新編・伊勢物語 第八百六十一段 これの世とあの世の境に咲く桜 星原二郎 第八百六十一段 これの世とあの世の境に咲く桜 昔、男ありけり。今も男あり。 その男、筒井筒の親友を癌にて喪ひけり。 喪ひての後に平家の末裔であり、離婚経験者ながら 将来を誓ひし女人ありと知りけり。 友の墓参を済ませ罷らむとせし時、 その奥津城のほど近き処に桜ありて吹雪けり。 さすれば男、亡き友を偲びて 歌を これの世と あの世の境 すでになく 桜吹雪の たそがれをゆく と 詠みて 幽顕さだかならぬ ひと時を友と過しけり。