母のこと | ASD【自閉症スペクトラム】女係長 鹿島じゅんの日常生活はサバイバル!

ASD【自閉症スペクトラム】女係長 鹿島じゅんの日常生活はサバイバル!

25年以上1つの会社に健常者として勤務し、係長として人の上に立つようになった私が、
どのようにASD(自閉症スペクトラム)の特性と折り合いをつけて生活しているか、
その方法をお伝えしていきたいと思います。

休日、1人でいる時に。

父が亡くなってから、
一人暮らしになった母のことを考えます。

最近、いつも浮かぶのは、
自分の亡くなった後のことを話した時の母のこと。

「お兄ちゃんにはお母さんが死んだ時に、
保険金が入るようにしてあるから、
お前にはこの貯金をあげるからね」

そういって嬉しそうに見せてくれたのは、
母がつましい生活をしながら、
コツコツと貯めてきたのであろう、
努力の跡が見られる残高が記載された、
ゆうちょ銀行の通帳。

きっと、年金暮らしの母が、
この貯金に手をつけずに生活するのは、
かなり大変ではないかと思われました。

だから私は、
その通帳を見せられた時に、
母にこう言いました。

「せっかくだから、お母さんが使ってよ」

私にお金を残すよりも、
つましい生活をしている母の生活が、
潤ってくれた方が嬉しい気持ちは本当。

けれど、その気持ちの裏には。

私とお母さんは、
あまり趣味や好みが合わなくて、
私はずっと一緒にいても、
お母さんを喜ばせてあげられないから、
せめてお金が無いからとあまり行かない、
唯一の楽しみであるパチンコに、
もっと行って欲しいという気持ちと。

本当にお母さんが亡くなった時に。

何も形で残していない母のその言葉を、
私が兄に伝えた時に、
兄が納得しなかった場合、
母の言うとおりに私がその貯金を全額受け取ることは出来ないから、

「じゅんにも、これだけのことをしてあげられた」

と思ってくれている母の気持ちの通りに、
現実が運ばなくなってしまって、
私はそのことで兄に対する恨みと、
母に対する罪悪感や後悔を抱いてしまいそうで、
そうなってしまう未来が来ないようにしたい、
という気持ちがありました。

きっと私は、
自分のたった1人の兄の人間性を、
あまり信用していないのだと思います。

そこには、多分、
自分がコツコツと貯めていたお金を、
兄にもあてにされた経験があったことが、
関係しているのだと思います。

父と母が亡くなったあと、

原家族(その人が生まれ育った家族)で生きているのは、

もう、兄しかいないのに。


私は母が嬉しそうに、

私に残そうとしてくれている貯金で、

兄とトラブルになる未来しか、

想像することが出来なかったのです。


父が亡くなった時に、

兄は私に何の確認もせず、


「俺の家族と一緒に住んでもいいし、

じゅんと一緒に住んでもいい」


と勝手に母に言っていました。


けれど私は、

母は誰とも一緒に住まないだろう、

と思っていたし、

実際に母も自分が今住んでいる場所を、

離れることを拒否していました。


1人になったら心配だから、

兄か私、どちらかと一緒に住めばいい、

という兄の提案は、

私から見たら、

とても乱暴で母の気持ちを考えない、

一方的なものだったけれど、

きっと兄は母を思いやった提案だと、

信じて疑わないでしょう。


年老いた人間が、住み慣れた土地を離れて、

新しい環境に入っていくことに、

どれほどの抵抗があるのか考えもせずに。


母が新しい暮らしに飛び込むのに、

どれだけのフォローが出来るのか、

伝えもせずに。


ただ「選べ」と迫る兄の姿に、

私は時折父の姿を重ねて見てしまいます。


そこにあるのは、独善的な思いやり。


相手のことを考えない優しさ。


私たち家族は、

皆んな父に振り回されて、

自分のことに一生懸命で、

相手を思いやる、

気持ちの余裕を持てないまま、

成長してしまったような気がします。


だから、家族という枠組みはあるものの、

私達家族の繋がりは、

分断されてしまっています。


そのために、

休日に母のことを思い出して、


「しばらく母に電話をしていないから、

母の様子を確認してみようかな」


と思っても、

気軽に電話することが出来ません。


まず電話するための理由や話題を、

探してしまいます。


今日の夜に娘と孫に会えるから、

その時の様子を伝えるために、

明日、母に電話をしてみようかな。


…こんな風に、

話題がないと母に電話も出来ないのです。


それでも、

家族の元から失踪までしていた私が、

過去の自分をコツコツと癒してきて、

辿りついた、

母との穏やかな現在の関係です。


その関係を壊さないためにも、

私は母に対して、

自分のことを理解して欲しいとは、

もう望まないと思っていたけれど。


母が私へ残す貯金通帳を、

嬉しそうに見せる顔を思い出していたら、

私への愛情を示そうとしている母に対して、

そうやって私が諦めた気持ちでいたら、

かえって母を悲しませるのではないか、

と思うようになりました。


老い先短い母に、

悲しい思いをさせるようなことは、

やはり言おうとは思わないけれど。


母が生きて話が出来る間に。


母と私の間にある、

過去の出来事から、

生まれてしまった心の溝は、

出来るだけ解消していきたい、

と思うようになりました。