第千十六段 歯の治療中
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成三十年の秋の或る日
歯石除去のため歯科医院へと行きけり。
しかして、虫歯のあることが判り
治療する事と相成り
その治療中に歌を
眼閉ぢ 大口あけて 歯の治療
小心翼翼 高音に怯ゆ
と詠みけり。
古来より詠まれたる歌の数はそれこそ
膨大なる数と覚ゆれども
歯の治療中の作を寡聞にして知らず。
されば本邦初の作とぞ覚ゆ。
※ 小心翼翼とは、気が小さく臆病なる様子の
意にして小心者の態なり。
※ 高音とは勿論、歯を削る機械の発するいや音の事。