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一般病棟にて…その10

では、一体「脳卒中」はどんな症状がおこるのか?

「脳卒中」によって、脳の神経細胞が死んでしまうと、

その部位がもっていた本来の機能が失われてしまう。

そのため、脳のどの部位が障害を受けたかで、その症状はまったく異なる。

主な症状は次のようなものだ。



1.「運動障害」-----------------------------------------------------------------------------

脳梗塞(脳卒中)でもっとも多く現れる症状。

大脳の運動中枢や、大脳・脳幹の運動神経経路が障害されると、
手足の運動麻痺が生じるが、
もっとも典型的な症状が「片麻痺」だ。

「片麻痺」とは、右手右足の麻痺や左手左足の麻痺のように、
身体のどちら側かの半身麻痺の事。

僕は右麻痺だったから、右手でお箸を持つ事も、
右足でボールを蹴る事も出来なかった。


ただし、脳幹に梗塞を起こすと、
四肢麻痺(身体の片側だけでなく両側全体の麻痺)が起こる事がある。

これは脳底動脈が閉鎖した場合に生じ、極めて重症な場合らしい。

脳底動脈解離の僕だったが、この四肢麻痺の危険性があったのだ。
今から考えると身の毛がよだつ。



2.「感覚障害」-----------------------------------------------------------------------------

障害には二つあり、
一つは、感覚が麻痺した、鈍くなった状態。

もう一つは長時間正座して足がびりびりするしびれ感。

いすれも身体の半身に現れ、両手足が全部しびれたり、
手足の指一本だけがしびれる事は無い。



3.「言語障害」-----------------------------------------------------------------------------

言語障害には「失語」と「構音障害」がある。


「失語」は大きく分けると二つある。
思った事がスムーズに言葉にならず、たどたどしい、
言葉にならないなどの「運動性失語」。

相手の話す事が理解できず、一見スムーズに話しているようにみえるが、
質問と関係無い事を答えてしまう「感覚性失語」。



「構音障害」も主なタイプは二つある。

一つは、話す事は理解出来るし、思った事も言葉に出せるが、
舌がうまく回らない症状。

これは舌の筋肉を支配している脳神経が麻痺するために生じる。

ろれつが回らず、特にラ行(らりるれろ)の言葉がしゃべりにくくなる。

このような構音障害を「弛緩性構音障害」といい、大脳や脳幹の障害で起こる。

僕もこの「弛緩性構音障害」の構音障害で、やっぱりラ行が話しずらかった。



もう一つは、小脳の障害から生じる「失調性構音障害」。

これはお酒で酔っぱらったような話し方になり、
「パタカ、パタカ…」とスムーズに繰り返して言えずに、

リズムが乱れ、つっかえやすくなる。

僕も入院中にやたらと「パタカパタカ…」と言わされていた。



4.「視野障害」-----------------------------------------------------------------------------

脳卒中で起こる視野障害は「半盲」だ。

これは、左目だけで見ても、右目だけで見ても、
あるいは両目で見ても、視野の右半分か左半分が見えない状態。

半盲は本人が最初のうち気づかずに、視野の半分が見えないために
交通事故を起こしたり、
起こされたりして怪我をして初めて分かる事があるらしい。



5.「めまい」-----------------------------------------------------------------------------

「回転性めまい」は天井や目の前の風景がぐるぐる回る症状で、
激しい場合は吐き気や嘔吐を伴う。

「浮動性めまい」は地震が起こったような、自分がぐらぐらする感覚。



6.「運動失調」-----------------------------------------------------------------------------

運動失調とは、力は入るのに手足の細かい動きがぎこちなくなり
不器用になる症状。



7.「複視」-----------------------------------------------------------------------------

複視とは、両目でものを見る時に二重に見える事。
片目で見た時は二重に見えない。



8.「頭痛」-----------------------------------------------------------------------------

