俺たちのBRANDNEW DAYS -2- | なんちゃって作家の青息吐息











 その後何度かミーティングとスタジオ練習を繰り返し、ナオトも少しずつ慣れてきた頃、他のバンドとセッションをやろう、という事になった。


 BEAT―32は俺が言うのも何だけど、かなりレベルの高いバンドだ。皆の方向性も大体あってるし、テクニックも悪くない。何よりも、それぞれが斬新なのがいい。お互いにないものを持ってるって感じだ。


 セッションの相手は、ナオトの大学の一年後輩で、少しの間、一緒にやっていた事があるらしい。…てことは、俺とは同い年だってことか。うーん、燃えるゼ。


 最近オリジナル曲も増やしたし、ちょっと寝不足気味だけど、そんな事言ってらんねー。早くライブもやりたいしな。


「ありゃ」


 校内の掲示板を見た俺は、思いがけないラッキーに出くわした。国文の浦上(うらがみ)助教授が、三週間も休講するらしいのだ。彼女は若くて美人だから、それだけの為に授業を取ってる連中も多い。けど、後でかなり後悔する。代弁とかコピーのレポートとか、すーぐバレちゃうんだな。俺は年上に興味がないからどーでもいーけど、(だって二十七だゼ!?)こんなに休講じゃ、ガッコ来る奴減るんじゃないかなぁ。


 休講と知った途端、眠気が襲ってきた。他の授業は全然楽だから、今日は寝とくか。講堂の裏にぽかっと開いた場所があって、そこは寝るのにちょうどいいのだ。


 がさがさと植木を分けて入っていくと、何やらボソボソと声が聞こえる。木々の間からチラッと覗くと、腰までのゆるいウエーブがかかった髪が風になびいていた。


 ありゃあ、浦上助教授だ。ま、まさか、告白ターイム!? って、隣にいんのKENじゃねーか!も、もしかして…。


「…俺もがんばるよ」


 KENの声が聞こえる。教授は微笑むと表の方へ出ていった。…何だか妙に親しげ。フツーがんばります、だよな。


 KENはしばらく教授の後ろ姿を見ていたが、クルリと振り返った時に俺と目が合って叫んだ。


「うっわわッ!カッカズ!お、お前、いつからそこに…ッ!?」


 俺はカッカズじゃねー。


「たった今だけどさ」


「ここっこれは、授業で解んないとこがあって…」


「お前、国文取ってないだろ?」


 この慌てよう。俺の目は完全に、逆さまの三日月になっていた。


「…カズ、何か誤解してるだろ」


「皆まで言うな。俺も協力してやっからよ」


 そう言うと、KENは顔を真っ赤にして怒った。ぷくく、()い奴め。


「冗談じゃない!そんなんじゃないよ!」


 そんなに気の利かない奴じゃないゼ、俺は。


「わかってる、わかってる。だから、今日六時からの練習忘れんなよ」


 何とか真面目な顔に戻して、KENの肩をポンポンと叩く。


 恋愛は自由さ。年とか立場とかは問題じゃねぇ。…ううっ、俺様ってば理解あるゥ。…ってKENの奴、いつのまにかいない!?


「チッ…逃げられたか…」


 でもその時、俺様の頭にはナーイスなアイディアが浮かんだ。さすが、俺様!


















 その日、KENは練習に来なかった。昼間ちゃんと伝えたのにもかかわらず、だ。プロを目指す者としては、連絡も入れずにブチるとは言語道断。全く、どう思ってるんだか。ヒロはヒロで『歌詞なんか作れないよ~』とかほざいてるし、ナオトは相変わらず無口で何考えてるか解んねぇし。何か俺ばっかり走ってるような気がする。結局、次のスタジオの予約もできなかった。来週にはセッションもあるんだゼ。こんなんでどーすんだよ。


