俺たちのBRANDNEW DAYS -3- 完結 | なんちゃって作家の青息吐息
















 いつものスタジオに向かう。計画はバッチリだ。


「ちょっと、耳にあうかどーかはわかんないスけど…」


 そう言って、俺は浦上助教授をここに連れてきた。何でって、そりゃKENのかっくいートコを見せてやる為さ。


 教授を捜してて十分ほど遅れちまったけど、そこはそれ、やぶへび、じゃなかった、大事の前の小事、いや違うな。ま、いっか。


「こっち、こっち」


 キョロキョロと辺りを見まわしている教授の手を引っ張って、北洋楽器の二階へと上がる。ここは俺が昔から使ってるトコなので、受付のねーちゃんも顔なじみだ。


「ういーす」


「もう、皆来てるわよ」


 ミヤは俺の顔を見ると、急げと言わんばかりに手を振った。いつ見てもこいつは凄い。金髪にハデハデメイク。素顔で会ったら、ぜってーにわかんねーだろーな。


「どっち?」


「Bスタ。八時までだから、五分前には出てね」


「へーい」


 スタジオへの扉を開けると、ドラムやベースの低音が少し漏れてきた。


 Bと書かれた部屋を覗くと、やってる、やってる、何にも知らないで。きっとびっくりするだろうな。楽しみ~!!


 俺は防音性を高めるために二重になっている扉を開けた。と、同時に、直接頭に入ってくるかのような大音響が鳴り止む。


「遅せーよ。…あれ?」


「悪ィ、悪ィ」


 そう言いながら、教授を先に部屋に入れて、扉をロックした。


「浦上教授…どうしたんですか?」


 あ、そうか。ヒロは国文とってるんだっけ。ナオトは大学が違うから、知らないだろうけど。


 とりあえず、俺はナオトに教授を紹介すると、エフェクターケースを広げて、音の設定をいつものようにあわせた。


「俺たちの初めてのお客さんだからな。特にKEN、がんばるように」


「ば…ッ!何言って…!」


 その言葉を無視して、教授をドラムの近くに座らせる。


 浦上教授もKENも、俺様の粋な計らいに戸惑っているようだ。いいことをした後は気持ちがいいゼ!


 一曲目が始まると、教授が小さな悲鳴を上げて耳を押さえた。


「うるさいスか?」


「ご、ごめんなさい。私、入り口の方で見させていただくわ」


 あちゃ。一般ピープルには刺激が強かったか。いや、失敗、失敗。


 いすを移動させた後は問題ないようだった。


 プレイ中にチラリと二人をうかがうと、教授はKENだけをうっとりと見つめている。うーん、これは超いいカンジっすね!なのに…。


「おい、KEN、サビの部分走り過ぎだよ」


「…悪い…」


 どうもKENの方はパッとしない。テンポは合ってないし、スティックは落とすし、よく間違うし。あいつ、上がり性なのかな。ま、でも、それだけ意識してるって事だよな。うんうん。


 その日は、教授をしっかり送るようにとKENに言い残して、その他三人は邪魔をしないようにと気を使ってやった。俺様ってばナイスサポート!もちろんヒロとナオトにはこの間の事をばらしたけど。けけけ。


 いやー、今日は充実した一日だったね。この後しばらくは試験期間になるので、スタジオ練習も一時中断。個人練習となる。俺様マジメだしー。って実はKENがそうしたいって言ったからだけど。親に心配かけられないってサ。やっぱり、あいつはいいトコのお坊ちゃんだゼ。





















 ようやく試験期間が終わった頃、俺はKENとヒロを捜していた。ケータイ全然つながんねーし、メール送っても返事も来ないんだもんなー。ま、ヒロは「無駄だからケータイ持たない」ってんでいつもの事だけど。


「おッ」


 やっと見つけたゼ。


 KENは本館の研究室前の廊下にいた。何だか隠れるようにして、何かを見ている。


 声をかけようとしたけど、ふい、と歩き始める。


 何だ、何だ、何があるっていうんだ?


 好奇心旺盛な俺様は、つい後をつけてしまった。


 本館を出て、図書館の方へ行く。あ、あれ、KENの先を歩いてるのは…浦上助教授!!


