やっぱり退職日に挨拶するのが礼儀 | 倉敷市の社会保険労務士・行政書士 板谷誠一 雑多な日記

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社会保険労務士・行政書士として仕事している板谷誠一の雑多な日記です。私は岡山県倉敷市に事務所を構えています。

「退職日に出勤したら資格喪失後の傷病手当金は受給できない」だから、退職日には出勤しない方がよい。

というアドバイスがよいのかどうかについて検討してきたが、正直物事を早くすすめるのであればそのようなアドバイスがよいだろう。行政の通達に従えば、まさに上記のアドバイスがよいし、実際退職時点で傷病手当金を支給されている、あるいは支給できる状態にある以上、資格喪失後傷病手当金がもらえるわけである。
(例えば、就業規則の規定で労務提供不能の状態でも報酬がもらえる場合であるが、この場合は報酬をもらっているので支給されないが、もともと支給できる状態にあるということ。)

しかし、僕はやはり実際に退職日に出勤したらもはや本当に傷病手当金がもらえないのかというと、そうではないと考える。実際はケースバイケースだろうが、退職の挨拶程度なら問題ないのではないだろうか。というのは、意外と知られていないのか、傷病手当金に関する、最高裁判例がある。
以下、判決部分を引用する。

健康保険法四五条は「被保険者ガ療養ノ為労務ニ服スルコト能ハザル」ことを要件として傷病手当金を支給することとしているのであるが、それは、療養のための就労不能により報酬を受けることができない被保険者に、一定の限度でその生活を保障して療養に専念しうる状態を与えようとするものにほかならない。したがつて、被保険者がたとえその本来の職場における労務に就くことが不可能な場合であつても、現に職場転換その他の措置により就労可能な程度の他の比較的軽微な労務に服し、これによつて相当額の報酬を得ているような場合は、同条所定の受給要件には該当しないものというべきである。しかしながら、他方、傷病手当金の支給をえられないために、療養中の被保険者が可能な限度をこえて労務に服することを余儀なくされるような結果を来たすことは、前記傷病手当金の制度の目的に反することであり、このような点を考えれば、その受給要件をあまり厳格に解することもまた相当でないものといわなければならない。このような見地からすれば、上記のような労務に服することができない以上、たとえ幾分でも生計の補いとするために副業ないし内職のごとき本来の職場における労務に対する代替的性格をもたない労務に従事したり、あるいは、なんらかの事情により当然受けうるはずの傷病手当金を受けることができなかつたため、やむを得ず右手当金の支給があるまでの間の一時的なつなぎとして軽微な他の労務に服したりして、貸金を得るような事実があつたとしても、これによつて傷病手当金の受給権を喪失することはないと解すべきものとした原判決の判断は、相当であるといわなければならない。

参考HP:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121939378798.pdf
昭和42(行ツ)98 健康保険受給資格確認傷病手当金に関する裁決取消請求(通称 社会保険審査会傷病手当請求)
昭和49年05月30日 最高裁判所第一小法廷

この判決文を見てもらうと分かるが、平成15年2月25日保保発第0225007号の通達の文章とよく似た部分がある。なぜ似ているのか、おそらく最高裁判決を踏まえて、旧厚生省が通達を出したと考えられる。

実際、平成15年2月25日保保発第0225007号のタイトルは「資格喪失後の継続給付に係る関係通知の廃止及び「健康保険法第98条第1項及び第99条第1項の規定の解釈運用」について」であるが、このタイトルを見て分かるとおり、資格喪失後の継続給付に係る関係通知がもともとあって、この通知は、平成15年の通達の本文を見る限りでは、「健康保険法第四十五条及び第五十五条第一項の規定の解釈運用について」(昭和49年8月6日保険発第86号・庁保険発第17号)が該当すると思われるが、この通達の発出年月日と最高裁判決の日(昭和49年5月30日)が近いということから推測されるのだ。

となると、間違いなくこの判例は、傷病手当金に関する検討を行うにあたって参考にすべきものである。
ちなみに、この判例に対する解説がいろいろ出ており、いくつか確認してみたが、

・おそらく傷病手当金に関する判例はこれだけだろうから、具体的事例を検討するにあたっては、この判例を参考にすべき

・時代背景もあるので、この判例だけで具体的事例を判断するのは決してよくない

と、いろいろな意見がある。なお、上記判例で僕が気になったのは以下の2点である。

・傷病手当金の目的を「療養に専念しうる状態を与えようとするもの」ととらえていること

・傷病手当金について、「受給要件をあまり厳格に解することもまた相当でないものといわなければならない」と考えていること

本質的には同じような気がするが、ようは生活保障だけではなくて、療養させる意味もあるととらえていることだ。この点について、行政の見解としては、あくまで生活保障(つまり所得を保障する)が本来の目的と考えているように思える。(審議会の資料、国会議事録、質問主意書で確認した限り)

ということで、例えば退職日に出勤すると今後傷病手当金が出ないから出勤しないというのは、最高裁判例の事案とは違うかもしれないが、受給要件を厳格に考えすぎているような気がする。もっとも、出勤しない方が、療養に専念できる(出勤する方が被保険者には大変)からこのように解釈してもよい気もしないではないが、引き継ぎは業務のレベルによるかもしれないが挨拶くらいであれば、本来業務に比べてごくごく軽微な労務提供と考えられるから、依然と労務提供不能と解釈すべきではないかと考える。ちなみに、その場合で賃金が出たとしてもそれは労務に対する対価というより任意恩恵的なものと考え、退職日の傷病手当金は支給停止になるにせよ、資格喪失後は傷病手当金は支給されることになるだろう。

このように考え、僕が退職日に挨拶程度の出勤であれば資格喪失後の傷病手当金は支給できないことはないと考えている。

最後に。現状では、退職日に出勤しない方が穏便に物事が進むと思われるが、そんなことを考えなくても堂々と退職日に出勤して挨拶できるようにすべきだと思う。退職日だけちょっと引き継ぎとか挨拶で出勤するくらいで資格喪失後の傷病手当金が支給されないというのは「常識」から考えてもちょっと変だと思うが、皆さんどう思うのだろうか。