2024年2月に、沖縄の久米島にビールを飲みに行った旅の記録です。(これまでの記事→その1、その2、その3、その4)
前回の記事(その4)では、くめじまーるCaféを訪れ、海洋深層水の恵みが詰まったビール「KUMEJIMA612」を堪能しました。今回は海洋深層水の可能性をさらに探究すべく、専門の研究所に取材してまいりました!
あらためて、くめじまーるCaféの立地を確認してみましょう。
目の前には海!
そして隣には、沖縄県海洋深層水研究所があります。(地図の赤色ピン)
この一帯は、海洋深層水関連施設が立ち並ぶエリアなのです。
付近で撮影した道路標識
観光施設ではなくガチな研究所です。
今回は「離島ビール倶楽部」として事前に視察申請をしての訪問です。
ブルワリー見学とはまた違うワクワク感と緊張感がありますね。
久米島の海洋深層水について真面目に勉強してきたいと思います!
研究所のエントランスホールには海洋深層水関連の展示が並んでいました。
こちらは、視察を受け入れてくださった事務局の若勇さん。
素人の僕にも分かりやすく、久米島の海洋深層水について解説してくれました。
海洋深層水とは、200mより深い部分の海水のこと。
海洋深層水は温度が低く、太陽光が届かずプランクトンが発生しないから清浄で、有機物の分解だけが進むため栄養豊富、という3つの特性があり、これが色んな産業に活用できるのだとか。
この場所(久米島の東海岸)は海底傾斜が急で、海岸からたった2.3km離れるだけで、水深612mの地点に到達できるという、海洋深層水の汲み上げに適した地形なのだそうです。
なので久米島は全国で断トツNo.1の海洋深層水の取水量を誇っています。
ちなみに、汲み上げには、このようながらんどうのパイプを使うそうです。
※写真は久米島のものではなく、海外(ハワイ)の大規模取水施設のパイプです。
しかも、汲み上げにはポンプのような動力は不要というから驚きです!
取水ピットが地下室(海面より少し低い)にあるので、サイフォンの原理で自動的に汲み上がってくるそうです。
※この地下に取水ピットがあります。
他県の解説ですが下図が分かりやすいです。これ考えた人は天才ですね!
深海の生物が、海洋深層水と一緒にヌルっと汲み上がってくることもしばしばあるそう。深海612mに棲む生物は普段出会えない貴重なサンプルなので、水族館へ寄贈されたり、研究対象として活用されるそうです。
続いて、研究所の外にある「海洋温度差発電実証設備」を見せていただきました。
海の表層水と深層水の温度差を利用して発電を行う設備です。
見学者用に、表層水と深層水に触れる蛇口があったので触ってみました。
確かに、表層水(一番左)は温く、深層水(中央)は冷たい!
沸点の低い媒体(アンモニア等)を、温かい表層水で気化させてタービンを回し、冷たい深層水で冷やして液化させ…、を繰り返して発電するという仕組みです。
若勇さんによる模型を使った解説が非常に分かりやすいので動画でご覧ください。
年間を通じて安定供給ができ、CO2も出さないサステナブルな発電です。
この実証設備は約200世帯分くらいの電気を賄えるそうですが、将来、もっと大規模な発電設備や、洋上の発電設備なども考えているとのこと。
日本、そして世界のためにも、頑張っていただきたいですね。
若勇さん、お忙しい中、ご案内いただきありがとうございました!
さて、もう一度先ほどの写真を見てください。
表層水の水槽(一番左)よりも、深層水の水槽(中央)の方が、苔が生えて緑になっていますね。
海洋深層水は、冷たくて清浄だけれど、栄養豊富でもあるため、苔の成長が早いそうです。
前回の記事で、スピルリナ藻の栽培に海洋深層水を使っているという話が出ましたが、これを見れば確かに成長の差が一目瞭然ですね!納得です!
海洋深層水を活かした栽培はスピルリナ藻に限りません。
例えば、海ぶどうの陸上養殖にも活用されています。
こちらは久米島海洋深層水開発(株)さんの「球美の海ぶどう」の育成プラントです。ちょっとだけ見学させていただきました。
海ぶどうは、夏場に水温が高くなると生長が遅く、品質が悪くなってしまうそう。
そこで海洋深層水の低温性と富栄養性を活かすことにより、通年で高品質な海ぶどうを養殖することができるようになったそうです。
帰りの久米島空港の売店で買って帰りましたが、臭みなくプチプチ感が存分に楽しめて絶品でした!
冷たくて清浄だけれど栄養豊富な海洋深層水は、とにかく色んな使い道がありまして、久米島の産業になくてはならない存在となっています。
久米島は車エビの生産量日本一ですが、それを支えているのも海洋深層水。
清浄な海洋深層水のおかげで、車エビをウィルスの被害から守り安定的に養殖できています。
ちなみに海洋温度差発電で使用した海洋深層水は、温度が変わるだけ(少し温まるだけ)で、清浄さや栄養豊富さは変わらないので、その後も余すところなく活用されます。
例えば牡蠣の養殖には、汲み上げたばかりの深層水では冷たすぎるので、発電に使って温まったくらいがちょうどよいのだとか。「発電後の排水で、安全でおいしい牡蠣が作れる」とか、話が出来過ぎていませんか?まさに一石二鳥!
このように、海洋温度差発電で汲み上げた海洋深層水を、様々な産業に活用して経済を循環させていくモデル(久米島モデル)が、全国的にも注目されています。
久米島町の資料より
久米島島内の深層水利用産業の規模は約24.8億円/年。
サトウキビ産業(約10億円/年)を超え、今後も更なる経済効果を島にもたらすことが期待されています。
知れば知るほど面白い、久米島の海洋深層水。
ビールがなければ、久米島に来ることも、海洋深層水を知ることもなく、一生を終えていたかもしれません。
海水浴でも釣りでもなく、ビールのためだけに東京から1600kmの旅をしてきましたが、ビール視点での旅だったからこそ出会えたものが沢山ありました。
帰りの飛行機の中で振り返りながら「これが離島ビールの醍醐味だよなぁ~」と、幸せに浸ったしま彦でした。
お忙しい中、温かく迎え入れてくださった久米島の皆さま、本当にありがとうございました!久米島最高でした!今度は家族で遊びに行きたいと思います!