普通、脳梗塞で頭痛を伴う事は少ないが、大きな脳梗塞によって脳浮腫が生じて、

脳圧が高まった場合には、頭痛と嘔吐が生じてくる。

また、椎骨動脈解離による脳卒中では後頭部や頸部に頭痛を伴う。

原因不明の脳梗塞でこのような頭痛を伴う場合は、動脈解離を疑う必要がある。

比較的若い人に起こる延髄外側梗塞は、椎骨動脈解離による事が多い事が分かっている。

激しい頭痛に意識障害がある場合は、脳梗塞でなくくも膜下出血を疑う必要がある。

僕が倒れた前日から起こっていた原因不明で薬の全く効かなかった激しい頭痛も、

この動脈解離(椎骨動脈の先が脳底動脈に位置する)と関係していたかもしれない。



9.「失行」と「失認」-----------------------------------------------------------------------------

失行は、運動麻痺や運動失調が無いのに手足の動かし方が分からなくなり、
手足を上手く使えなくなる症状。

からだの一部の単純な作業が行えなくなる場合と、
ポットから急須にお茶を注いで、
茶碗にお茶を入れて飲むといった、
一連の複雑な作業が出来なくなる場合がある。



失認は、ものや概念の認識がうまく出来なくなる症状。
左右失認は右と左の区別がつかなくなり、

手指失認は手の指の名前が分からなくなる。

これらの失行や失認はアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳梗塞で起こる。















「脳卒中」とは、
ざっと羅列するとこんな病気みたいだ。



さて、話を関東病院に戻そう。

一般病棟にて…その9

●●●●

入院中に僕は自分の病気と正面から向き合わなかった気がする。

故意にそうしていたかもしれない。眼を背けていたかもしれない。



話はだいぶ先の事となるが、
関東病院から初台リハビリテーション病院に転院し、

その初台リハの退院間際に友人からもらった一冊の本が、
僕のこの病気の本当の姿を知るきっかけになった。



「栗本慎一郎の

 脳梗塞になったらあなたはどうする」



この本が無ければきっと未だにこの病気と向き合ってなかっただろう。



「自分の身体の事なんだから、知っておいた方が良いよ」

先にこの本を読んでいたCANのこの一言が、
病気に背を向けていた僕を振り返らせた気がする。

だからCANやこの友人には感謝しているのだ。



あの時にこじ開けた、閉じかけていた生涯最期の門。

あの門は一体何だったのか。
入院中は全く知らなかった自分の病気の事。

それを上記著作より抜粋し少し書いておこう。




●

傷病名:「脳幹梗塞」

原 因:「脳底動脈解離」

病 状:「右片麻痺、構音障害」


これが僕への診断結果だ。


脳幹梗塞は大きく言うと「脳卒中」って事になるらしい。
では、脳卒中とはどんな病気なのだろう。




脳卒中は専門的には脳血管障害といい、脳の血管の障害によって起きる病気の総称だ。

脳卒中は、1980年まで日本人の死亡原因の一位で、
2004年の統計では、がん、心臓疾患に次ぐ第三位で、

死亡者総数は全体の12.5%を占める12万9055人。
その内訳は、脳梗塞が61%の78,683人。
脳出血が24.8%の32,060人。
くも膜下出血が11.4%の14,737人。その他2.8%の3,575人。