 ちょうど日付が変わった頃、やっとKENのケータイがつながった。


『…しもし…』


 何だかよく聞こえない。


「俺だ、俺。今どこにいんだよ」


『…松…で…』


「聞こえねー、どこだって?」


『浜松…今日…悪い…なくて…』


「浜松ゥ!? 何やってんだ、そんなトコで!?」


 …切れた。あーもう、めんどくせぇ、どーでもいいや。


 俺はケータイを放り投げると、ベッドにゴロッと横になった。


 ふと気づくと、聞きなれた自分の着メロが耳元で鳴っていた。いつのまにか寝てたらしい。外はもう昼過ぎの明るさになっている。


 慌てて液晶画面を見ると、『HIRO』と出ていた。


「何だよ」


『やっと出たよ…。KENと連絡取れた?』


「あー、まぁ一応」


『何だって?』


「…浜松にいるってさ」


『…え?』


 だって、そう言ってたもんなー。


「ま、そのうち電話してくんじゃねーの?…俺まだ眠いから寝るわ」


『ちょ、ちょっと、カ…』


「じゃーねー」


 ピッ。


 かなりゴーインに切ってしまった。ま、いっか。


 だけど、俺はすぐに飛び起きた。


「やべぇ、今日七時からファニィのライブだった。…当日チケット、あるかな…」





















 夜、俺はかなり上機嫌で新宿の街を歩いていた。立ち直りの早いのと、いつまでも根に持たないのが俺様のいい所だ。腰にぶらさげたケータイを取ると、KENのナンバーを呼び出す。二、三回コールの後、思ったより早く出た。


「おッ、今日はよく聞こえるじゃん。今どこだ?」


『ん?ああ、四ツ谷。ちょっと親戚の用事でさ』


 KENの家は、東海道線の大井町にある。といっても実家ではなく、俺と同じようにアパート暮らしだ。ロクにバイトもしてないのに大井町に2LDKだなんて、本人は否定しているが、KENの家は絶対に金持ちだ。


「今さー、ファニィのライブ行ってきたんだゼッ。いや、最高だったね。お前も誘ってやりたかったよ」


『……』


「でよ」


 聞いてんのかな、と思いつつ話を進める。まだ、体が興奮状態だから喋りたくてしょうがない。


『…あ、そうなんだ。い、いや、俺も行きたかったなー』


「だろ!後でいーもんやるよ。何だと思う?」


『…な、何だよ、わかんねーよ』


「まだ売り出されてない、新曲のデモテープだゼッ!」


『マッ、マジ~?ラッキィ~』


「…何だ、嬉しくねーのか?」


 なーんか、義理っぽい返事だゼ。あいつもファニィの大ファンって言ってたよなぁ。


『いッ、いや、嬉しいよッ。そうかー。カズッ、でかした!!』


 だよな。俺は機嫌を直して言った。


「じゃ、今からそっち行くから」


『えッ!? いや、今日はちょっと…』


 突然、ケータイにピピッ、ピピッと異音が交じる。


「あ、やべ、電波悪ィみてー。切れそうだから、先にお前ん家で待ってるよ。後でな」


 KEN、何か言いかけたみたいだったけど、ま、遅くなったらそのまま泊まればいいし。どうせお互い一人暮らしだもんな。


 新宿駅から山の手に乗って十五分程。品川で乗り換えて一駅目。そこからは歩いて五分くらい。


 KENのアパートに着いた俺は、勝手知ったる他人の家、とガスメーターの蓋を開け、鍵を取り出した。こんなトコに入れたりして、よく空き巣に入られないよな。でも、盗られる物なんかないか。けけ。


「お邪魔しまーす」


 玄関に入って電気をつける。右側に寝室、左側にはユニットバス。真っ直ぐいくと、キッチンとリビングルームだ。その寝室のドアが大きく開いていて、見るともなしに俺はすごい物を見てしまった。


 KANA、KANA、KANA。


 でかいのから小さいのまで、床一面にKANAの写真が散らばっている。挙句の果ては、シンセドラムのシンバルにまでシールのようなものが貼り付けてあった。…負けた。俺はここまでできない。


 突然、バタン、と勢いよくドアが開いて、KENが帰ってきた。


「早いじゃん」


 肩で息してるよ。うん、この新曲デモテープにはそれだけの価値があるよな。


「早速、聴こうゼ」


 深呼吸だか大きなため息だかわかんないものをついたKENを尻目に、俺はいそいそとリビングのオーディオにカセットテープをセットした。


「お前、ホントーにファニィの大ファンなんだな」


 そう言うと、KENはまた顔を赤くして、寝室のドアを閉めに行った。


 コイツ、おもしれー!


「…何笑ってんだよ…」


「いやぁ、KENちゃんも自分の性に目覚めたんだなーと思って」


 いかん、いかん。また目が逆さ三日月になってしまう。


「…お前なー…」


「あ、そういや、浦上教授とはその後どうなってるんですか?」


「だからッ、あれは授業の…」


「下手な嘘つくなって。いーよなー、浮いた話があって」


「そんな事より、ライブの話聞かせろよ」


「おッ、そうそう、それだよそれ」


 KENの出してきたビールを開け、ファニィの音楽を聴きながらずっとライブの話をしてるうちに結局、助教授とのことは聞きそびれてしまった。何かうまくごまかされた気もするけど。やはり、あの計画を実行するしかないか。前期の試験が始まる前にな。


 あ、また目が三日月目に…。






・・・To be continued


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