第八百七十四段 慰霊祭 其の壱
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、歌人の山川京子師を生涯の師匠と仰ぎけり。
山川京子師の御夫君の山川弘至氏は昭和二十年八月
八日、台湾屏東飛行場にて戦死せり。
慰霊の旅に同行し歌を
台湾の 弘至命の 終の地を
訪はむ願ひは 今日叶ひたり
台湾の ここ屏東に 神上がり
ましける君を したひ来にけり
屏東の この地に立てば せぐる来る
思ひとめがたく わが身を緊むる
若き日の おん顔の うつしゑを
神前に拝して 祷り捧げぬ
天降りませ 弘至命の 和魂
われらはろばろ 海越えて来ぬ
と 詠みて、山川弘至命の霊を天より迎へ、
お慰めの祭りをとり行なひけり。