患者総数が173万人もいて、そのうち入院患者だけで216,000人もいる(96年)。

入院日数が平均119日と長くなってしまうのも特徴だ。



ここで考えたいのが、ガンは肝臓ガンでも胃ガンでも、
どの臓器でも全てガンという一つの病気として計上されている。

それに対して第二位の心臓疾患には、弁膜症や心筋症という病気もあるが、

心臓疾患による死因の9割以上は心筋梗塞という、
心臓に栄養を送り込んでいる冠状動脈が詰まる血栓症という血管障害なのだ。

第三位の脳卒中による死亡の内、6割以上を脳梗塞という脳の血管が詰まる血栓症と捉え、

血栓症をガンのように一つの疾患として考えると、日本人の死因のトップは「血栓症」という事になる。



さらに、脳卒中は重い後遺症が残るため、
寝たきり高齢者の4割を作り出し(寝たきりの原因一位)、

民間の訪問介護サービスの4割も、脳梗塞がもとでそれが必要になった人たちだ。

その後遺症はとても重く、身体に麻痺や言語障害が残って仕事が出来なくなったりする。

これらは一般的な障害のひとつに過ぎず、脳の障害によって後述のようなあらゆる症状が起こりうる。


問題は降り掛かる身体的な障害だけではない。

当然リハビリの苦しさという大問題もある。
介護の負担が家族にのしかかる。
そのため、長年連れ添っていた夫婦が離散したり、

本来介護されるべき高齢者が中年の息子を介護しなくてはならなかったり(僕もそうなっていたかもしれない)、

普通は残る重い後遺症から、病後の仕事復帰率が極めて低いというような、

社会的にも重大で重篤な悲劇を生んでいる病なのだ。




脳卒中は一つの病気ではなく、大きく二つに分類されるのが一般的だ。


それは「虚血性脳卒中」と「出血性脳卒中」である。



◉虚血性脳卒中(脳梗塞)

脳の血管が詰まって起こるタイプの脳卒中で、脳梗塞と呼ばれる。

脳梗塞は簡単にいうと、脳の動脈に血栓という血の塊が詰まって血流が途絶え、

脳の組織が酸素欠乏になるため壊死に陥ってしまう病気。


脳梗塞は主に次の三つのタイプに分かれる。


------------------

◎ラクナ梗塞

ラクナはラテン語で「小さな穴」という意味。

高血圧で脳の深部にある細い血管に圧力がかかり続け、
徐々に厚くなった血管壁によって、

血管の内腔が狭くなり、血管が詰まってしまう事。


ラクナ梗塞は日本人に多いタイプで、脳梗塞全体の約35%を占めている。

脳の深部にできる梗塞の直径は1.5センチ未満と小さい。

症状は比較的軽めで、意識障害や大脳皮質症状(失語、失認、失行)、

大脳半球障害(半盲、共同偏視)はみられず、
身体半身の運動麻痺や感覚障害のみが起こる。



(主な原因)
高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙など




◎アテローム血栓性脳梗塞

脳や頸部の太い血管の動脈硬化によって血栓ができ血管が詰まること。

症状は様々で、運動麻痺や感覚障害の他、
大脳皮質症状(失語、失認、失行)を起こしやすい。


アテロームとは日本語で「粥腫(じゅくしゅ)」と訳される。

これは動脈硬化を起こした動脈の壁に、マクロファージという白血球の一種の細胞が集まって

脂肪を大量に取り込んでドロドロの「お粥」のような固まりが形成される。

だからこれは粥状動脈硬化と言われる。

血管壁にこのアテロームができると、動脈の管の内側(内腔)に向かって成長するので、

動脈の血液の流れるスペースがだんだんと狭くなる。

動脈の内腔は、血管内皮細胞によって覆われていて血液が固まらないように保護されているが、

アテロームが成長するとこの内皮細胞を破裂させてしまうため、

血中を流れている血小板がアテロームの表面に接着し、
血小板同士が集合してアテロームの表面に血栓を作ってしまう。

その表面を血液が固まる事によって生じた「フィブリン」が網目状に覆い、

そこに赤血球や白血球もとられて血栓が大きくなり、
最終的には動脈の内腔を塞いでしまい、血流をせき止めてしまう。

また、動脈を塞ぐ前にアテロームの表面にできた血栓の一部が剥がれて、
動脈の先に流れていき、
遠くの動脈を詰まらせることでも脳梗塞が起こる。


このような血管を塞ぐ血の塊が小さく、
いったん脳の動脈を詰まらせてもすぐに溶けてしまい、

決行が再開すると、一時的には脳梗塞と同じような症状が起きても
24時間以内に自然によくなってしまう場合がある。

これを一過性脳虚血発作や無症候性脳梗塞と呼ぶ。

この一過性は台風一過の一過ではない。

幸運にも過ぎ去ったからもう安心ではなく、
この症状はアテローム血栓性脳梗塞の前段階であり、前兆でもある。

「初期脳梗塞」なので本格的な脳梗塞になる前に、
すぐに病院へ行くなどの処置が必要である。すぐにだ。



(主な原因)
高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙など




◎心原性脳塞栓症

心臓から運ばれた血栓が脳の血管に詰まること。

症状は突然発症し重くなりがちで、身体半身の運動麻痺や感覚障害の他、

大脳皮質症状(失語、失認、失行)、大脳半球障害(半盲、共同偏視)、

小脳症状が生じやすく意識障害を伴うことが多い。


長島茂雄さんはこのタイプの脳梗塞。


心臓の中にできる血栓はサイズが大きく硬いものが多いので、
脳の太い血管が詰まりやすく大きな脳梗塞を生じる傾向がある。



(主な原因)

