俺たちのBRANDNEW DAYS -1- | なんちゃって作家の青息吐息

 ブン…と音がして、大勢の笑い声と拍手が部屋中に響き渡った。


 目を開けると、既に太陽の光がカーテンを通して充満してる。いつもはしばらくウダウダと過ごしてから大学へ行くんだけど、今日に限って俺は大きく伸びをしてすぐに起き上がった。少し蒸し暑い。冷房の季節到来、ってヤツですかね。


 ガリガリと頭を掻くと、赤毛の長髪が指に絡む。俺のは天パだから、寝起きは悲惨だ。


 時計が、午後一時三十分を知らせる小さなベルを鳴らす。そろそろ皆集まるだろう。今日は新しく結成したバンド、『BEAT―32』の初ミーティングの日なのだ。その門出にふさわしいように、大安吉日、降水確率0パーセントの日を選んだ。別にいつも縁起を担ぐわけじゃないけど、やっぱり、いい加減プロを目指せるバンドにしたいからな。


 これまでにもいくつかのバンドを組んできたけど、なぜかいつも長続きしない。俺が個性の強いのばっかり選んでるからか?でも、言いたい事も言えないような奴らとは、長続きしてもいいバンドは作れない。少なくとも俺はそう思ってる。やっぱり、この天才ギタリストの織田和則様がばんばん活躍できるようなバンドじゃなきゃあ。


「ふあ~ぁ」


 コーヒーを落としながら大あくびをかましたところで、玄関のベルが鳴った。


「よう」


 ドアを勝手に開けて入ってきたのは、ドラム担当の宇喜田賢一(うきたけんいち)だった。最近長髪にしようと思ったらしく、色を抜いて肩まで伸ばしたところだ。こいつとは同じ二年になるはずだったんだけど、俺が一浪して入ったから一応先輩ということになる。ま、そんな事関係ねぇけどな。


「コーヒー飲むか?」


「ん、頼むわ」


 KENはワンルームの真ん中にどっかりと腰を下ろすと、今買ってきたらしい音楽雑誌を広げた。


 言っとくが、俺のベッドルームはロフトだ。決して万年床じゃねぇ。


 ちょうどコーヒーが落ちた頃、再びドアホンが鳴り、ヴォーカル担当の今川弘貴(いまがわひろき)とベース担当の浅井直人(あさいなおと)が顔を見せた。


 二人を中に入れると、あまり物を置いてない部屋が急に狭くなる。早いトコ金貯めて、機材が置けるような広い部屋に引っ越したいゼ。


「ほら、頼まれてたやつ」


「やたッ、これだよ、これ!」


 KENが一枚のCDを放ってよこすと、


「何、何のCD?」


 興味をひかれたらしく、ヒロが後ろから覗きこんだ。コイツ、喉は抜群にいいんだけど、いまいちロッカーじゃねーんだよな。髪は黒いし短いし、童顔だし、女の子にカワイー!とか言われちゃうし。ホント、もったいねぇ。


「今すっげー注目されてる、ファニーキャッツだよ」


「それってバンド?」


「うん、最近メジャーになって出てきたんだけど、かなりいいゼ。しかもドラムだけ女なんだよ。美人でパワフルですげーの何の」


 そいつはKANAって名前で、短い髪をカラフルに染めてパンクっぽくしてるけど、妖しげな色気があって、俺の一番のお気に入りなのだ。


「へぇー」


「後で聞かせるよ」


 俺はCDをヒラヒラさせながら、楽譜を出したきり無言でいる、ナオトの隣に座った。今日のミーティングで最低でも三曲は作りたいし、俺が作ったのもアレンジして完成させたいからな。


「…詞はまだだけど」


 ナオトは長いストレートの髪を、鬱陶しそうにかきあげた。じっと待ってないで何か言やぁいいのに、超無口なんだよな。


 俺は愛用のフェンダーUSAストラトキャスターを手に取り、適当なカッティングでコードを追っていった。


 結構、イケる。


 ミドルテンポのマイナーなバラード曲。ヒロの少し高めのハスキーボイスにピッタリだ。本人も気に入ったらしく、目を閉じて聞き入ってる。


 KENは雑誌をめくりながら指でヒザを叩き、無意識にリズムを考えてるらしい。


「これなら、キー変えなくても歌えるだろ?」


「ん、大丈夫みたい」


 俺はヒロにスコアを渡すと、言った。


「詞、つけてきな」


 一瞬、何を言われたか解らなかったらしい。キョトンとした顔で俺を見ていたヒロの顔が、サッと青ざめる。


「えーッ!?」


 一応ヴォーカルの端くれ、それくらいできなきゃな。って、実はコイツからかうのが楽しいだけだったりして。うしし。


「もう一曲あるんだよな、ナオトの」


「でも、こっちは譜面起こしてないから…」


 やっぱ、一人だけガッコ違うからかなー?イマイチ遠慮してるっつーか、なじめないっつーか。でもコイツのベースは絶対必要だし、皆で会う機会増やした方がいいかも。


「メロディー決まってるんなら、どんどん肉付けしていこう」


 ようやく、KENも雑誌から顔を上げた。と、その開いてあるページには…の、載ってるじゃーあーりませんか!


「ちょっと、待った!」


 そう、ファニーキャッツのインタビューが!しかも、KANAが超アップだゼ!


「…カズ~、曲作るんだろ?」


「いやぁ、やっぱ紅一点がドラム、ってのがカッコいいよなー。曲もいいけど話題性があるし」


 と、俺がページをめくった途端、


「あ!」


 KENが奇妙な声を上げた。


「な、何だよ」


「…悪ィ…。俺、今日大事な用があったんだ…」


「ああ!? マジかよ!?」


「ミーティングになんないじゃん」


「……」


 皆のブーイングの中、


「ごめん!また連絡するから!」


 KENはさっさと帰り支度をして、手を合わせながら出ていってしまった。


「いいよ、俺たちだけで決めちゃおうゼ」


 後で文句言ったって、ゼッタイに変えてやんねーからな。


「…なぁ…」


「あれ?」


 俺がブツブツ言いながら真っ白なスコアノートを取り出したとき、二人がほぼ同時に口を開いた。


「これ、さ、KENに似てない?」


「…俺もそう思う…」


 二人が指差したのは、ファニーキャッツのライブ後らしい写真記事。メンバーの後ろに写ってるローディーが、KENに似てると言うのだ。でも、それってすんごく暗くて小さいし、体の半分が機材に隠れてしまってる状態でほとんどわかんねぇ。


「…う~ん。似てないことも、ない、かな…?」


 俺は眉間にシワを寄せながら、じっくりと観察した。


「でも、あの手の髪型って多いし…」


「……」


「……」


 直後、俺たちは合唱していた。


「まさかねー」


 あり得ん。





・・・To be continued





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