第2106段 九州の母を見舞ふ友
昔、男ありけり。今も男あり。
その男に友あり。
その友、筑紫の国は築上の郡は上毛町の出にて
三河の国は刈谷市に住みけり。
ふるさとに老いたる母ありて高齢となり
老人施設に入りたれど意識のあらぬ状態となり
駆け付けたれば友に成り代はりて
歌を
九州の 母の命を 一目見む
一目見むと 急ぎ行く友
と詠みけり。
歌の心は彼の斎藤茂吉翁の出世作である歌集の『赤光』の中の
連作の【死にたまふ母】の本歌取りなり。
今風に申せば本歌取りといふよりは
東北の古称の【みちのく】を西の地である【九州】に変へ
結句を一人称より二人称に変へたるのみではの批判と批評も
ありやと思ひしかど、その点に関してはその男、黙して語らず。