自分たち二人を戦わせないように仕向けるものだったということに気づいたものの
誰が何のためにそうしたのかは判らず…
小次郎が「判らぬ、判らぬと言っているばかりでは、何も判らぬではないか」と言うと
「だが、一つ判っていることがある…戦うのだよ、小次郎」と武蔵
「我らを戦わせまいとして、あれやこれやの仕掛けを繰り出して来る正体不明の奴らと戦おうぞ
まず、わしとお主が戦うのよ。時刻は少し早いが、今、果たし合おう
我らが刃を交えた途端、刀を抜かせまい、戦わせまいとした奴らの仕掛けは全て水の泡になる
奴らは無駄骨を折ったことになる」と提案
小次郎が「相変わらず戦略に長けているな
そこだけは、この小次郎の及ばぬところよ
奴ら、果たし合いの最中に現れて、止めに入るかも知れぬな
うむ、その時こそ、奴らの正体が判る」と賛成すると
「我らの勝負は速い。おそらく一太刀で決まるだろう
勝ち残った者が、奴らの正体を見破ることが出来よう
だが、そんなことは、最早どうでもよいのだ
今は、お主と素晴らしい試合がしたいだけよ」と本音を洩らし
小次郎も「お主と二度に渡って立ち合うことが出来るとは、この小次郎も幸せ者だな」とハゲ同
そんな会話を交わしながら支度を整え…って、実際に藤原竜也さんと溝端淳平さんは
襷をかけたり、股立ちを取ったりなさってました…
先に庭に降りた武蔵が、辺りの地面を確かめ
下手の端にあった石を「邪魔になるかも知れぬな」と下手袖へ投げ込み、上手側の五輪塔のそばへ…
やがて、小次郎が下手奥に立ち「この二千二百日の間
この日の来るのが、どれほど待ち遠しかったか」と口火を切り
「物干し竿」を抜いて「巌流島」と同じく鞘を投げ、ゆっくりと上段に構えると
「この勝負も、お主の負けと決まった!」と武蔵
「勝つつもりならば、なぜ鞘を投げ捨てたと言いたいのだろう?
鞘は、勝ってからゆっくり拾えばいい」と返す小次郎に
「ほう、少しは手を上げたな」と告げると
二人は気合いを込め、じりじり間を詰めて行き、まさに火花を散らそうとした瞬間
武蔵を沢庵様が、小次郎を宗矩殿が止めに現れ
とっさに武蔵と小次郎が、それぞれを斬ると、もがき苦しみ、苦悶の表情を浮かべるものの
程なくして元通りになり「えっ!?」と戸惑う二人
よく見ると、沢庵様も宗矩殿も経帷子姿で…と思う間もなく
同じく経帷子を着けた平心さんや乙女さん、まいさん
それに、浅川甚兵衛・官兵衛兄弟と只野有膳も現れ
「殺すな~」「大切なのに~」「バカ~」「わからず屋~」などと、口々に叫びながら
この果たし合いを止めに入って来るのを、背中合わせになった二人が、次々と斬るも
やはり、程なくしてまた元通りになり…
「まさか、沢庵大和尚…いや、違う」「まさか、まい殿…違うな」と気づいたトコで
沢庵様に見える男性が「先ほど、武蔵殿は、そこの結界石を崖下へお落としになりましたな
そのために結界が破れて、もはや沢庵様に成りすますことが出来なくなりました
私は、鎌倉の貧乏寺の断食僧でした。寺再建のため、二十一日間の断食を行い
ご寄進を募っておりましたが、十九日目、ついに体の力が尽きました
途中で止めていれば、その先、いささかでありましょうと世間様のお役に立てたのに
お金欲しさに、命を無駄に捨ててしまいました」と語り出し
これを皮切りに、宗矩殿らしき男性が「私は朝比奈切り通し下で、畑を打っておりましたが
関ヶ原で戦があるという噂に血をたぎらせ、昨日までの鋤鍬を捨て、ご先祖様の古鎧を引っ張り出し
明日は立派な戦国武士となって帰って来るぞと、息子を二人(…官兵衛と有膳)
父方の叔父(…忠助)、そして、はとこ(…甚兵衛)など
一族郎党引き連れて出かけて行きましたが、着いたその日に鉄砲で撃たれました
家名を上げようとして、命を落とした粗忽者です」と話し
平心さんみたいな男性も「私は、逗子の山の中で、石を研ぎ鏡をこしらえていました
女房殿が、毎日のように『貧乏はもうイヤ』とこぼしますので
今に見てろよと(宗矩殿を差して)お供をして出かけましたが、着いたその日に鉄砲でやられました
こんな姿で迷っていますと、女房殿のあの小言も、天上の音楽のようであったなあと
懐かしく思い出されるのです」と振り返り
まいさんっぽい女性は「私は、八幡宮の白拍子でございました
静御前殿と舞いの手を争って敗れ、口惜しさのあまり、ご境内の弁天池に身を投げました
二つとない命を…軽はずみでございました」と悔やみ
乙女さん風の女性も「父の見世物小屋で、女歌舞伎や若衆歌舞伎を観て育ちました
やがて、筋書きを書くのが好きになり、ある若衆歌舞伎一座のために脚本を案じましたところ
座頭から『あんた、下手ね』と突き返され、口惜し泣きしながら、由比ヶ浜を歩いている内に
ふと気がつくと、もう海の底におりました
生きていたら、もっと沢山書けたのに…でも、この度、このお芝居の脚本を書くことが出来て
少しはホッとしております」と明かし