 中庭を抜ける所で、うっかり俺は二人を見失ってしまった。


 おいおい~。まさか、ストーカーじゃねーだろーなぁ。そいつはちっと、ヤベーゼ。


「……」


「……」


 声がする。KENか!?


 俺はそろそろと近づいた。こーいうの、昔の言葉で出歯亀って言うんじゃなかったっけ?おお、俺様物知り!


「な…何でだよっ、いきなりそんな、別れるだなんて…!」


 な、何ィ!?


 あまりにも突然の言葉に、俺はひっくり返りそうになった。し、しかも内容が…!


「…それが二人のためだからよ…」


 教授がこちらを振り返ったので、俺は慌てて木の陰に隠れた。


「子供はどうすんだよッ!?」


「……」


 ここっ、子供!? そ、そんな…お前ら…やることはキッチリとやってたのね…。


 その時、軽快な音が聞こえた。ショックからやっと立ち直った俺が見たものは、右手を挙げたままのKENだった。


 あちゃー…。やってしまったか。振られたからって、殴るのは男らしくないぞ。


 KENは、そのまま第三校舎のほうへ走り去って行く。


「…賢ちゃん…」


 俺はどうしていいかわからず、とにかくヒロに相談しようと、今来た道を一目散に駆け戻った。


 こんな時にどこにいるんだよー!だから、ケータイ持てっつーんだよォ!


「ヒロ!!」


 ラッキー!


 本館の入り口に奴はいた。あ、次の授業一緒だったっけ。


「どうしたの、血相変えて…」


「た、大変なんだよ!」


 走ってきたから息が苦しい。最近、運動してないもんな。いや、ロッカーは不健康でいいのだ!って、今そんな場合じゃねー!


 俺は今の出来事をかいつまんで話した。


「嘘ッ、マジで!?」


「だってこうだゼ!!」


 以下、俺の一人舞台。


K「なぜ、別れようなんて言うんだ!?」


浦「それが二人のためだからよ…」


K「俺たちの子供はどうするんだ!?」


浦「……」


K「パシン!もう知らねーよ!」


浦「…賢ちゃん…」


「…とこんなカンジだったかな」


「じゃ、じゃあ二人はもうそういう仲だってこと!?」


「だな」


「どうしよう、どうしよう」


 ヒロまで焦りはじめている。


「とにかく!ヒロは教授ントコ行ってやれ。俺はKENを追う」


「わかった!」


 と、走り出そうとしたが、ふと思い立って俺はヒロの襟首をつかんだ。


「やっぱお前、KENのとこ」


 …そりゃー、やはり女の人の方がいいでしょう。


 現場(?)に戻ると、まだ教授はいた。長い髪とフレアースカートを風になびかせてボンヤリしている。


 やっぱ大人だから、二十一歳なんてガキなのかな…。


 そう思いながら近づくと、俺が声をかけるより早く、教授の方が気づいた。


「あら、あなたは賢ちゃんの…」


 言いかけ、ハッとしたように口元を押さえる。


「ごめん…。聞くつもりはなかったんだけど…」


「そう…驚いたでしょ?」


 ふふっと笑う。でも、その表情はどこか悲しそうだ。


「かなり…ね。でも何とかならないのか?お互いに好きなのに別れるなんて…」


「…仕方ないのよ」


「どうして!?」


「…あの人は私がバンドをやること事態、反対だった。…そりゃそうよね。一番手のかかる時期の子供がいるんだもの。無責任だと叱られても仕方ないわ」


「…?」


 何か話が違う方向に…。バンド…?


「だから、一年間って約束だった…。でもやっぱりバンドは続けたくて…。可能性にかけてみたいのよ、あなたならわかるでしょ?」


 全然わからん。


「…あのー…浦上教授って、バンドやってんの?」


「えッ!?」


 しばらく重苦しい沈黙が続いた後、


「…そっ、それじゃまたねっ…」


「ちょ、ちょっと待ってよッ、教授ッ!」


 教授がそそくさと逃げようとしたので、俺もつい、後を追ってしまった。がッ、足元をよく見れば、またちょうどいい所にでっけー石があるんだ。俺は思いっきりけつまづいて、溺れる物はワラをもつかむ、という諺を地でいった。…のに顔からコケた。


「い~ッ」


 何をつかんだのかと思い、起きあがりながら右手を見ると…ありゃ、髪の毛…?


