新編・伊勢物語 第九百七段 母の今際 星原二郎第九百七段 母の今際 昔、男ありけり。今も男あり。 その男、四十一歳の折にたらちねの母を 静脈瘤破裂にて 今際に立会ひ その死を見取りけり。その折、歌を 言ひのこす ことのありやと 吾が問へば 否よといいひしが をはりとなりぬ いやはては 父にいだかれ 潮の引く 如くに安く 逝きたまひたり 花の中に 埋もれてゆく 母なれば わが悲しみは 堰を切りたり と 詠み 声をあげ、なげき泣きけり。