J・McEnroeの自叙伝「Serious」をこう読んだ(15) | ひとときのときのひと

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だいたい毎日。



まずは英語から。

 J・McEnroe、ジョン・マッケンロ。1970年代から1980年代前半にかけて、B・ボルグやJ・コナーズらと共に世界的テニスブームを巻き起こした米国人プレーヤーです。

 

 この本「Serious (まじ)」は、そんな彼が40歳を少し過ぎたころに書いた自叙伝。翻訳版が出ていないものの、テニスファンでない方でも、にやりとするようなエピソードがいくつもあります。

 

 アラカンで英検1級1発合格した者としての使命感から一部をご紹介しています。

 

 今回は、現役を引退したマッケンロが女子の現役テニス選手との試合をもちかけられて右往左往する話です。

 

 意外なところで、前米国大統領、ドナルド・トランプ氏も登場しますので、ぜひご一読ください。

 

 現役を引退したと言っても、マッケンローは、シニアツアーには出ていたし、全米オープンのコメンテーターやデビス杯監督も務めていましたので、2000年ごろです。その年の全米オープンの放送席で彼は、ひとつ封筒を受け取ります。

 

 Inside was a letter from Mr. Promoter himself, Donald Trump – his box was right next to the broad cast booth – offering a million dollars to play either one of the Williams sisters at his one of hotels. I laughed. Earlier that week, a New Yorker profile of me, by Calvin Tomkins, had appeared, with a quote that was widely picked up and quickly fanned int big brouhaha. Because the Williamses had been going around for a couple ago years claiming they could beat ranked male players, Tomkins had asked me if I thought it was true.

 

 封筒の中には、プロモーターである、ドナルド・トランプ氏自身からの手紙が入ってたんだ。彼のボックスシートは、放送席のすぐ隣にあった。その手紙には、トランプ氏所有のホテルで僕がウィリアムズ姉妹(訳注:当時の女子トップ10に入っています)のどっちかと試合しほしい、100万ドルを出すからって申し出が書かれていた。笑ったよ。その週の初めに、カルバン・トムキンスがニューヨーカーに僕の人物紹介記事を出したんだが、そこにあったある引用が広く取り上げられ、すぐに大波乱が巻き起こしたんだ。というのも、かねがねウィリアムズ姉妹は、上位の男性テニスプレーヤーを打ち負かせると豪語していたから、それをトムキンスは引用して、僕にどう思うか聞いたんだ。

 

 これに対して、マッケンローはトムキンスに対して、大学のトップ選手だろうが、シニアプレーヤーだろうが、プロだろうが、ウィリアムズ姉妹には勝てるだろうと答えています。(2017年にマッケンロは「セレーナ・ウイリアムズは、男子で言えば世界700位」と発言したようですが、その話よりもずっと前の話です)

 

 このとき、ウィリアムズ姉妹は「(マッケンローみたいな)おやじとは、試合しない」との声明を出します。

 

 これに対して、マッケンローは再考します。まず、男子テニスと女子テニスとは、比較できないものだから、コナーズやボビー・リッグス(それぞれ、別の機会に、別の女子選手との見世物試合をして話題となりました)のような「やり手」にはならないと。

 

 あるいは、ウイリアムズ姉妹が男子選手や自分に敬意を欠いているがために気に食わないし、もしもの時はいつだって彼らを打ち負かすだろうとも考えたりしています。

 

 実は、この数年前に彼はこの男子対女子に関連したコメントを出しているのですが、そのコメントがいつのまにか雪だるま式に誇張されてしまい、それによってマリー・カリロという元選手(マッケンロと組んで混合ダブルスに出たことがあります)でありテニスコメンテータでもある友人を怒らせ、差別主義者、いわば旧人類として「かたき扱い」されてしまっていたのでした。

 

 彼はこの本の中で、そのあたりをこう釈明しています。

 

 The essence of what I’d said then was that I felt women were less able than men to understand what went on inside a male competitor’s head – and vice versa, which it comes to male commentators and female players! I also felt that anybody who did tennis analysis should have competed at same levels as the players being analyzed – and since Mary, in particular, had never advanced very far in her singles career, I didn’t think it made sense for her to be telling the public about inside of a top-ten player’s game.

 

 僕がその時言いたかった本質は、「女性は男子選手の頭の中で何が起こっているのかがあんまりわかんないんじゃないか」ってことなんだ。そして、その逆も同じだ。男性のコメンテーターも女性の選手が何を感じてるかは、わからないんじゃないかってことさ ! それに、テニスを分析する人は誰でも、その分析対象と同じレベルで試合してないといけないと思う。特にマリーはシングルスのキャリアでそこまで上りきってないので、彼女がトップ10プレーヤーのゲームについて解説するのは、意味ないんじゃなかって思ったのさ。

 

 つまり、マッケンロは、男性であれ女性であれ、評論家はあくまでも評論家でしかなく、トップアスリートについて語ろうとするのであれば、そのスポーツを極限レベルで戦った経験を持つ人間でないとだめだと言っているのしょう。

 

 この論理をもし敷衍(ふえん)すると、ピアニストとかに関しては、極限のテクニックを持った奏者しか、ピアノ演奏を批評できないということになります。翻訳しながらも、やや首をかしげざるをえません。が、マッケンロは、続けてこのように本書で言っています。

 

 You’ll be glad to know that I’ve evolved since then – and my daughters are the reason why. Watching my girls grow up gave me a new appreciation for female athletics, and the opportunities that trailblazers like Billie Jean King opened up for all girls and women. I’ve also come to understand that televised tennis is really entertainment, and that tennis broadcasting must be entertaining. Mary is a good example of someone who never starred, but whose effervescent personality and incisive wit add energy to a broadcast. Tennis needs all the energy can get.

 

 それ以来、僕も進化してるってことを認めてくれるだろうな。なぜって、僕の娘たちがその理由だからだ。うちの娘たちが成長するのを見て、女性スポーツに対する新たな感謝が沸き起こってくるし、ビリー・ジーン・キング夫人のような先駆者が女子・女性選手にもたらした機会のありがたみについてもね。それから、テニスのテレビ放映は、まさにエンターテーメントであり、面白くなきゃいけないって思うようにもなった。マリーは、その好例だと思う。決して主役級ではないけれど、陽気で機知にとんだ性格で放送を活気づける人だからね。

 

 女性対男性のテニス対決についてどう思うかの論点から、この釈明の論点は、明らかにずれています。が、マッケンローと言う人はこういう人なのでしょう。

 

  ちなみに、下記リンクの2015年の記事を読むと、マッケンローは、ドナルド・トランプ氏のマッケンロー対ウィリアムズ選手(姉妹どちらか)の試合提案を回想しながら、金額が100万ドルと少なかったし、トランプが自分たち選手のご機嫌取りでもしたんだろう、真剣ではなかったろうと言っています。さらに、50代の自分は今でも十分30代の女子選手に勝てると言っています。

 これを読む限りは、全然進化していない人ですが、まあ愛すべき人なのでしょう。