簡単解説、今注目の駆け付け警護とは? | 因幡のブログ

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(南スーダンで活動する陸自部隊 陸上自衛隊HP http://www.mod.go.jp/gsdf/sp/fan/photo/index.html より引用)

 現在テレビなどで注目を集めている「駆け付け警護」、いったいどんなものなのか?法的な立ち位置は?簡単に解説します。

そもそも駆け付け警護とは?

 ではそもそも駆け付け警護とはいったいどのようなものなのでしょうか、2016年度版防衛白書(http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2016/html/nc018000.html)には次のように説明されています。

PKOの文民職員やPKOに関わるNGO等が暴徒や難民に取り囲まれるといった危険が生じている状況等において、施設整備等を行う自衛隊の部隊が、現地の治安当局や国連PKO歩兵部隊等よりも現場近くに所在している場合などに、安全を確保しつつ対応できる範囲内で、緊急の要請に応じて応急的、一時的に警護するもの

 つまり、PKO関係者などが危険な状況に陥った際に、要請を受けた近辺で活動している自衛隊がこれを助けにいく、ということが「駆け付け警護」です。ただし、駆け付け警護という言葉自体はPKOにおいてのみ適用されるものではないので、厳密に言えば防衛白書の記述は極めて限定的なものと言えます。

法的に見る駆け付け警護
(1)武器の使用
 駆け付け警護では当然武器を使用する場面も想定されます、そこでPKOにおいてどのような武器使用が認められているのか、まずはそこからみていきます。
 PKOにおいては二つの武器使用が設定されています、まず一つは「自己保存型の武器使用」です。自己保存型武器使用は、分かりやすく言い換えれば「自分の身を守るための武器使用」というもので、PKO協力法第25条に規定されています。

第25条 前条第一項の規定により小型武器の貸与を受け、派遣先国において国際平和協力業務に従事する隊員は、自己又は自己と共に現場に所在する他の隊員若しくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命又は身体を防護するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、当該小型武器を使用することができる。

 自己保存型武器使用は、自然権的権利に基づくもので、自分あるいは自分と一緒にいる人間が攻撃を受けた際に、これに反撃することができます。また、自己保存型では例え相手が「国または国に準ずる組織」であっても、憲法で禁じられている「武力の行使」には当たらないとされています。しかし、自己保存型は自らに攻撃が無い限りは武器を使用することは出来ず、当然離れた場所にいる人間を助けにいくことは許されません。従来駆け付け警護が許されなかった背景には、この制約に加えて「自己保存を超える形の武器使用は武力の行使に当たる可能性がある」と判断されてきたためです。
 もう一つは「任務遂行型の武器使用」で、駆け付け警護の根拠規定はこちらになります。任務遂行型武器使用とは、前述した自己保存型とは異なり、任務を遂行するために武器を使用することが出来ます。こちらはPKO協力法第26条に規定されています。

第26条 2 前条第三項(同条第七項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定するもののほか、第九条第五項の規定により派遣先国において国際平和協力業務であって第三条第五号ラに掲げるものに従事する自衛官は、その業務を行うに際し、自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体を防護するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、第六条第二項第二号ホ(2)及び第四項の規定により実施計画に定める装備である武器を使用することができる。

 ここにある第三条第五号ラ号とは

ラ  ヲからネまでに掲げる業務又はこれらの業務に類するものとしてナの政令で定める業務を行う場合であって、国際連合平和維持活動、国際連携平和安全活動若しくは人道的な国際救援活動に従事する者又はこれらの活動を支援する者(以下このラ及び第二十六条第二項において「活動関係者」という。)の生命又は身体に対する不測の侵害又は危難が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、緊急の要請に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護

 というもので、つまりPKO活動に従事している活動関係者に危険が生じた際に、自衛隊が武器を使用してこれを助けに行く事が出来ると定められています。ただし前述の自己保存型とは異なり、任務遂行型にはいくつかの制約が課せられています。まず、武器を使用できるのは事前に任務を付与された隊員のみで、その他の隊員は武器を使用することが出来ません。PKOの場合は、「駆け付け警護」という任務を付与された隊員のみが、そのために武器を使用できるということです。また、自己保存型では例え相手が「国または国に準ずる組織」であっても武力の行使にはあたりませんが、任務遂行型の場合は武力の行使にあたると解釈されているため、基本的には「国または国に準ずる組織」との戦闘が発生しないような、停戦合意等が履行されている現場でしか実施できないことになっています。

(2)武力の行使との関連性
 (1)でも記載した通り、駆け付け警護における武器使用の根拠規定は任務遂行型の武器使用であり、武力の行使との評価を受けないように慎重な運用が想定されています。そのため自衛隊が武器を使用する相手に「国または国に準ずる組織」が登場しないように、PKO参加5原則が満たされていて、かつ派遣先の国や紛争当事者の自衛隊受け入れ同意が安定して維持されていることが要件としてあげられています。
PKO参加5原則とは
1)紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
2)当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊へのわが国の参加に同意していること。
3)当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4)上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
5)武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。


です。以上のように、PKOにおける駆け付け警護とは、極めて厳格な規定のもとで実施されることになります。

 駆け付け警護について、簡単にですが説明させていただきました。今後自衛隊が南スーダンで駆け付け警護を実施するかは分かりませんが、今後の情勢次第では、その実施は厳しいものとなるかもしれません。