□心房細動

心原性脳塞栓症の原因となる心疾患のうち圧倒的(全体の3分の2)に多いのが心房細動。

心臓は心筋という筋肉から出来ており、
内部は4つの部屋に分かれていて
自分から見て右上部が「右心房」右下部が「右心室」。
左上部が「左心房」左下部が「左心室」である。

全身を巡って戻ってきた血液は、大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房→左心室→大動脈という順序で流れていく。

心房細動とは、この左心房の筋肉がバラバラに収縮してしまうために、
全ての脈の間隔が不規則になるタイプの不整脈だ。

心房細動になると、左心房から左心室へ正しく血液が送り出されなくなるために、
左心房に血液が滞り血栓が出来やすくなる。

左心房でできた血栓が、左心室、大動脈、頸動脈を通じて脳動脈へ流れて行き、
脳動脈を塞いでしまうと脳梗塞を起こす事になる。



その他、心臓弁膜症、急性心筋梗塞、洞不全症候群など。

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◎その他の原因による脳梗塞

□血液凝固異常症
脳梗塞を起こす他の原因として、まず血液凝固異常症があげられる。

①播種性血管内凝固症候群(はしゅせい…)

②抗リン脂質抗体症候群

③先天性血栓性素因



□動脈硬化以外の血管の異常

①動脈解離



傷病名:「脳幹梗塞」

原 因:「脳底動脈解離」

病 状:「右片麻痺、構音障害」



これが僕の病名なので、原因はこの動脈解離なのだ。

一般的な脳梗塞は脳動脈硬化が徐々に進んでおきるが、
僕のように時に動脈解離によって生ずる脳梗塞がある。


動脈解離には2つのタイプがある。



1つ目。

動脈の壁は内側から内膜、中膜、外膜、という三層構造になっていて、
高い動脈血圧でも破れることのない壁を作っている。

さまざまな原因で内膜に傷がついて、内膜に出来た亀裂から血液が血管壁内に流れ込み、
内膜と中膜の間を裂くことになり、
入り込んだ血液は内膜と中膜の間に血腫を形成して血液が流れる内腔を狭くしたり、
血栓を形成したりして脳梗塞の原因となるのだ。



