離島防衛、グレーゾーンならではの難しさとは? | 因幡のブログ

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(米国で米陸軍と共同演習を行う陸上自衛隊 陸上自衛隊HP http://www.mod.go.jp/gsdf/fan/photo/training/index.html より引用) 

 昨今の情勢緊迫により注目を集めている離島防衛、自衛隊の装備や運用面からの解説はよく目にしますが、事態対処の難しさは実はこうしたハード面のみではないのです。

グレーゾーン事態とは
 離島防衛と一言で言っても様々な事態が考えられます、例えば何処かの国の軍隊がわかりやすい形で大軍勢を引き連れて島を占拠した、ということであれば事態は非常にシンプルに「他国による侵略」という風に認定されます。しかし、昨年成立した安全保障法制における政府の説明には、武力攻撃に至らない侵害への対処というものの中に「離島等における不法行為への対処」という項目がありました。実はこれも離島防衛にあたる事態なのです。
ではこの上記の二つの事態はどう違うのか、順を追って説明していきたいと思います。
 まず、武力攻撃に至らない事態、いわゆる「グレーゾーン事態」についてみていきます。グレーゾーン事態は、防衛白書によると次のように示されています。

「いわゆるグレーゾーンの事態は、純然たる平時でも有事でもない幅広い状況を端的に表現したものであるが、たとえば以下のような状況がありうるものと考えられる。
 ①国家などの間において、領土、主権、海洋を含む経済権益などについて主張の対立があり、
 ②そのような対立に関して、少なくとも一方の当事者が自国の主張・要求を訴え、または他方の当事者に受け入れさせることを、当事者間の外交的交渉などのみによらずして、
 ③少なくとも一方の当事者がそのような主張・要求の訴えや受け入れの強要を企図して、武力攻撃に当たらない範囲で、実力組織などを用いて、問題に関わる地域において、頻繁にプレゼンスを示したり、何らかの現状の変更を試みたり、現状そのものを変更したりする行為を行う」(平成27年度版防衛白書 http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2015/html/n1010000.html#a1 より引用

つまり我が国と他国との間に経済権益などを巡る対立があり、どちらか一方の国が自国の主張を通すために、武力攻撃(一国に対する組織的計画的な武力の行使)に当たらない範囲で行動を起こすことがグレーゾーン事態だということになります。


敵は個人?それとも国家?

      グレーゾーン事態の概要を紹介しましたが、もっとスッキリした説明をするならば「敵の正体が分からず、その意図も判然としない事態」と言えます。敵の正体が明確に国家であり、我が国を侵略しようという意図が明確に現れていれば、我が国は迷うことなく自衛権を行使できます。しかし敵の正体が分からず、何をしたいのか分からないということになれば、自衛権の行使は躊躇われます。つまり事態がうやむやで平時(白)か有事(黒)かハッキリしないので、グレーというわけです。
      では話を元に戻して、離島域での不法行為とはいかなる事態なのでしょうか。例えば、とある島に漁民が大量に上陸してきましたが、よくよく調べると彼らは銃器で武装していることが判明し、そのまま島を占拠してしまった、というような事態がこれにあたります。
 この場合、彼らは明確に何処かの国の軍隊構成員とは認められず、とりあえず武装した犯罪者集団と分類されます。ですのでこれに対しては一義的に警察力をもって対処することにならざるを得ません。つまり先述したように、わかりやすい形での島嶼部に対する他国からの侵略ではなく、こうした武装集団による侵害の場合には、相手がよく分からないために自衛隊ではなく警察力で対処することになるのです。

治安出動か?防衛出動か? 
   ではこの武装集団が、警察力をもってしても対処が困難であると判断された場合はどうするのでしょうか、もちろん自衛隊が登場するわけです。しかしここで問題が生じます。自衛隊の出動形式には大きく二つの場合があります。一つは国内の治安維持のために警察権を行使する治安出動(自衛隊法第78条)・海上警備行動(同法第82条)で、
      もう一つが自衛権を行使する防衛出動(同法第76条)です。
     さてこの武装集団による侵害にはどちらで対処すべきなのでしょうか?普通に考えれば不法行為を働く武装集団への対処ですから、前述の警察権に基づく治安出動が妥当なように思えます。しかし、こうした武装集団にも、自衛権を行使できる場合が存在します。それはこの行為が侵略と認められる場合です。
       1974年に国連総会で決議された「侵略の定義に関する決議」というものがあります。この第3条(g)号には次のように記されています。

第3条(g) 上記の諸行為に相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装した集団、団体、不正規兵又は傭兵の国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与

 つまり、例え相手が武装集団であっても、「国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与」が認められれば、これを侵略とみなすことが出来るということになります。具体例を挙げるならば、2014年、東欧ウクライナなクリミア半島に現れた「謎の武装集団」のような、外見上は武装集団でも、その背後にロシアという国家の意思が感じ取れる、そういった事態です。こうした場合には、自衛隊は自衛権に基づく防衛出動により武装集団を排除することになるわけです。

対処のための法整備

 最後に、このような事態に対処するための法整備はどうなっているのかについて、見ていきたいと思います。まず、離島域での不法行為に対して、警察力による対処を容易にするための法整備として、海上保安官の権限向上があげられます。従来海上保安官は、陸地において犯人を逮捕したりする権限を有してはいませんでした。しかし、離島域での不法行為には、警察官では即応できないために、海上保安官にも一定の条件下でこうした権限を与えられることになったのです。

海上保安庁法
第二八条のニ 海上保安官及び海上保安官補は、本土から遠隔の地にあることその他の理由により警察官が速やかに犯罪に対処することが困難であるものとして海上保安庁長官及び警察庁長官が告示する離島において、海上保安庁長官が警察庁長官に協議して定めるところにより、当該離島における犯罪に対処することができる。

 さらに自衛隊に関しても、治安出動や海上警備行動の発令手続きを簡略化するために、電話閣議というものを導入しました。内閣の閣僚が揃って行う閣議は原則として全会一致制で、しかも遠隔地にいて直ぐに参集できない閣僚もいることが予想されます。そのため、電話による閣議を行い、そこで連絡が取れなかった閣僚に関しては事後了承を得るということになったのです。

 離島防衛というとどうしても正面装備などに注目が集まりますが、こうした細かい部分も同時に広く理解される必要があるのではないでしょうか?