【対談インタビュー】音楽アドバイザー堀 朋平×トリオ・アコード津田裕也(後編) | 住友生命いずみホールのブログ

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住友生命いずみホール2023年度の年間企画「シューベルト――約束の地へ」もいよいよ今週、2月22日(木)Vol.6「歴史をきざむ三者」でシリーズのラストを迎えます。

 

Vol.6に出演するトリオ・アコード津田裕也(ピアノ)と、住友生命いずみホール音楽アドバイザー堀朋平(音楽学)による対談企画の後編をお送りいたします。

 



 

トリオ・アコードの津田裕也は学生時代に最後の3つのソナタを集中的に研究し、その後の活動でもシューベルトの作品を大切に演奏してきました。

 

 今回の対談では、その音楽に出会ったきっかけと魅力、堀 朋平の著作『わが友、シューベルト』などに話題を馳せながら、当ホールのシリーズ「シューベルト——約束の地へ」の最後を飾るコンサートについて、深く語り合いました。

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【特別対談】後編 

  ”歴史をきざむ三者”とトリオ・アコード

<前編はこちら

 

 

—プログラムはあまり聞かれないフンメルの作品が入っていますね

 

 

津田裕也(以降津田):「そうなんですよね。堀さんが考えてくださったプログラム。」

 

堀朋平(以降堀):「こんな珍しい曲をお願いして申し訳ない!」

 

津田:「いえ、堀さんにおんぶに抱っこで(笑)それで聴いてみたら『あ、いい曲だね』みたいになりました。」

 

:「あんまり知られていないのですが、フンメルは古典派の立役者です。ハイドンの愛弟子であり、シューベルトが尊敬していたという意味でも、ぜひこの3者を一堂に、という願いがありました。」

  

 

フンメル, 1778-1837/ハイドン, 1732-1809/シューベルト, 1797-1828

 

 

 

 

——フンメルはいままで弾かれたことはありますか?

 

津田:「いえ、今回が初めてです。爽やかでケレンミのない、とてもチャーミングな音楽ですよね。」

 

 

「はい。軽いとはいえ、テーマがつぎつぎ出てきて歌いつがれる第1楽章は、シューベルトの鱒クインテットに似ていると思います。一筋縄ではいかない、活きのいいところ、ときに――今回の曲はわりと素直ですが――目を疑うほど前衛的なところに、シューベルトは影響を受けたんじゃないかと。これに続けて、ハイドンの変ホ短調トリオはいかがですか?」

 

 

津田「これも3人で弾くのは初めてです。まず調からして特殊。すごく暗いというか、幽霊が出そうな…フラットが6つも付くのは当時としては絶対にない調ですよね。フンメルのシンプルで美しいものと、ハイドンの暗い色というコントラストが前半でも利いていて、それを経てこその後半、という組み立てですね。」

 

 

「いま、幽霊が出そうなぐらいとおっしゃっていただきましたけど、本当にその通りで、変ホ短調は『幽霊が語るような調』だと当時の美学書に書かれているんですよね。」

 

 

津田:「調に関しては、現代とピッチが違うと思うので実際どういう音で聞こえたのかは想像するしかないんですけど。でもそれを選んで書いたのはなんでだろう?とやはり考えてしまいますよね。今の楽器で弾くさいにも、作曲された時に求めていた響き、想像してた響きの色を、なるべくそのまま翻訳して弾かなきゃいけない。作曲家は何を表現したかったのかな、と思いをはせるようにしています。自分たちじゃなかなか思いつけないし、弾ける機会もあまりない曲ばかりなので、とても貴重な機会です。」

 

 

 

——以前のインタビューでは、チェロの門脇さんが「作品が求めている響き、全体でつくるハーモニーを出したい」とおっしゃっていましたね。

 

 

 

津田「トリオ・アコード結成当初、毎日のようにリハーサルして、ああでもないこうでもないって悩んで話し合ったりしていました。その後3人それぞれ全然違うところに留学をして、全然違うことをやってた時期がありますが、それを経て再会した時には、またお家に帰ってきたっていう感覚がありました。

 

 『あ、うん』の呼吸って言うのでしょうか。『ここはこうだよね』って言ったら相手にもパッと繋がる感覚がある2人なんです。それでも新しく感じたことを実験できる場でもあり、帰ってこれる場でもあります。年も同じで同級生ということもあって、遠慮のない関係で音楽ができています。

