新編・伊勢物語 第千二百五十九段 出るに出られぬ蝉 星原二郎第千二百五十九段 出るに出られぬ蝉 昔、男ありけり。今も男あり。 その男令和元年七月の下旬 蝉時雨を聴きつつ 或る家の庭、コンクリートにて なりゐたりたれば かって庭木茂りゐて姦しきまで 蝉鳴きゐしたるを思い出でて 歌を 七年を 経て目覚むれば 頭の上に コンクリート覆ひて 嘆く蝉かな と詠み 井伏鱒二の小説「山椒魚」ではないが 水底の窪みにゐたりしが成長し 出るに出らぬ哀れなる山椒魚に 似たるとぞ覚えけり。