第八百七十五段 慰霊祭 其の弐
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、歌人の山川京子師を生涯の師匠と仰ぎけり。
山川京子師の御夫君の山川弘至氏は昭和二十年八月
八日、台湾屏塀東飛行場にて戦死せり。
慰霊の旅に同行し歌を
若き日の 君いまここに 現はるると
まなこ閉づれば 思はるるかな
献花みな 各々の思ひ 籠りゐて
頭垂りつつ 涙止まずも
志 なかばに斃れし 無念はも
いまさらさらに 悼み嘆かゆ
かの年の かの日の朝も 勤めむと
この広道を 行きたまひしや
バスの窓に 見やる屏東の 町並みは
変りてあらめど 飽かず過ごしぬ
と 詠みて山川弘至命の霊を天へと見送りけり。