「でえぇーーーッ!?」





















 ドタドタと足音がして、ヒロに事情を聞いたらしいKENが中庭に戻ってきた。そして、俺たちの異様な姿を確認すると、頭を押さえて立ち止まった。


「え…?え…?」


 遅れて駆けつけたヒロは、いまいち状況をわかってないらしい。


 俺は呆然と呟いた。


「ファニーキャッツの…KANA…」


「うっそぉー!?」


 いや、確かにそうだ。髪は立たせてこそいないがカラフルに染めているし、何より大ファンの俺が見間違えるわけがない。…今まで気づかなかったのにはショックだったけど。


「…バレちゃった…」


 KENに向かってペロッと舌を出した仕草は、俺の“KANA”のイメージとは全くかけ離れていた。…そういや、浦上教授って、佳奈子って名前だったゼ。


「どういう…事…?」


 ヒロの一言で、俺は第二のショックに立ち向かわなければならなかった。


「…つまり…KENとKANAが付き合っていて、子供までいるのに別れようって…」


「え、いえ、あの…」


 教授、言い訳なんか聞きたくないよ…いいよ、もう、わかったよ。


「…ッ!?」


 ようやくヒロも理解してきたらしい。


「ちょっと待て!お前らいちじるしく誤解してるぞッ!」


「じゃあ…あの写真、やっぱりKENだったんだ…」


「おい!人の話を聞けよ!! 確かにファニィのローディーは俺がやったよ!けど…」


 …やっぱり…。憧れのKANAが既にKENのお手つきだったなんて…。し、しかも、子供~。


「だから人の話を聞けって!KANAは俺の姉貴だッ!!」


 ……?


 一瞬の沈黙の後、俺とヒロは同時に叫んでいた。


「何でーッ!?」


「近親相か…」


 鈍い音がして俺の頭に激痛が走った。


 くーッ、KENの奴!


「姉貴は結婚してんだよ!! 旧姓、宇喜田佳奈子!ローディーは人手が足りなかったから!最近旦那とケンカして、別れるとか別れないとか言ってたんだよ!」


「だって…スタジオ練習の時、ドラムの音にびっくりしてたし…KENは妙に緊張してたし…」


「そりゃあ、プロのドラマーにジッと見られてみろ、緊張するの当たり前だろ!」


 マ、マジでマジで…?


「私ね、耳が良すぎるのかな。プレイ中はいつもイヤーウィスパーしてるの。それで、この間は驚いたのよ」


 …あまりに衝撃が大きすぎて言葉にならない。つまり、全部勘違いって事!?


「結婚する前は全然売れなくて、これで吹っ切ろうと一年間の約束で始めたバンドが突然売れちゃって…欲が出たのね。世の中上手くいかないわ…」


「でも、姉弟って事まで隠さなくても…」


「念には念を入れてたんだッ!!」


「…でも、もういいわ…」


 浦上教授、もといKANAは、ロングヘアーのかつらをかぶり直して言った。


「これでバンドはもう、おしまい。いい思い出になったわ。主婦なんだから、これ以上夢見ちゃいけないものね…」


 いつのまにか日は落ちて、辺りは夕闇に包まれていた。KANAの横顔が朱く染まっている。誰も何も言えなかった。言えないまま、時間だけが正確に過ぎていった。





















「KEN!離乳食のグラタン、どこにあるんだ!?」


「俺が知るかよ!こっちは今、おむつ替えんのに忙しいんだよッ!あっ、バカ、ナオトそれ踏むなッ!」


「ヒロはまだ買い物から帰んねーのかッ!? 塩はどこなんだよォ!!」


 あれからKANAは大学を辞めた。俺たちが旦那さんにバンドを続けられるように頼み込み、何とか許可をもらったからだ。


「ナオトッ、テレビつけろ、テレビ。ファニィの特番始まるぞ!」


 だが、俺たちBEAT-32は、KENを筆頭に育児に追われるハメになった…。


 ま、いっか。