宝蓮寺に乗り込んで来た浅川甚兵衛が「おーい、乙女とやら、果たし状は確かに受け取ったぞ
見ればなるほど、そのどんぐり眼、お前の父親とそっくりだわい
ヒヨコのような小娘をこの手にかけるは可哀想だが、いま返り討ちにしてくれる」と口を切り
浅川道場師範代の只野有膳と甚兵衛の弟・官兵衛も
「小癪な果たし状を書きおって」やら「念仏唱えて観念せよ」やらと凄むと
「お主たち、揃って無筆のようだな?果たし状もよく読めなかったとみえる
果たし合いは明後日の朝と書いてあったはずだぞ」と沢庵様
宗矩殿が「明後日、おいでなさい」と援護し
小次郎も「やるべきことが山とあって忙しくしておる。とっとと帰れ!」と突き放すも
甚兵衛は「お主たちは揃いも揃って、剣術のいろはに暗いようだな?
まず、乙女とやらが果たし状を突きつけて来た。つまり、乙女とやらが先を取った訳だ
先を取られたままでは、こっちが不利、そこで…」と話し始め
「逆に、その先を叩き、先の先を取ることにした?」と宗矩殿
「ほう、お主、少しは出来るな」という甚兵衛の言葉に
「謡もお前よりは出来るぞ」と返し、今にも謡い出しそうになったトコで(笑)
平心さんが「こちらは、柳生新陰流の柳生宗矩様ですよ
お隣りが佐々木小次郎殿、あちらには宮本武蔵殿、沢庵大和尚様もいらっしゃいます
ですから、今朝のところは、このままお引きになった方がよろしいかと…」と割って入ったものの
甚兵衛は「宗矩に小次郎に武蔵に沢庵だと?
こんな痩寺に、そんな傑物偉物が四人も集まる訳がないわ」と大笑い
有膳も「武蔵と小次郎が一緒にいるとは、面白いことを言う坊様だ
あの二人は、出会った途端に斬り合う天敵同士なのだぞ」と言い
官兵衛に至っては「そもそも六年前に、小次郎は武蔵に打たれて死んでおる」と全く信じておらず…
「ところが、お手当てが良かったのです」と説明する平心さんを押し退けて
甚兵衛が「おーい、乙女とやら、冥途の土産にわしの恨みを聞かせてやろうぞ
二十二年前、わしは初めてお前の父親と『聞き茶』を戦った
その時、ついうっかり川越茶を聞き損ねたこのわしに
お前の父親は、どんぐり眼をギョロリと向けて、こうほざいたのだ
『ご自分の故郷のお茶の味も判らないのに、聞き茶に出るとはねぇ』とな
それも満座の中でだぞ!そればかりではない!
お前の父親に負け続けたせいで、八幡宮をクビになり、茶の弟子たちも次々に去って行った」
…と恨み言を並べ始めたトコで、武蔵が「今だ!雑念を捨てて、真っ直ぐに参られい」と
乙女さん、まいさん、忠助さんの背中を次々に押し出すと
3人は横一列になり、太刀を掲げて、ツカツカツカツカと向かって行き
浅川勢が「?」と戸惑う間に、ツツツツツツツと歩みを速めて通り抜けた途端
浅川勢3人は絶叫して倒れており、甚兵衛の片腕が転がっていて…
って、その転がった腕の先の指がまだピクピク動いてるのにビックリ!(汗)
配信映像の最後に収録されていた「バックステージツアー」によれば
この指は、ラジコンで操作されていたそうです
それを見た武蔵が「続けて第二打を!」と指示すると
まいさんと忠助さんは、太刀を構えたものの
乙女さんは、甚兵衛と転がった腕を見つめて動かず…
武蔵がそばに寄って行き「さ、お父上の恨みを晴らす時です」と促すも
「恨みは、晴れるのではなくて、太るのでは…?この恨み…今、私が断ち切ります!」と
小太刀の刃を自分自身に向けてから、小太刀を投げ出したあと
「恨みの三文字を細筆で、初めに書いたのは父でした
その文字を甚兵衛殿が小筆で荒く書き、今、私は中筆で殴り書きしようとしている
やがて、甚兵衛殿の縁の方々が、太筆で暴れ書きすることになるはず…
そうなると、恨み恨まれ、また恨み…恨みの文字が鎖になって、この世を黒く塗り上げてしまう
恨みから恨みへと繋ぐこの鎖が、この世を雁字搦めに縛り上げてしまう前に
たとえ、今はどんなに口惜しくとも、私はこの鎖を断ち切ります
もう太刀を持とうとは思いませぬ!」と話すや
鉢巻を外して、甚兵衛の腕を止血し始め、武蔵も忠助さんも浅川勢も訳が判らず呆然…
そんな武蔵に、平心さんが「恨みの鎖は、切ろうと思えば切れるんですね
人が作った鎖ですから、人が切れるのは当たり前ではありますが…」と話しかけ
まいさんは、小次郎に「人という生き物が美しく見えるのは、こんな時ではないでしょうか?
ねぇ、そうではありませぬか?」と問いかけると
武蔵と小次郎は、互いに顔を見合せ、自分たちを取り巻く、何らかの気配を感じている様子…
そして、ここで第1幕が終了となり、その余韻もそこそこに、奥さんはお手洗いに直行(苦笑)
休憩時間は20分設けられているとはいえ、かつての甲斐バンドライブみたいに
男子トイレを開放しても追いつかないほどの大行列となるらしいので
端のブロックで良かったと思ったんだとか…(苦笑)
そうそう!大阪公演初日は、第1幕の終演予定時間より、数分早く休憩になったのが
大阪楽日は、終演予定時間を5~6分オーバーしたそうで
それはやっぱり、あの「五人六脚」での攻防が長引いたせいじゃないかと…?(笑)
それはさておき、乙女さん役の鈴木杏さんが、プログラムに掲載されているインタビューで…
この舞台の初演の稽古の際に、蜷川幸雄さんから
「恨みの連鎖を断ち切るという1幕のラストのセリフ」について
「それじゃ、1幕の幕が降ろせねぇよ!」とダメ出しされたことがトラウマで
今でも、この場面ではものすごく緊張するとおっしゃってました(汗)
ただ、蜷川さんも、海外公演の際に「復讐の連鎖をどう断ち切るか?
そして、どう生きて行くのか?というテーマも含め
どう受け入れられるかという不安は多少ありました」と話されていて
井上ひさしさんの強いメッセージをきちんと伝えなければ…という思いでいらしたんじゃないかと…?
ともあれ…鈴木さんは、初演からずっと出演なさっていることに関して
蜷川さんのシェイクスピア作品の翻訳でお馴染みの松岡和子さんから…
「定点観測が出来る作品があるというのは、役者にとってとても良いこと
何年後かに再会すると、前回とは違う部分が見えて来たり
ハッとさせられるポイントが必ずある」…と言われたことを実感なさっているそうですが
ずっと武蔵役を務めておられる藤原竜也さんも…
蜷川さんが、回を重ねるごとに「ハムレット」の演出が楽しくなって来られたみたいに
「1つの役を繰り返すことが大事。年齢を重ねて掴めて来たり、新しい発見があったりする」
…と話されていて、やはり舞台は「生もの」であり、1回も同じものはないんだなあと…