この物語は1・2・3・4 がございます。

 

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ツルの祭典が終わった翌朝、
日の出 間近な聖なる谷のツルたちは、
それぞれの故郷目指して出発します。
 
 
 


たった一人で来ていたツルは、
なごり惜しくも見送りました。





「ここは早く去った方がいい」
西の風が言いました。
 




「雪嵐がやってくる」
南の雲が言いました。
 
 
 


「でもあたし・・・どこへ行けばいいのか、
わからないわ」
孤独なツルは言いました。
 
 
 


「古い世界に戻りたくない」





それはあの老いた教師がいる、
故郷の学校のことでした。
 
 
 
 
 
 
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***
 
 
 


もちろんその老いた教師にも
ツルの祭典から発信されたものが届いておりました。





祭典の最後の踊り
”切なさ”が教師の胸にとどまります。
 
 
 
 

「私は・・・」教師はつぶやきました。
 
 


「私の仕事は生徒の未熟さを見つけ、
するどく指摘し、矯正すべく鍛錬することだった。
そういえば・・・どの子も切ない顔をしていたな」
 
 
 


教師は感慨にふけります。
 
 
 
 
 
 
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「私の一生は、あの表情を見続けてきた。
それは当たり前のことだった。
教師の仕事とはそういうものさ」
 
 
 
 


老いたツルは夜明け前の校庭にやってきました。
その時、教師はさみしげにうなだれる、
とても幼いツルの残像を見つけたのです。





それはずっと昔、
厳しい教師に認めてもらえなかった自分自身の姿でした。
 
 
 


老いたツルは立ちすくみ、
小さな自分を抱きしめたくなりました。





けれどもそれはただの面影。
ただの悲しげなまなざしでした。
 
 
 


老いたツルはため息をついて、
雲に覆われた榛色(はしばみいろ)の空を見上げます。
冬の予感と共に、切なさと・・・失われた時がありました。
 
 
 
 
 
 
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***



一方、聖なる谷のあのツルは、
いまだ悩んでおりました。

他のツルたちは隊列を組んですべて去り、
彼女は一人ぼっちになっていました。
 
 
 
 


怪しげな息遣いの、厳しい嵐が近づいています。
 
 
 


「あたし故郷になんか帰りたくない」
ツルが言いました。




「そうさ、帰る理由は別段ないよ」
西の風が上機嫌に言いました。
 
 


「君の踊りは・・・ふるさとにも、
隣町にも、そのまた隣町にも、すっかり届いたんだから」
南の風が意気揚々と言いました。





「じゃあ、あたし・・・。
行きたい世界を旅していいの?」
ツルは遠慮がちに言いました。
 
 
 


「もちろんだとも、そうこなくっちゃ!!」
西の風と、南の雲が口をそろえて答えました。





そして軽々とツルを持ち上げ、
聖なる白い谷を旋回しながら上昇しました。
北の峰から雪嵐の黒い唸りが迫っています。
 
 
 
 
 
 
 
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「さあ、高く高く飛ぼう!」
西の風が言いました。





「自由に世界を旅しよう!」
南の雲が言いました。




その時ツルは初めて笑い、
翼は風をしっかりとらえ、気流に乗って去りました。
夜明けが遠くに見えました。
 
 
 
 
 

ほんのりと、紅色(くれないいろ) がさしました。
 
 
 
 
 
 
 
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これにて結果的に長編となった「ツルの祭典」を終わります。
(*゚ー゚*)
お読み頂き感謝。




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