第八百三十七段 はがき歌
昔、男ありけり。今も男あり。
その男、平成三十年三月二十一日
伊予の国は松山市にある
松山市立子規記念博物館が公募の
第23回「はがき歌全国コンテスト」に
宛名を「明治生まれの亡き祖母」へのはがき形式に
歌を
冬来れば 祖母の大根の 膾こそ
食べたかりけり レシピ教へて
をそれこそ はがきに書きて応募し
入選通知を待ちけり。
歌の心、その男の幼少の頃
よく食うべし、大根と人参と干し椎茸の膾を
懐かしみ、祖母の味の再現に取り組みしかど
彼の味に至らず、また彼の味を知る係累縁者の
殆どが鬼籍に入りたれば、黄泉の祖母に
直接、訊ねるが最善と覚えての作なり。
されども終に入選通知は来たらず
表彰の日を迎へ、優秀賞、およびその副賞の
五万円分の旅行券を獲り損ね悔しがりけり。