退職日には出勤しない方がよいのか | 倉敷市の社会保険労務士・行政書士 板谷誠一 雑多な日記

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社会保険労務士・行政書士として仕事している板谷誠一の雑多な日記です。私は岡山県倉敷市に事務所を構えています。

通常、会社を退職する時には引き継ぎや退職の挨拶を行うのだろうが、退職日には出勤しない方がよいというアドバイスをする事例を聞いたので、ちょっと自分なりに検討してみることにした。

退職時疾病にかかっていても、会社に出勤して労務に服していれば、資格喪失後の傷病手当金の受給はできない。

この文言は、資格喪失後の傷病手当金に関する旧厚生省の通達(昭和31年2月29日保文発第1590号)である。資格喪失後の傷病手当金とは何かというと、健康保険法に規定されている保険給付の一つに傷病手当金というのがある。業務外の病気やけがが原因で会社を休み、会社から十分な報酬が得られないときに支給される給付だが、この傷病手当金については、被保険者の資格を喪失した後でも、継続して給付が受けられるというものである。具体的な金額は標準報酬日額の3分の2であり、大雑把に言ってしまえば従来の所得の3分の2を保障してくれるようなものである。

ということで、傷病手当金というのは被保険者にとっても、そして被保険者資格を喪失した人にとっても実にありがたい制度であるが、この支給要件が健康保険法第99条に書いてある。分かりやすく書くと、

・療養のためであること
・労務に服することができないこと
・継続した3日間の待期を満たしていること

というものである。最後の3日間の待期の理由付けは理解しにくいかもしれないが、上の2つの要件の理由付けは一般の人にも理解されやすいだろう。ただ、当然報酬の全額を受けることができる場合はその期間は傷病手当金は支給されないのだがこれも理解できるだろう。
そして、資格喪失後の傷病手当金については、健康保険法第104条に書いてあるが、分かりやすく書くと

・被保険者の資格を喪失した日の前日まで引き続き1年以上被保険者であったこと
・被保険者の資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けていること
  
 という要件である。

ということで、退職すると翌日に被保険者資格を喪失するということから、退職日に会社に出勤して労務に服せば、第99条の「労務に服することができないこと」の支給要件に反するので、資格喪失後の傷病手当金は受給できないということになって、始めに紹介した通達があると思われる。

ちなみに別の通達(昭和29年12月9日保文発第14236号)で文言をそのまま抜粋すると

医師の指示又は許可のもとに半日出勤し従前の業務に服する場合は、原則として、法第四十五条に規定する「労務ニ服スルコト能ハザル」に該当するとは認められず、傷病手当金は支給されない。また、就業時間を短縮せず配置転換により同一事業所内で従前に比しやや軽い労働に服する場合も、同様である。



法45条となったり、カタカナ条文になっているが、健康保険法は大正時代に制定された法律で、戦後もそのままカタカナ条文になっていたが、途中からひらがな条文になったようであり、条文の位置も変わったようである。ただ、傷病手当金のことに触れていることは間違いない。

僕なりに解釈すると、半日勤務できるくらいなら仕事できると考えられるし、配置転換でやや軽い労働ができて賃金ももらえるのであれば、傷病手当金で所得保障する必然性もないと行政が判断していると思われる。まあ、そういう考えもあるのだろう。(あくまで行政の解釈である。)

ただ、それでも「業務外の病気やけがで会社を休まざるを得なくなり傷病手当金をもらっていたが、結果として長期に療養に専念する必要が出てきて、会社を退職する」こんなケースで、退職日に簡単な引き継ぎや退職の挨拶のために出勤した場合でも、退職日に出勤したから傷病手当金は今後不支給」というのは、傷病手当金の制度趣旨と反するのではないかと思う。

もっとも、「簡単な引き継ぎや退職の挨拶」というのは出勤なのか?そして会社に来ているのは事実だろうが、仕事といえる仕事をしているわけではないと考えられないか?そして引き継ぎや挨拶に対して賃金を支給すべきなのか、といった論点があるかと思う。会社としては、賃金というよりわざわざ退職日だけ会社に来たのだから、お金でも出してあげようと考えて支給したのかもしれない。とまあいろいろ検討できる。

ただ、厚生労働省の通達に従うとすれば、退職日に会社に来ない方がよいと考えるのが当然だろう。(まあ、退職日より前に出勤する方法があるが・・・、傷病手当金の支給のために退職日に出勤しない方がよいというのも何か変な気がする。)

ということで、何かちょっとおかしいなぁ・・と思っていて、もう少し調べていたら、別の通達においては、実態を検討しなさいと書いてあることが分かった。

健康保険法第99条第1項に規定する「療養のため労務に服することができないとき」(労務不能)の解釈運用については、被保険者がその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であっても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによって相当額の報酬を得ているような場合は、労務不能には該当しないものであるが、本来の職場における労務に対する代替的性格をもたない副業ないし内職等の労務に従事したり、あるいは傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、賃金を得るような場合その他これらに準ずる場合には、通常なお労務不能に該当するものであること。

したがって、被保険者がその提供する労務に対する報酬を得ている場合に、そのことを理由に直ちに労務不能でない旨の認定をすることなく、労務内容、労務内容との関連におけるその報酬額等を十分検討のうえ労務不能に該当するかどうかの判断をされたいこと。


この通達は、平成15年2月25日保保発第0225007号である。ちなみにタイトルは、「資格喪失後の継続給付に係る関係通知の廃止及び「健康保険法第98条第1項及び第99条第1項の規定の解釈運用」について」である。この通達から検討すれば、退職日に簡単な引き継ぎや挨拶だけするような業務は労務不能と考えることはできないのだろうか?

行政の解釈にはある程度統一性があってしかるべきだが、何となく僕はこの通達と最初に紹介した通達(昭和31年2月29日保文発第1590号)は相性がよくない(解釈が違うとは思えないが、どちらの通達を参考にすべきか迷う)と感じるが皆さんどう思うだろうか?

以上、通達を紹介したが、次回の日記で判例を紹介して僕なりの考えを述べたい。