と「パロール」という言葉を生み出しました。

「ラング」とは社会的に、もしくは一般的に、もっといえば「普通に」使われている言葉遣いのことです。これは自分自身の力ではなかなか変更することの難しい部分です。生まれたところがある種の「ラング」を採用していれば、それに従わざるを得ないということです。

「パロール」とは「個人の発話」のことです。普通の物の言い方(「ラング」)ではなく、その人が特徴としてもつ「癖」みたいなものです。

「物の言い方の普通」っていうのは上にあげた「ラング」に属するものです。ではこの「普通」の感覚はどうやって身につけることができるでしょうか。

フォークナーという小説家は「どうしたら文章がうまくなりますか」という質問に対して以下のように答えました。

Read, read, read. Read everything - trash, classics, good and bad, and see how they do it. Just like a carpenter who works as an apprentice and studies the master. Read! You'll absorb it. Then write. If it is good, you'll find out. If it's not, throw it out the window.” (Faulkner)

「読んで、読んで、読む。なんでも読むことだ。ゴミみたいな本から古典まで、良い物も悪いものもひっくるめて。そしてどうなってるのかを見てみることだ。それは見習い大工が親分の仕事をみてやり方を覚えるのと似ている。まず読むんだ!君はそれをきっと吸収するだろう。その時がきたら書き始めたまえ。もしその作品が良ければ自分で分かるはずだ。もしちがったら、そんなもん窓から放り投げてしまえ。」

この方法は、英語を学習する上で「普通」の感覚を得るための訓練と同じだろうと思います。

「英語のセンサー」の感度を上げるには、まず「よんで、よんで、よむ」ことです。そうすることによって、「英語の普通」を自分の中に取り込んでいてく。absorbするということです。

具体的なものとすれば、例文暗記というものは効果的であると思います。単語を覚える時も例文の中で覚えてしまう。電子辞書なら検索で10個以上の例文が示されます。それを覚えてしまう。

そういうことの繰り返しで「普通」を取り込んでいくこと以外に、感度の上げ方はないのではないかと思います。