2つ目。

中膜にも傷がつくと、血液は中膜と外膜の間にも入り込んで両者の間を裂く形となり、
動脈が膨らんで瘤状になる(解離性脳動脈瘤)。

この薄い外膜が破れて破裂し血管外に出血すると、 脳動脈解離から出血しておきるクモ膜下出血ということになる。


脳動脈解離は脳梗塞を起こすこともあるし、クモ膜下出血を起こすこともある難しい病態なのだ。

だから医師が言っていた95%の方が亡くなるというのも、まんざら嘘でも言い過ぎでも無いらしい。



脳動脈解離のもっとも典型的なものは、

頚椎の骨の中を上行してきてうなじの部分を通り脳幹や小脳に血液を送る「椎骨~脳底動脈」に生じる(80~90%)。


通常、動脈に解離を生じた時点で、うなじの部分から後頭部にかけての比較的強い痛みが生じることが多いが、

頭痛の症状からは、偏頭痛や後頭神経痛、筋緊張性頭痛と区別することは不可能な場合が殆どだ。

くも膜下出血や脳梗塞になるケースは、痛みが発生してから数日以内に発症することが大半だが、

痛みと共に動脈瘤が発生し、無症状で終始する場合もある。



また、発病の平均年齢は40歳代で、男性に多いという特徴がある。

そこで、年令の若い世代に起こった脳梗塞やくも膜下出血などの脳卒中の場合、この病気を考えることになる。


僕の場合、倒れるまでの1週間位は左肩の痛みがあったのと、前日には頭痛と耳鳴りがあり、

また34歳という年齢からも、この典型的な例といえよう。




椎骨脳底動脈解離の原因として是非知っておくべきことは、

「頚部の強い運動やねじれと関連しておきるもの」が多いということ。


しばらく前にゴルフのスイングによる頚部運動が原因になりうることが発表されたらしい。

僕の主治医も「ゴルフ」や「ラグビー」は確かに止めていた。

スキーで転倒し頚部を強くひねった若者が、ひどい脳梗塞をきたして入院したこともあるみたいだ。

肩こりの治療のために頚部を強くひっぱったり曲げたりしたことが関係しているかもしれない、
という患者さんもしばしばみられるので、
僕が倒れる直前に行った「整体」や「針治療」が直接の原因では無いにしろ、
ひょっとしたら何か関係しているかもしれないのだ。



急におきた頭痛に様々な神経症状が加わっている時は脳動脈解離を疑うが、診断は必ずしも容易ではない。 

はじめは脳CTやMR検査を行うが、軽度の動脈解離はMRAでもはっきりしないことがある。

確定診断には脳血管撮影を行うが、これでも明らかな所見が判定できないことがあるみたいだ。 

症状が解離を示唆するのに検査ではっきりした所見がつかまらないときは、
1~2週間ほど時間をおいて再検査すると診断できることもある。



僕の場合もまさに最初に脳CT、次にMR検査、最後に脳血管撮影を行った。


頭を切られると思っていたあの手術は実は脳血管撮影で、
頭の中が熱くなっていたのは造影剤が原因みたいだ。




動脈解離の治療は、病態によって大きくかわる。



重症脳梗塞で発症した場合、

他の脳梗塞の急性期治療と同様に血流改善剤や脳保護剤等を投与するが、
解離部分そのものへの治療は普通はない。



僕の場合も薬は色々投与したが、解離部分には何もしていないと、主治医が言っていた。

血流が改善された結果、解離して血流を塞いでいた血管患部が、再び元に戻ったらしい。

裂けて剥がれていたものがくっついたのだ。

患部そのものへの治療なしに、再び元の正常な状態に戻る。

人間の身体は何ともすばらしいではないか。



頭痛あるいは脳梗塞で発症し比較的軽症の場合には、
通常経過観察または薬物療法となる。

高血圧に特に注意し、数ヶ月ごとにMR検査等で経過を見るのだ。 

こうした動脈解離のなかには自然治癒したり、何年も変化しなかったりするものが少なくないためである。 

経過をみていって、動脈解離が進行性に増悪する場合は、
その部分を親動脈ごと閉塞する手術を考慮し、
正常脳に行く血流を確保するためにバイパス手術を併用することもある。


最近では、血管の画像検査が進歩して、動脈解離がみつかる事が多くなり、

従来考えられているゆな珍しい病気では無い事が分かってきた。



②血管炎

③血管れん縮





◉出血性脳卒中--------------------------------------------------------------------------------

脳の血管が破れて出血するタイプの脳卒中。

以前は、脳の中に「血が溢れる」ことから脳溢血とも呼ばれた。

出血性脳卒中はさらに次の二つに分かれる。



◎脳出血

動脈硬化によって脳の血管が錆び付いてもろくなり、
高血圧などが原因で血管が破れて脳の中に出血を起こし、

出血によって生じた血腫が脳組織を圧迫して起こる病気。



◎くも膜下出血

脳は外側から硬膜、くも膜、軟膜という三つの膜に覆われていて、

このくも膜の下で軟膜の上(くも膜下腔)には血管と神経が入っている。


くも膜はそれら血管や神経を固定する役で、それによって血管や神経は脳脊髄液の中に浮いているのだ。

何故くも膜という名前かというと、この膜がまるでクモの巣のような細い繊維で出来た網状になっているから。

このくも膜の下にある動脈(動脈瘤)が破れて、くも膜下腔に出血するのがくも膜下出血だ。


症状は金属バットで殴られたような激しい頭痛、嘔吐、痙攣、首筋が固くなる頸部硬直など。

症状は一番重く、発症当初から昏睡状態に陥り数ヶ月目が覚めなかったり、
発症後の死亡率が40%と非常に高い恐ろしい病気だ。






●

「脳卒中」の分類は上記のようらしい。

では、一体「脳卒中」はどんな症状がおこるのか?