武蔵と小次郎の持つ刀が少しずつ下がって来たのを見て
元白拍子のまいさんが「生きていた頃は、生きているということを
ずいぶん粗末に乱暴に扱っておりました」と言い
元農家の宗矩殿が「しかしながら、いったん死んでみると
生きていた時のどんなつまらない一日でも」と続け
甚兵衛、忠助、官兵衛、有膳が口々に「どんなに辛い一日でも」「どんなに悲しい一日でも」
「どんなに淋しい一日でも」「とにかくどんな一日でも」と声を上げ
最後はまた宗矩殿が「まばゆく、まぶしく輝いて見える」とまとめると
「このまことを、生きている方々に伝えない内は、とうてい成仏できません」と平心さん
再び、宗矩殿が「けれども、これまでどなたも
このまことに耳を傾けようとはなさらなかった
それで、こんな風に迷ったままでおります…うらめしや」と説明
すると、乙女さんが「ところが、この鎌倉に、日本一を競って
お二人の著名な剣客がおいでになりました
今度こそは『うらめしや』なんて古くさいやり方ではなく
このまことを生きている方々のお好きなお芝居仕立てにくるみ込み、一所懸命、相務めました」と明かし
沢庵様は「今朝早く、佐々木小次郎殿が、この佐助ヶ谷に足を踏み入れられた刹那
私は、この宝蓮寺一帯に結界を結び、これからおいでになる方々に成りすまし
あの手この手で、お二人を戦わせまいとして死力を尽くしました
お二人が戦わないで下されば、私たちの成仏が叶います
お二人がお命を大切になさることで、私たちを成仏させて下さい」と告げると
全員が「成仏を、成仏を、成仏を~」と、二人を拝み
武蔵と小次郎は、互いに顔を見合せたあと、それぞれに刀を鞘に収め
宗矩殿と平心さん以外の亡霊たちは、口々に
「ありがとう、なんまんだぶ」と唱えながら、散り散りに去って行き
残った宗矩殿は、この3日間ずっと考えていた(笑)「孝行狸」の最後を語ったあと
やはり「ありがとう」と、丁寧に会釈して立ち去り
そして、平心さんは、小次郎に「二つに割れた鏡が、ぴったり一つになりましたよね?
水垢離をなさっている間に、こっそり寸法を採らせて頂いて
まいさんが持ち出した方をあつらえました。一分の狂いもなく、ぴったり合った
生きていた頃は、これでも腕の良い鏡職人だったんですよ」と種明かし…(笑)
平心さんが去ったあと、カタンという音がして
ふと見ると、小次郎の足元に欠けた鏡が落ちており
小次郎は、それを拾い上げ、しばらく見入ったあと懐に収め
その様子を見ていた武蔵と二人、無言のまま屋根付き廊下へ行き
脚絆を巻いたり、網袋を背負ったりと旅支度を始め…って
ここでも、お二人は実際に旅衣装を身に着けておられました
ふと、小次郎が「しかし、今、何位くらいだろう?皇位継承のことだが…」と話しかけると
武蔵は「そうだな、この国には三千万の人が住んでいると言われているが
うーん、一千五百位くらいではないのか
まあ、ごく当たり前の人ということよ」と返し
「それで、これから何処へ行く?」との質問には
「北の方のどこか、山あいの荒地に、鍬でも打ち込もうか
もう三十五だ。そろそろ人の役に立つようなことも考えないとな」と答え
逆に小次郎へ「お主は何処へ行く?」と訊き返すと
「越前辺りの寺の軒下でも借りて、境内の草むしりでも始めるか
雨の日は、武蔵に倣って書を読もう」と言う小次郎に
「まだ二十九ではないか、老け込むなよ」と諭し
二人が草鞋の紐を締めて、いよいよ出発しようとした時
引磐の音が近づいてきて、本物の平心さんを先頭に、沢庵様、宗矩殿、まいさん、乙女さん
忠助さん、浅川甚兵衛、官兵衛、只野有膳がやって来て
沢庵様と平心さんが「これこれ、武蔵よ、何処へ行くのだ?」
「これから始まるのですよ、開山式が…」と声をかけるも
武蔵は「急に思い立ったことがあります」とだけ返し
宗矩殿が「家光様が、一度お主に会ってみたいと仰せられておいでだ
参籠禅が終わったら、わしと一緒に江戸へ行かぬか?」と誘っても
「ありがとう存じます。しかし、それはまた別の機会に…」と断り
「おい、武蔵」「申し訳ありません」…などと問答していると
小次郎に目を止めたまいさんが「おや、こちらのお方は?」と訊ね
武蔵は、一呼吸置いて「友人です」と答え
小次郎は「ぶしつけながら、お名前は?」と訊いた乙女さんをスルーし、武蔵に「体をいとえ」と告げ
武蔵も「お主も達者でな」と返し、そのまま二人は右と左に分かれて歩き去って行き
宗矩殿は「おーい!将軍家指南役の口がかかっているのだぞ!
わしの下で、ひと働きする気はないか!」と叫ぶも
沢庵様は「去る者は去り、来る者は来る…
これ、人間世界の実相なり。平心坊、始めなさい」と促し
平心さんが「はい、それでは…今ここに、めでたく誕生の時を迎えた
我らが宝蓮寺は、この鎌倉で最も小さな禅寺であります」…という
この舞台の冒頭のセリフを口にされるところでエンディング…
感想やカーテンコールなど、その他もろもろはまた次回に…