学生時代はそれほど思っていなかったのですが、だんだん年を経ていろんなことをやるようになってみて、そういう存在って作ろうと思って作れるものじゃない貴重なものだと気づきました」

 

 

「トリオの3角形は、カルテットと全然ちがっていますよね。ジャンルの特性としてどの曲もピアノが中心になるように書かれていますが、そこに個性豊かな弦楽器が乗ってくる。ソリスト3人がひしめき合う場なのかなと思います。練習ではどんなふうに感じられていますか?」

 

 

津田:「そうですね、それぞれお互いのことを一番よく分かってると思ってるので、いい加減にやってたら全部見透かされるのがわかる感じっていうのかな(笑)そういう良い意味での緊張感というか、ナァナァにはなりたくないなっていうのは多分お互い感じていると思いますね。」

 

トリオ・アコード(c)T.Tairadate.

2023年結成20周年を迎えた。

 

   

白井 圭(ヴァイオリン)(C)RIKIMARUHOTTA

門脇大樹(チェロ)

津田裕也(ピアノ)   (C)Christine Fiedler

 

 

「リハーサルで和声とか作品の全体を把握されてるのは津田さんなんでしょうか?

 

 

津田:「僕は、そっちの面からいつも言いたくなっちゃいますね。『ここは和音がこうだからさ』みたいな視点でどうしても考えてしまうんですけど、そうではない視点も知れるのが、この2人の良いところですね。白井君はやっぱり一番ひらめく人。普通じゃないアイディアを出せる人っていう感じがあるので、それに影響されて、自分ももっと違う風に見れないかなと、そう思えるきっかけにもなります。

 あとお互いの楽器の事情がそれほど深くは分からないので、ピアニスト同士だと『それってちょっと弾きにくいよね』とか『大変だよね』って思うところを、容赦無く『そこちょっと違わない?』みたいな、指の都合など関係なく、音としてもっと良くなりそうって思ったら遠慮なく言える関係が、思わぬ音楽づくりにつながることもあります。」

 

 

——最後に、コンサートにご来場されるお客様に公演の注目ポイントを教えてください。

 

 

津田:「色々言いましたけど、あまり難しく考えずにただ心を澄まして音に耳を傾けていただけたら嬉しいです。これを伝えたい!とか、押したいっていうのをこちらが限定せずに、それぞれがそれぞれの心の中にもっている何かと、共鳴できて繋がったら嬉しいです。心が救われたり、浄化されたりする要素がシューベルトには強いのですが、ただ救われるのではなく、『いろんなことがあったからこそ、最後にそうなる』という成り行きが大切だと思います。それを音楽から感じていただけたら、いちばん嬉しいことね。200年ぐらい前にそのこんな素晴らしい曲を作ってくださった人がいて、その作品をいちばん尊敬して演奏している身として。」

 

 

:「シューベルトは、自分が深い孤独にいるんだということをもっとも早い段階で認識して、それを音楽にできた人だと思います。今の時代も、個人がどうしていいか分からないような迷いの局面が多いと思いますが、シューベルトの大きな悩みと、そこを突き抜ける光っていうのをともに追体験していただけたらと願っています。まさに津田さんがおっしゃったように、200年の時を超えた痛みと、そこからの救済ということ。しかも、いずみホールという空間には、規模の上でも「みんなと分かちあえている」雰囲気がホールじゅうに広がることがよくあります。その感覚も共有していただけたら、企画者としてこれ以上の喜びはありません。」

 

 

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住友生命いずみホール音楽アドバイザー堀さんとトリオ・アコード津田さんの対談インタビュー、前後編に渡ってご紹介いたしました。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 

 

今回の対談ゲスト津田裕也さんが出演する

シューベルト——約束の地へVol.6「歴史をきざむ三者」

いよいよ今週開催!

 

チケット好評発売中です。

 

日時:2024年2月22日(木)開演19:00

出演:トリオ・アコード

  (白井圭Vn、門脇大樹Vc、津田裕也Pf)

曲目:
フンメル:ピアノ三重奏曲 ト長調 op.35
ハイドン:ピアノ三重奏曲 変ホ短調 
シューベルト:ピアノ三重奏曲 変ホ長調 D929
 

 

 

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