ウタマロ物語をお届けします。
1〜5の連作ですが、3分ほどで読めると思います。
お楽しみください。
☆.。.†:*・゜☆.。†.:*・゜
あるところに躍ることが大好きな、
無邪気なツルがおりました。
大きな白い羽、しなやかな首、美しい声の持ち主でした。
のびやかなダンスはお日様の光を浴び、
冷気の中でキラキラ光をまき散らします。
そのツルの願いは、ずっと遠くの有名な谷で開かれる
『ツルの祭典』で自分のダンスを踊ることでした。
*******
ところがそれを聞いた、
老いたツルの教師が言いました。
「お前はなにを勘違いしているんだね?
あの祭典に行くには、たくさんの段階があるんだよ」
「それはなあに?」
無邪気なツルは尋ねました。
「まずは”ここで”踊ることさ。
この村で少しずつ有名になって認めてもらうのさ。
そして町に出て、認めてもらい、
隣町でも認めてもらい、そのまた隣町でも認めてもらう・・・。
そうなったら『ツルの祭典』に出ることを考えてやってもいいよ
それが昔からのやりかたなんだよ」
無邪気なツルはがっかりしました。
彼女は今すぐにでもあの谷に飛んで行きたかったからです。
それを見て老いたツルの教師はくりかえします。
「いいかい、それが昔からのやりかたなんだよ。
だいたいお前は方向音痴、
一人でなんか行けっこないよ。
その上あそこは遠いんだ。
その上あそこは遠いんだ。
お前の華奢な体力じゃ、どう考えたってとても無理」
そう強く言って去りました。
********
その晩、美しい月夜でありました。
けれどもツルはうなだれます。
なぜかって、
このツルは踊ることしかできないからです。
どこに憧れの谷があるのか、
どうやったらそこまで飛べるのか…。
何にも知らない世間知らずでありました。
******
やがてお月様は去り、霧が晴れ、
真新しいお日様が現れようとしています。
冷えきった大気が目覚めようとしています。
……その時でした。
西の風と南の雲がやってきました。
☆.。.†:*・゜☆.。†.:*・゜
物語は2へ続きます。