第千十段 誕生日のお祝ひメール
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、惚れたる女あり。
然れども、縁うすく別れし後も年に二度
それぞれの誕生日ごとにメールの遣り取りを続けけり。
即ち男の誕生日である五月五日と
女の誕生日である十二月二十五日なり。
平成の或る年の五月五日、
例年の如く女より
男のもとに祝ひのメール届きければ
お礼の返信メールに歌を添へて送りけり。
わが命 つきぬ時より わが胸に
生きます君の 消ゆるを怖るる
その後、女よりかへしの歌届きけり。
わが命 死ぬる時まで わが胸に
生きます君を なしとせなくに
男、そのメールを保存ホルダーに移し替え
いまさらながらに縁の薄きを恨みつつも
その<思ひ>大切と抱き続けけり。