一般病棟にて…その8

●●●●

それは奇跡のように深夜に起きた。

8月31日の深夜だったから、話は少し前後する。



その夜はどんなに強く念じても
全く動かなくなってしまったボロボロの右手を暗闇の中でずっと眺めていた。


無表情で氷のように冷たく固く動かなくなってしまった右手。


何で動かないの。

いつその鎖が溶けて動き始めるの。

こんなに強く命令を送っているのに…。

本当に動かなかったらこれからの人生どうしよう…。

僕はどう生きて行くの?



そんな問い掛けにも無反応で冷酷な右手。


動け。動け。動け。動け。動きやがれ。

頭の中枢から強く横暴に、
そして絞り出すように祈りを込めて命令を投げ付けた。



すると、
暗闇の中でもチカチカ光るように、
人差指が僅かだが静かに動き始めた。

死んでいた者が息を吹き返しそっと眼を開けるように。

「動け!」と強く念ずると「ピクン!」とゆっくりだが微かに反応する。



あれ?
動いているぞ。


少しだけど僕の命令に確かに反応してくれる。

動け!と言うと人差指だけがピクンと折れ曲がってくれる。

他の指は動かないが、人差指だけが冷酷な呪縛から放たれ、息を吹き返した。



やったーーーーー!

やったぞーーーーーーー!!!!

指が動いたぞーーーーーーー!!!!!!



深夜に寝静まった病院だが、

CANや家族達、
当直の全ての看護師や医師達達、

今日は家で休んでいる医師達、
入院している全ての患者達も呼びつけて、
動くようになった事を見せたかった。



これだけだけど、動くようになったよ。

僅かだけど、僕にとっては大きな大きな一歩。

暗闇の泥海から這い上がれる希望の島。



やった。やったんだ。


涙で揺れる右手を噛み締めるように
ずっとずっと見つめていた。















●●●●

一般病棟に移ってから数日後。

僕が倒れた当初、医師に絶望的な事を言われていたのをCANから初めて知らされた。






「脳の大事な血管が裂けてしまい脳梗塞が起きてます。

 オペしても脳の血管から出血してしまい、

 死亡率の非常に高いくも膜下出血になってしまう。

 恐らく植物人間か…
 良くても右半身麻痺の車椅子生活で…

 身体に穴を開け、栄養はチューブから直接胃に…

 人工呼吸器を付けなければならず、その場合は呼吸器を外せずに言葉を失い…

 喉の部分を切開して痰を取る生活…



 普通の場合、お亡くなりになる方が多いです。
 
 非常に生存率は低く…95%の確率で亡くなられています。

 
 しかし、

 今回は稀なケースで…例を見ない…奇跡です。」




これを初めて聞いた時、あまりの凄惨な状況で僕の事ではないと思っていた。

しかし時間が経つにつれ、自身で感ずる身体の状況や
周りから聞かされる話で
それは僕の身体に徐々染み付いていった。

そしてそれがにじみ定着すると、ある考えがふと頭をよぎる。










ああ…



きっと…



生かされたんだ…










人が畏怖すべき大いなる力が存在するならば、
僕はこの力に生かされたんだな…と思った。

それは、目に見えぬ力が僕に何かを授けているような、
初めて感じる不思議な感覚。


君はまだこの世でやる事があるよ。
君が進むべき道はそっちじゃないよ。

だって、こんなに大きなショックでも与えないと
君は耳を傾けないでしょ。


そう囁かれている気がした。



僕の役割は何か。僕が成すべき事は何なのか。

僕に何を悟らせようとしているのか。

直感の糸を手繰る自問自答は繰り返された。



その答えはすぐ見付かるかもしれないし、
この先永遠に見付からないかもしれない。


たとえ見付からなくても、その問題提起が生涯心に残るならば

何かを探る様な新たな「眼」が僕の中に芽生え、

何かを受け取る新たな「器」が生まれたはずだ。


それだけでも得られるものは未曾有に広がる。


が、

きっとこの自問自答は生涯続くのであろう。